先週来、幸いにしてオヤジも安定している。
社業はじめ日々が慌しく過ぎるが、束の間彼の地スウェーデンから一時帰国されている釣友との再会を果たす意味でも今日の海はどうしても行きたかった。
終日凪の予報。前回釣行から大よそ3週間。釣りに行けなかった間、漁協の山下さんによると緩やかに上昇傾向にある夏の富浦と聞いている。
予定時刻に港へ着くと既に彼はスタンバイを済ませ待機。
再会を喜び合い、しばし互いの近況報告を交えながら出船までの間、話に花が咲く。
天候は花曇りで上々。いつもの1番筏へと渡りスタンバイを済ませ一服。
今日は、ここへ来る理由がもう一つあった。
今冬から大切にしまっておいた小袋。
丁寧にそっと開封し緩やかに吹いている北東風に乗って凪の海にサラサラと顆粒が溶け込んでいく。
これで叔母ともお別れ。
これでようやく叔母との約束と責務を果たせた。
今日は満潮が6時半~干潮が昼過ぎの後中潮。水温は21,3℃。
釣り始め団子を打ちながら様子を伺うと、右から左へ港向いにゆったりとした素直な潮流れ。
先ずはいつもの道具で打ち返していく。
特に朝の小一時間は、その後の一日の釣りの流れを崩さない為にも、来れば必ず仕留めたい思いがあるのだが徐々に潮流れも重く速くなってきたので細糸仕様のロッドマネージメントも頻繁に行なう。
底はボラアタリがチラホラ程度の中、右~左への潮が緩み始めた10時過ぎ。
今一つ活性の上がらない様子に「攻め」るよりも「待ち」の釣りを試みると、穂先を押さえ込むアタリで32cmの黒に肩の荷が下りる。この頃になると風向きが変わり、終日花曇り予報であった空模様が暗くなり始め霧雨がつける。
叔母の涙雨が天から降ってくる様だ。
ひとしきり降り続いた霧雨が止むと再び抜ける様な夏空が顔を出す。
不思議だった。
昼前になり先の雨で扱いの悪くなったコマセを作り直し小休止を入れる。
一日の釣りを構築する中で団子ワークにはじまり、潮を読み、見えぬ海中の様子を想像し攻めの組み立てを瞬間瞬間模索する悦楽。すなわちリズムが大切だ。釣りは己の鍛錬を映し出す鏡。獲物の数や型だけでは図りきれない”自分の釣り”を構築するには、如何なる時でも「愉しむ」気持ちを忘れず心の底から「今」と言う与えられた時間を慈しみ取り組む事に尽きると思う。
そして好きな釣りが心置きなく出来る「環境」をしっかりと創り出す事が一番大切であると言う事は異を待たない。
昼前になり沖への潮流れも俄然速くなり細糸をもってしても釣辛い状況が続く。
その潮も14時頃になり緩み始めてきた矢先、どうにも居食いっぽいアタリに中々掛け合わせる事が出来ずにいるが、アノ手この手で攻める夢中になれる時間が何とも愛おしい。
穂先を見つめる目には陽光の照り返しでたゆたう水面の乱反射がまるで万華鏡の如し。
ふとカセを見やれば彼が竿を絞り込んでいる。
掛けてからの竿捌き。”矯め”~”巻き”そして、”あしらい”の一連の動作に無駄がないそのヤリトリの優美さが、傾きかけた西日に映える。
釣り姿が実に美しい。しばし見惚れているとタモに収まったのは良型の黒。釣り姿が綺麗な人はやはり釣りも上手い。
俄然こちらもやる気が出てくる。
そして完全に潮は止まった。以前であれば魚っ気が無くなる潮と見切ってしまう処だが、先程からの居食いっぽいアタリの連発に「何か」を感じ取っていた。
濃密かつ濃厚な時間が過ぎていく。1投ごとのインターバルも長い。
ボラアタリすら皆無の状況の中、手探りで答への間合いを詰めていく。こんな時、派手な誘いはご法度。
団子を打ちラインをつまみ「そっと」餌抜きをし、這わす。
一瞬穂先が「・・っきゅっ・・」となり数秒待つと「・・っつん・・」。穂先をそっと訊いてくると「・・っぎゅんっ!」
快心の合わせが決まり魚が乗った!
魚も体力を回復した様で、その引き味も上々。
細糸ならではのスリリングなヤリトリを堪能しつつタモに収まったのは38センチの黒。
ようやく2枚目が獲れた事に気を良くし同様の攻めで繰り出すが、間合いが合わずこの後2枚をバラしてしまう。
あと少し・・・港からは迎えの船がこちらに向っているのが見える。
残念ながらタイムアップだ。
夏の海とは言え、攻めは繊細で冬の釣りの様な様相だった午後のひと時。
少ない釣果なれど納得のいく一日だった。
帰宅し、日頃使い慣れた道具達をいつも以上に念入りに洗い手入れを施しながら、釣り場での過去の様々な思い出と共に道具を仕舞った。
オヤジの事もあり、今釣行をもって今夏の富浦は一先ずお休みします。
これからがハイシーズンの富浦。これをご愛読頂いている皆様におかれましては、どうか熱中症などには十分に留意頂き
”夏の富浦”を存分にお愉しみ下さい。
秋口に再び皆様にもお会い出来るのを楽しみにしております。
どうか良い釣りを! VON VOYAGE!