玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

日本国憲法を否定する立花隆

2006年07月23日 | 政治・外交
「日本共産党の研究」「宇宙からの帰還」の頃の輝きは今いずこ。劣化の止まらない立花隆がまたやらかしてくれた。

立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」 - 第78回 靖国参拝論議に終止符 天皇の意思と小泉の決断
 昨日(7月20日)の日経新聞の大スクープ、

「A級戦犯靖国合祀
昭和天皇が不快感
参拝中止『それが私の心だ』」

にはビックリした。

昭和天皇が当時の宮内庁長官、富田朝彦氏(故人)に語ったことが富田氏のメモでわかったのだが、まさかこのような大資料が今日まで眠ったままでいようとは思いもよらなかった。

テレビが映し出した小泉首相の心の動揺
しかし、このニュースに接したときの政府当局者たちのうろたえようといったらなかった。

みっともないの一語につきた。一応何でもないようなふりをしてみせたが、内心の狼狽ぶりは隠しようがなかった。
(中略)
 しかし、セリフはいつもと同じだが、表情はいつもとちがっていた。異様にこわばった表情だった。あんな異様な表情の小泉首相の顔は、これまで見たことがない。もしかしたら、よくない病気にかかったのかもしれないと思うくらい、それは変な表情だった。

私には小泉総理の表情は全く普通に見えた。立花隆がいったいどこに「変な表情」を見てとったのか見当もつかない。立花氏は眼科に行って検査してもらったほうがいいのではないか。

靖国参拝反対は天皇の意思
 さて、昭和天皇の明々白々なA級戦犯合祀に対する不快感表明によって、一言でいうなら、靖国問題は、決着がついたといっていいと思う。

あの乱雑なメモのどこが「明々白々」なのかと不思議に思う。「昭和天皇の意思」(?)によって政治問題化した「靖国問題」の決着が付く、というのも訳がわからない。この人は日本国憲法を読んだことがないのだろうか?

天皇絶対主義の時代はとうに終わったとはいえ、天皇発言の持つ影響力はいまだに日本の社会においてきわめて大なるものがある。

天皇は自己の発言力の大きさを十分すぎるほど知っていたから、いまの天皇も、先代の天皇も、できるだけ自分の個人的な意思を表現しないようにしてきた。

戦後、天皇が意識して影響力を行使したことはない。天皇にはもちろん天皇個人の意思があるだろうが、天皇はそれを傍目から全く見えないように見事に隠してきた。しかしそれだけに、今回のように、個人的意思がたまたま外にもれ出してしまうときには、その意思がより一層の影響力を持ってしまうものである。天皇の意思と一般社会の意思がぜんぜん正反対に食いちがっているというならともかく、そうでなかったら、天皇の意思の方向にことは動いていくだろう。

日本国民の多くは立花隆より賢いので、「昭和天皇の意思」と「自分の考え」を切り分けていると思う(そう信じたい)。むしろ「公表を控えていた『ご意思』を引っ張り出して政治利用しようとする勢力」への嫌悪感のほうが強くなるはずだ。


それに対して、小泉首相が、

「天皇の心は天皇の心だ。それに対するに私の心が正反対の方向を向いていてもそれはそれでかまわないではないか」

として、あくまで靖国参拝を貫くか、といえば、そうはならないと思う。

天皇の意思としてこれだけ明確なものが出てきた以上、国民の大多数は「A級戦犯合祀に反対」「A級戦犯がまつられている靖国神社への首相の公式参拝反対」の声が圧倒的多数派になるのは、時間の問題だと思う。

立花隆は「日本国民の心は戦前の『臣民』と同じだ」と思っているのだろうか。ずいぶん戦後民主主義を馬鹿にした話だ。私は全く同意できないし、思想信条の自由を常識としている日本人は「天皇の心は天皇の心だ。それに対するに私の心が正反対の方向を向いていてもそれはそれでかまわないではないか」という考え方を当然のこととして受け止めるだろうと思う。

敗北感に打ちのめされた小泉首相
(中略)
 参拝した場合、中国や韓国からの反発を招くという程度のことであれば、小泉首相は平気の平左で、そんなものは無視しただろう。しかし、自分のプランに対する主たる反対者が亡くなった天皇の言葉ということになると、小泉首相としても、それに対抗しようがない。

それを平気に踏みにじることもできないし、相手との折衝で抜け道を見つけることもできない。要するに、対抗手段がないのである。

これが小泉首相が敗北感に打ちのめされた理由だろう。

「亡くなった天皇の言葉」に内閣総理大臣が「対抗しようがない」というのが仮に事実だとして(私は認めないけれど)、それをさも嬉しそうに囃し立てる立花隆の異常さに慄然とする。この人は小泉憎さのあまり象徴天皇制を捨てて明治憲法に回帰するつもりなのだろうか。
立花隆は個人の内心の自由に何の価値も認めていないようである。大御心の前に内閣総理大臣は恐懼して従うのが当然であり、「昭和天皇のご意思」に背いて靖国神社に参拝するのは逆賊だといわんばかりだ。狂信的な右翼でなければ言えないような天皇絶対化思想を(たぶん自覚なしに)主張する立花隆は全くどうかしている。

私は小泉総理と同じく、靖国参拝は個人の心の問題であり参拝するかどうかは自由だと考えている。
もし小泉総理が「昭和天皇のご意思」に影響を受け参拝しないことを選ぶならそれはそれでいい。「昭和天皇と自分は別だ」として参拝するのも自由だ。どちらにしても「敗北」したわけでも「勝利」したわけでもない。
立花隆のように内心の自由の問題を「勝った、負けた」でしか判断できない輩は汚らわしい俗物である。

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24 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (生粋)
2006-07-23 03:49:39
批判のための批判によく見られる傾向ではないでしょうか。こういう批判は自らの立ち位置が対象に依存してしまいがちです。



小泉憎しで反靖国なのか、反靖国の為参拝をする小泉が憎いのか分かりませんが見苦しいの一言に尽きると思います。
Unknown (KAZ)
2006-07-23 03:52:18
参拝の問題にしてはおっしゃる通り



もう一つ忘れてはいけないのは、あのメモで特定アジアが大喜びだけど、総理大臣の参拝がこれで無くなっても、それが特定アジアの意向に沿った物では無く、「日本」の天皇家の威光によるものと解釈される事を理解してるのだろうか?



特定アジア、特に中国による日本の属国化がまた一つ潰えたのだと考える。

スカッとしました。 (冷凍力)
2006-07-23 03:58:12
全くその通りです。立花隆ってゴリゴリの戦後民主主義者の堅い護憲派知識人だと思ってましたが、全然違ってました。以前東大の客員教授だかなんだかつとめてましたっけ。こんな支離滅裂さでよくつとまりましたね。三笠宮殿下の”自分の家”に関わるささやかな発言さえ、皇室は政治的発言するな!と蛮勇で押さえつけようとした朝日新聞は鬼の首でも取ったように報道して(トーンダウンしてきてますが)、”皇室の政治利用”をいとも簡単にやってしまう。無節操の典型例として反面教師にしたいと思います。
天皇を利用して小泉叩き (カァ)
2006-07-23 04:01:05
はじめてカキコします。



>この人は小泉憎さのあまり象徴天皇制を捨てて明治憲法に回帰するつもりなのだろうか



 明治憲法下でも御内意にそぐわないこともありましたし、昭和帝ご自身が機関説を当然と思われていた様ですので、「象徴天皇制Vと明治憲法」というより、「絶対君主制と立憲君主制」の方が的確かと思います。



 揚げ足取りですみません。



 玄倉川様は結構リベラルな方の様に感じられまして、私とは立ち位置が違う様に思いますが、最後は同じ様な意見になっています。不思議です。
…本当にインテリなのか? (sophnuts)
2006-07-23 08:38:06
少なくともインテリジェンスは感じませんね。

反小泉のために、中学生でも習う憲法を失念するとは…
Unknown (MM)
2006-07-23 08:42:14
このメモって独白録と一緒で松岡が嫌いでしたって

裕仁天皇が内心を漏らしただけでしょ?

#メモが本物と仮定してですが

それで右往左往してるのを見ると、いつから先帝独裁国家になったんだろうかと思っちゃいますね。

思うに、そんなメモが政治的に意味があるなら今上陛下がどう考えてるかの方がよっぽど大事なはずなんだけど。



先帝だろうが、今上帝だろうが、どの天皇がどう思っていようが、それによって国民の思想信条が抑制されるなんて憲法違反はあっちゃならんのですがね。
結局、これって (nono)
2006-07-23 09:05:04
晩節を汚す、という表現がぴったりな最近の氏です。

でも昔から朝日的な見解のお先棒を担いだコメントを出していましたね。

新聞社が表立って言えない希望を先取りしてコメントする、という役割を忠実にこなしている点では一貫しているのかも。イタイですね(笑)

逆に言えば氏の主張は、今回のスクープなるものを演出した人達の望んでいることなんでしょうね。アホクサ
Unknown (+)
2006-07-23 13:39:50
うちの父が立花とまったく同じような反応をしていました

普段は「意味が無いから」と天皇制不要としている人でしたので、びっくりしました

特定の年代より上には、天皇という存在はかなり大きいようです



今回のメモ発見ですが、誰が何の目的で行ったのでしょうか?

単純に考えると小泉-阿部陣営の弱体化ですけど

立花(や自分の親)の反応を見るにつけ、天皇制に政治力を持たせたい人かも知れないと思っています
Unknown (草葉の陰)
2006-07-23 17:13:59
>「日本共産党の研究」「宇宙からの帰還」の頃の輝きは今いずこ。



同感です。小生も玄倉川氏の揚げた2著作に感銘を受けたものですが・・・。

思えば「サル学の現在」が最後の輝きだったような気がいたします。



立花隆、汝はや老耄せしか。残念!

ゴーストライターと喧嘩でもしたのでしょうか (安部奈亮)
2006-07-23 18:58:00
紙の具合とか、インクの変色具合とか、前の文章との繋がり具合とかを検証することこそ立花氏の役割でしょうに、それら得意のマニアックな検証を抜きにしていきなり日経記事の全肯定から文章をスタートするなんて情けない話ですね。



身体でも悪くして、粘り強い思考に身体がついて行かなくなったのか、それとも昔の業績も実は「プロジェクト立花隆」であって、この人個人の業績ではなかったのか・・・