万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南北融和演出が北朝鮮の“事実上の降伏”の可能性-面子の問題?

2018年03月15日 15時49分10秒 | 国際政治
トランプ大統領、国務長官解任=後任にCIA長官―米朝会談前に外交新チーム
 米朝首脳会談の行方については、日韓への北朝鮮の核攻撃のリスク等に鑑みて、アメリカが、核・ミサイル開発の凍結で手を打つのではないかとする見解があります。国内外の識者の議論を見ますとこの立場の人々が散見されますが、果たして、この観測通りに北朝鮮危機は収まるのでしょうか。

 トランプ米大統領が、仮に米朝首脳会談によって両国間の緊張を大幅に緩和し、軍事制裁のオプションを見送る決意を固めているならば、ティラーソン国務長官を更迭する必要性はなかったように思えます。同氏こそ、トランプ大統領とは不仲とはいえ、対北融和路線を先導してきており、対話路線を選択するならば、最も相応しい国務長官であったからです。替って国務長官に就任する共和党所属のマイク・ポンペオ氏は米陸軍出身であり、情報収集の中枢であるCIAの長官をも務めています。同氏が対北強硬論者でもある点を考慮しますと、この人選は、対北軍事制裁のシナリオと高い親和性を示しています。ここに来て、マティス国防長官と並んで国務長官もまた軍出身者で固められたことになり、トランプ政権の布陣は対北軍事攻撃を強く示唆しているのです。

 その一方で、南北会談後の韓国と北朝鮮は、一気に融和の方向に向かって走り出しています。韓国の特使団は、トランプ米大統領に対して北朝鮮には朝鮮戦争の終結を意味する平和条約の締結等の準備があることを伝えたとされており、予定されている米朝会談も、南北が敷いた融和路線の延長線上に位置づける見方が大半です。しかしながら、トランプ大統領が既に軍事制裁に向けた決断を下しつつあるとしますと、南北両国の動きは、別の思惑があるとする見解も成り立つように思えます。

 その別の思惑とは、両国が協力して一芝居うつことで“北朝鮮の面子を保つ”、と言うものです。北朝鮮としては、米軍の軍事的圧力や経済制裁に屈する形で検証可能な核放棄に応じるのでは事実上の敗戦を意味しますので、人心の離反等により“金王朝”という名の軍事独裁体制が崩壊しかねない状況に陥る事態も予測されます。そこで、同じ核放棄に応じるにしても、南北融和や国際平和を表看板に掲げれば、体制に対するダメージを最小限に留めることができると考えたかもしれません。また、国際的にも、金正恩委員長は、自発的に平和的な解決を実現した為政者として、文大統領と共に称賛を受ける可能性さえあります。言い換えますと、アメリカをはじめとした国際社会が軍事・経済両面における制裁強化によって北朝鮮を検証可能な核放棄に追い詰めたその努力や功績を、北朝鮮は、最後の土壇場で自らの“手柄”にすり替えようとしているとも推測されるのです(実際には、自ら危機を造りだしたものの、手痛い抵抗に遭い、自らそれを止めざるを得ない状況に至ったに過ぎない…)。

  上記の見解は憶測の域をでませんし、北朝鮮の核・ミサイル開発の進捗状況に関する情報が不足している現在、米朝会談が、冒頭で述べたように核・ミサイル開発の凍結に終わる可能性も否定はできません。しかしながら、アメリカの動向と平行して南北両国の動きを観察しますと、南北融和の演出は、むしろ、北朝鮮による検証可能な核放棄の受託への事前準備であるとする見方もあながち否定できないように思えるのです。

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