尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

動物たちの大震災

2013年07月02日 21時53分34秒 | 映画 (新作日本映画)
 記録映画「犬と猫と人間と2 動物たちの大震災」を見た。東京では、渋谷ユーロスペースで5日まで上映。他でも上映しているところがある。数年前に「犬と猫と人間と」という映画があったのだが、割と最近見て人間の身勝手な姿に考えさせられた。前作を作った飯田基晴監督の弟子である宍戸大裕監督が、その続編的な今回の作品を作った。非常に衝撃的な映像や考えさせる論点を提供してくれる映画で、動物好きに限らず多くの人にお勧めである。

 宍戸監督は、被災した故郷の宮城県名取市が撮影しようとするが、津波で壊滅的な被害を受けた人々をなかなかとることができない。飯田監督から、石巻で動物を救う活動をしていた人と連絡が取れないと聞き、会いに行く。その頃から動物と震災、ペットを失った人々を撮り始めた。そこには犬好き、猫好きなら涙なくして見られないエピソードがいっぱいある。ある学校に避難した時に、ペットは中に入れないでと言われて表に犬をつないでおいたら、一階が津波に浸かるほどの高さだった。その学校では4匹の犬が死んだという。校舎や体育館に避難するとき、ペットは外につないでと言うのは常識的には理解できる指示である。そうは思うけど、結果として人間は生き残りペットは死んでしまった。それらの亡くなったペットを絵で残そうという試みがあり、昨年日本各地で「震災で消えた小さな命展」が開かれたという。去年の話だけど、全く知らなかった。今後第2回目が計画されているという。

 そういう津波被害による犬や猫の被害も心に残るが、それ以上の衝撃的なのは、原発事故で避難して中へ入れない地域に遺された動物たちである。この全く人間の間違いにより犠牲になった動物たちは、どのくらいいるか。登録されていた犬は、20キロ圏内で5700頭だという。未登録が半分近くあり、猫は犬より少し少ないというのが、大体の傾向だという。ということは、犬と猫を合わせて、避難地域に約2万のペットがいたと思われるということだ。突然いつまでとも言われず避難させられた人々は、自分の生活に必要な物さえ持ち出せなかったんだから、当然犬も猫も置き去りにされた。そういう動物にエサを与え、あるいは保護する活動を続けるボランティアの人々がいる。餓死する犬もいる。交通事故で死ぬ犬もいる。エサを求めて、中へ入る車に近づき轢かれてしまったんだろう。

 と同時に、この地域は畜産地域で、中に多くの牛が飼われていた。ペットと違い、産業用の家畜は外へ連れ出すことは全く認められない。飼い主が避難してエサをやれなければ、ついには餓死するわけだ。その餓死した牛が腐敗していく映像は、ちょっと見てられない衝撃の映像だと思う。残った牛は原則として殺処分にする。それを拒む人の中には、牛を放してしまった人もいて、放れ牛が野生化して子どもも生まれている。それに対して、生き延びた牛を飼う牧場を作った人もいる。そこに通ってボランティアする人もいる。その「希望の牧場」のことはホームページで見ることができる。これをどう考えるべきか。僕には答えが出ない。原発事故なき場合には、すでに肉にされていたはずの牛である。ペットではない。でも、「いのち」である。それは間違いない。人間の都合で餓死させていいのか。実際に餓死した牛の映像を見ると、残ったいのちは救いたいという気持ちもよく判る。でも、もう屠場行きだった年を超えて人間が世話していく必要があるのか。他に困った人は多いし、人間が責任を持つべき犬や猫を優先すべきだという気もする。僕は答えが出ない。

 僕は猫を飼ったことがない。犬はある。だから犬派。置き去りにせざるを得なかった犬が飼い主にめぐり合う姿を見るのはとてもうれしい。震災ボランティアに行ったとき、僕も津波で死んだドーベルマンを埋める手伝いをしたことを思い出した。大型犬の上、毛が波を吸って、ものすごく重かった。被災地の犬も、人間を頼りにし、人になついているようだった。でも、中にはやり場のない悲しみをペットに向ける飼い主もいるということをこの映画で見せられる。残念ながらそういうこともあるだろう。動物を可愛がるためにではなく、うっぷんをぶつけるために飼う人もいる。そういうことも含めて、「動物たちの大震災」は他人ごとではない感じがした。多くの人が亡くなり、多くの人がまだふるさとに帰れない。そんな中でペットを失った悲しみは、あまり大きく訴えられないという気持ちになるのも当然だ。しかし、そういう悲しみを持つ人々の声を伝えてくれる映画ができた。今度はそのことで元気になれる動物好きの人がたくさんいると思う。
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