玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

詩人と凡人

2006年12月08日 | 日々思うことなど
多くの2ちゃんねらーはてなブックマーカーのあいだで笑いと感動の嵐を巻き起こした「姉ポエム」がついに書籍化される。実にめでたい。

MouRa|姉、詩集|『姉ちゃんの詩集』緊急発売!

彼女の詩の素晴らしさは読めば誰にでもわかる。
天才の作品に注釈をつけるような真似はおこがましいけれど、「ああ、これはかなわない」と感じたことを一つだけ書く。

シャーク
サメも強い
サメになる
サメになって 世界を見てくるね
一緒に来るかい?
フフフいいよー!!
旅は道ずれ!ね!

「サメも強い/サメになる」
なぜ?という問いを許さない、有無を言わせぬ言葉の力。
何と野蛮な!実にすばらしい!!
感性と言葉がいきなり結びつくところに詩が生まれるのだ(たぶん)。
自分のように感性が鈍くて頭が悪いくせに理屈っぽい凡人には真似できない。

養老孟司が現代人の思考法は「『ああすれば、こうなる』の考え方」だと言っていた。世の中の物事をゲームのように見立て、「ユニットの能力」「ゲームのルール」を知っていれば現代社会で大抵のことはうまく行くのだ。科学技術も「ああすれば、こうなる」の思考法がなければ発達しなかったろう。
だが、生きている実感というのは「ああすれば、こうなる」とは別次元のものだ。
根拠なく大風呂敷を広げると、自殺の多さもいじめの蔓延も、「ああすれば、こうなる」の思考法が日本人から生の実感を奪ったせいだ。

サマーの詩は「ああすれば、こうなる」の正反対である。
次の行に何が書かれているか誰にも予想できない。
それなら単なるデタラメなのかというと決してそうではない。
ただの機械的なデタラメならこれほどまで読者の心を動かすことはできなかったろう。
ナンセンスな・切ない・ほのぼのとした多くの詩を読み大笑いした後に一人の少女の存在をはっきりと感じる。

何か文章を書こうとするとき、接続詞に囚われた意識にうんざりすることがある。
「だから」「けれど」「そして」「また」
対象を概念化しすぎて、意識の中で操作可能なパズルのピースとしてしかとらえられない。
もし自分がサメについて詩を書くとしたら、
 サメは強い、「なぜなら」体が大きくて歯が鋭いから
 サメは強い、「だから」威張ってる
 サメは強い、「けれど」実はクラゲが苦手
というふうに接続詞意識を捨てられないだろう。まさに「ああすれば、こうなる」だ。
頭で考えている、理屈に囚われている。実につまらない。

サマーの詩には理屈がない。
「サメは強い『だから』サメになる」のではなく「サメも強い/サメになる」のだ。
因果関係やありふれたレトリックを軽やかに無視して、生き生きした感性が鈍重な言葉の尻を蹴飛ばす。
怠け者の言葉たちのご機嫌伺いをせず、己の詩想のために言葉をこき使う。
凡人にとっては足首に付けられた錘のような自意識を、手毬のように軽やかに楽しげに宙に遊ばせる。

まったく、詩人にはかなわない。

コメント (4)   この記事についてブログを書く
« 嗚呼、平沼美作守 | トップ | なぜか腹立つ日曜日 »
最近の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
詩の世界 (G.R.)
2006-12-08 08:02:34
 金子みすずを彷彿とさせますね。
 時代背景とか作風ということで比較するのは野暮ってもんでしょうけど、そのへんを語りたくてうずうずしてしまう私は凡人のきわみだなぁ。(笑)
Unknown (trigo)
2006-12-09 01:11:35
なんというかすばらしいエントリーだと思いました。
サマーに寄せて (モノリス)
2006-12-10 11:22:24
このエントリーで初めて『姉ちゃんの詩集』の存在を知りました。リンク先の2ちゃんのログを読みました。笑えました。涙が出るほど笑えました。実に瑞々しい感性と巧まざるユーモアセンスです。確かに玄倉川氏の言うとおり「一人の少女の存在をはっきりと感じ」ますね。
本当ですか (安部奈亮)
2006-12-10 23:02:32
 最近のネットで起きることはどこまで本当でどこまで悪戯格別が着かなくて恐いのですが、玄倉川さんも取り上げたということはどうやら事実と信じて良さそうですね(笑)

 もし2ちゃんねるに書かれていた内容が事実であるならば、本人の断りなく作品を発表して、盗作される危険にさらした弟氏の行為はかなり問題があると思うのですが、ここまで来ると、瓢箪から駒、良かったのかもしれません。

 私は彼女の詩を読んで初めて現代詩に感動しました。しかしダークな内容の詩もきちんと掲載されているのでしょうか、あの天真爛漫と黒さの絶妙なハーモニーがないと価値半減です!

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

日々思うことなど」カテゴリの最新記事