万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ペロシ下院議長がすべきは台湾核提供法案の採択では-何よりも強力な抑止力

2022年08月09日 10時45分44秒 | 国際政治
今年の8月6日、日本国は、人類史上初めて大量破壊兵器として広島に原爆が投下されてから77年目の日を迎えることとなりました。過去の原爆投下への反省、並びに、ウクライナ危機で高まるロシアによる核の先制使用への懸念から、この日に広島で開催された「平和記念式典」に参列した国連のグテレス事務総長も、8日に設けられた日本記者クラブの記者会見の席で、核保有国に対し「核の先制使用は絶対しないということを約束し、核の脅しをしないよう求める」と述べています。

この日に先立ってニューヨークで開催されたNPT再検討会議でも、日本国の岸田文雄首相は、核の不使用を「ヒロシマ・アクション・プラン」の第一プランとして位置づけています(因みに、創価学会の名誉会長も核の先制不使用の誓約を核保有国に求める緊急提言を行っており、新興宗教団体と超国家権力との関係を示唆している・・・)。何れの提案も、核の先制不使用を核保有国の自己規律に求めているのですが、自己拘束の脆弱性については、誰もが経験から知るところです。特に、自己や身内の生命、身体、財産に拘わるような重大な危機に直面した場合には、日頃の言葉は当てにならない場合は少なくありません。しかも、詐欺師のように最初から相手を騙すつもりで、‘自分は絶対に○○しません’といったような心にもない口約束をするケースもあるのです。中国に至っては国際法さえ平然と破るのですから、自らの行動を縛るような口約束や誓約などは、わずかな水面の揺らぎでも一瞬にして消えてしまう泡のごときなのです。

となりますと、核の先制不使用をより確実にするためには、自律ではなく‘他律’を要するのは言うまでもありません。核兵器の先制使用のリスクを実質的に低減させるには、外部から抑止するしかないのです。この厳粛なる事実に鑑みますと、核兵器の抑止力の活用は理に叶っています(ミサイル防衛システムや他の核兵器無力化テクノロジーは未だ開発段階・・・)。核兵器は、最大の破壊力を有する故に、最大の抑止力をも備えているからです。破壊力と抑止力とは表裏一体であり、前者に対する後者の効果をより高めるためには、むしろ、抑止目的における核保有を増やす必要さえあるのです。

NPT第10条は、NPT体制が‘平時の体制’であることを示していますので、有事、あるいは、有事となるリスクが高い場合には、自ずと同体制は消滅せざるを得ません。核保有国と非核保有国との間で戦争に至った場合、非核保有国は、アンフェアな状況下にあって‘絶対に勝てない戦争’を戦わざるを得なくなるからです(非核保有国の通常兵器での優勢は核保有国の核兵器使用で逆転されてしまう・・・)。

核の抑止力の重要性に思い至れば、真に中国による台湾侵攻を止めようと考えているのならば、ペロシ米下院議長がすべきは、台湾を訪問することではなく、本国の議会にあって台湾に対して核の傘を確実に提供するための法案を成立させることであったように思います。米中国境正常化の後、米台間には「台湾関係法」が成立しており、両国は、事実上の軍事同盟関係にあります。同法により、アメリカは台湾に武器を提供でき、同武器に核兵器を含めることもできる状態にありますので、新たな法律は、これを確実にするための二重保障となりましょう。

その一方で、台湾の武力併合を公言している中国は、アメリカが台湾に対して核兵器を提供するはずはないと思い込んでいる節があります。おそらく、台湾への核兵器供与については、アメリカ国内にあっても十分には議論されておらず、敢えて曖昧のままにしておくという戦略を選択しているのでしょう。そしてそうであるからこそ、台湾危機に直面する今日、アメリカは、議会による立法であれ、大統領の声明であれ、中国に対して、仮に軍事侵攻計画を実行に移した場合には核による報復があることを明言しておく必要がありましょう。米ソ冷戦時代のように、超大国である核保有国相互の間では、相互確証破壊の論理が作用する可能性が極めて高いのです。

もっとも、同法案の成立をめぐっては、アメリカ国民の命にも関わる議論となるだけに、慎重論や反対論も予測されましょう。親中派議員等による妨害のみならず、アメリカの提供した核の傘は開かないと踏んだ中国が台湾に侵攻した場合、台湾のためにアメリカが中国から核による報復攻撃を受ける覚悟を問われるからです。仮にアメリカが従来通りの曖昧戦略をとるならば(核の傘が開かない可能性が高い・・・)、台湾は、自らの核武装を急ぐ必要があるかもしれません。台湾国内には原子力発電所が稼働していますので(プルトニウムの貯蔵・・・)、同国の科学技術力をもってすれば、台湾は、自前で核爆弾を製造することができましょう。

何れにしましても、台湾危機にあって急ぐべきは、中国を挑発することでも(意図的?)、道義心に訴えて中国に対して核の先制使用を求めることではなく、同等の物理的な力を以てそれを外部から止めることなのではないでしょうか。そしてそれは、間接的ではあれ、アメリカ、あるいは、米中両国を背後から操る超国家権力体の本心を人類の前に明かすことでもあると思うのです。

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