万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の防空識別圏問題のトーンダウンに注意を

2013-11-30 15:53:50 | 国際政治
「中国戦闘機が緊急発進」=空軍発表―防空圏で「日米機確認」と主張(時事通信) - goo ニュース
 中国政府が東シナ海上空一帯に防空識別圏(ADIZ)を設定したことで、東アジアの緊張が一気に高まりましたが、昨日頃より、中国の強気の態度はやや軟化しています。中国側の弱気に呼応するかのように報道もトーンダウンし、防空識別圏問題も、航空機の事前通知や防空識別圏の重複問題に矮小化されていますが、中国の野心を考慮すれば、危機が去ったとは言えない状況にあります。

 第1に、ADIZの設定については、確かに、国際法に明文の規定があるわけではありません。しかしながら、どの国も、常識的な判断から他国の領空やEEZ上空に張り出して設定することは、極力控えています(現在、10か国程が設定…)。中国もまた、東シナ海上空の日中中間線程度の範囲に留め、日本国側のADIZと重複しなければ、これ程には問題視されることはなかったことでしょう。尖閣諸島を含み、かつ、必要以上に沖縄付近までに張り出したゾーンの設定が、覇権主義的行為とみなされたのです(大陸棚延長の主張と連動か?)。仮に、一方的な設定が無制限に許容されるのであるならば、地球上の全空域を自国のADIZに設定することも許されてしまいます。

 第2に、日本領である尖閣諸島の領空にまで中国がADIZを設定したことは、戦争の発火点となる可能性が格段に高まったことを意味します。仮に、中国の軍用機が尖閣諸島の領空に接近した場合、日本国の自衛隊機はスクラブルをかけますが、今回のADIZの設定によって、日本側の警告を無視する可能性があります。また、逆に、日本国の自衛隊機が尖閣諸島領空に接近した場合に、中国機がスクラブルをかけてくるかもしれません。そして、両国の軍用機が接近する状況で、警告を無視して中国の軍用機が尖閣諸島上空を飛行した場合、並びに、日本国の自衛隊機が尖閣諸島上空を飛行した場合の両ケースにおいて、双方のどちらかが相手機を撃墜する可能性があるのです。

 第3に、中国政府の発表によれば、ADIZを飛行する航空機に対しては、「指令に従わない航空機には武力で防御的な緊急措置」をとるとしていることです。”スクラブルをかける”ならまだしも、この強圧的な表現では、尖閣諸島の領空のみならず、ADIZ一帯を”領空化”し、武力行使を示唆するものと受け取られます。中国国内では、対日開戦論が熱気を帯びていますが、国民の不満と習政権の弱体化を考慮しますと、中国が、今回の措置で、開戦のチャンスを意図的に造りだしているとする憶測もあながち否定はできません。否、何時でも攻撃準備はできていると、日米を脅したとも考えられます(昨日のネット情報によると、中国側は、ADIZの設定は、日本国をターゲットにしていると説明…)。

 第4に、国連海洋法条約の第87条では、公海上については、上空飛行の自由を定めています。一般のADIZ設定国は、安全のために民間機の事前通告を求めるのみですので、中国軍による一方的な管轄権行使は、この条約に違反します。しかも、軍用機にまで事前通告を求めるとしますと、もはや、ADIZの役割を逸脱しています(本来は、民間機の航路等を事前に把握しておくことで、軍用機を識別するシステム…)。

 以上の諸点を考えますと、中国の野望には今なお警戒が必要です。中国が、普通の国であるならば、ADIZに関する国際ルール造りの場を設けることで対処することができますが、法の支配を無視する中国が、こうした平和的な呼びかけに素直に応じるとは思えないのです。

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4 コメント

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Unknown (ねむ太)
2013-11-30 22:10:38
こんばんは。中国の防空識別圏の問題と1992年に領海法を作り尖閣を領土だと主張した事の関連性に付いて誰も口にしない方が気になります。
明らかに領海法の強化と海警の船舶を援護する目的です。
中国の尖閣・沖縄に対する侵掠の意図が明確であるにもかかわらず、「尖閣は棚上げで合意している」「尖閣は棚上げにするべきだ」等と寝惚けた元外交官・孫崎享、ルーピー鳩ポッポは外患誘致罪で処罰するべきでしょう。
また、日中韓で歴史教科書の統一などと馬鹿な事を言って喜ぶ、救いがたい連中も公職追放しなければなりません。
歴史問題は、それぞれの国の視点で語られるものであり、関係のない第三国の事ならいざ知らず当事国同士で共通した認識を持てるはずはありません。
そのような、当たり前の常識すらない素人でも政治家になれる事こそ民主主義の危険性を証明しています。
我が国のエリートとされる人間の大半は、先生の言いつけをよく守り成績の良い人間が占めています。
国会審議などを見ていても、小学生並みの綺麗事に終始し、国家の安全保障や国民の生命財産を守る為には水面下での激しいやりとりや、情報を加工したり、わざと流し相手を混乱させたりするダーティな面がある事を知らなすぎます。
特定秘密保護法に反対するのも、情報はすべて開示し秘密を持たないことで平和が守られると本気で信じているようですし、テロ対策や軍事機密についても外交官に全ての情報を渡してくれると本気で信じこんで居るようです。
この様な思考ですから、国連決議にはすべての国が従うと思い込み国連信仰に走ったり、憲法九条によって国の安全は保証されると信じきって居るのでしょう。
平和ボケと言われますが、平和ボケと言うより無邪気な子供の思考のままに体だけ成長し、テレビ゜ドラマのサスペンスや勧善懲悪の時代劇を現実のものとして捉え絶対善なるものが、この世に存在すると思い込んでいるとしか思えません。
これこそが日教組の教育の成果でもあります。
国際社会で国家が存続して行く事はサバイバルであり、より多くの利益を持ち帰り国民に分かち与える事こそ国の重要な役割の一つでもあります。
その事を知らないまま、重箱の隅を突くような議論に終始し、中国が防空識別圏を公海上に設定した事の意味わ理解できず、我が国のシーレーンの分断を画策していることに及ばないのです。
素人でも知名度が高ければ政治家にになれる現実こそ国を滅ぼす原因になります。
やはり選挙制度を見直し資格試験のような事を実施し一定の見識が無い人間は立候補できないようにしなくてはなりません。
簡単に尖閣の棚上げを口にする連中や、尖閣は日本が侵略して奪い取ったものだと口にする中共の手先となりはてた人間は石垣の漁民の生活すら守ろうとする気概もないのでしょう。
話し合いや外交交渉で何とか出来ると考えている連中は、終戦時に武装解除をされ武器・弾薬を中国・ソ連に引き渡した筈なのに日本軍が遺棄した化学兵器の被害と処理費用を請求して来た事についての見解を伺いたいものです。
条約で決着が付いていながら、条約を無視して無法な請求をしてくる、ゴロツキの様な国に永久に謝罪し賠償を続ければ気が済むのでしようか、賠償は国民の税金です。
いかに国民の事も考えず平和の題目を唱え綺麗事だけで片付けようとする連中かよく分かります。
また、簡単に妥協することは周辺諸国に多大な迷惑を掛けることであり、矛を取る勇気も無い臆病者でしか無い事が惨禍をもたらすか判ります。
昨日の福山哲郎議員の質疑・・・20数分間官房長官が来なかったことの文句と愚痴
残りの60数分間・・国語を理解できないためおなじ質問のループ・・それも特定秘密保護法案に付いてのみ、中国の防空識別圏にたいする質疑はありません。
福島みずほ議員も時間は短くても、同じように官房長官が来てないことへの文句と特定秘密保護法案に反対と言うばかり・・これこそが選挙民のレベルです。
これでは中国や韓国から馬鹿にされても仕方ないでしょう。
国民に真実を伝えるにはマスコミを一度解体し、正しい情報を伝える報道機関を設立する必要がありそうです。
中国の防空識別圏問題と尖閣問題を関連付け、日本の主張も正しく報道していたのは新唐人テレビだけでした。

ねむ太さま (kuranishi masako)
2013-11-30 22:36:08
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 海洋権益圏の一方的な設定という意味においては、1992年の領海法制定の方が、より李承晩ラインの設定に近い行為であったかもしれません。ところが、この時の日本国の反応は、ほとんど無に近かったのではないかと思います。領土問題はないとする立場からとも指摘されていますが、今になって考えてみますと、一方的な他国の領土編入ということですので、”棚上げ”どころか、侵略未遂というものです。日本国政府の広報活動はまだ不足し得いるようで、CNN発の記事では、中国の言い分としてであれ、”中国漁民の居住の歴史”や”日中棚上げの合意”などが記載されていました。中国には、歴史的にも、法的にも、全く領有の根拠がないのですから、日本国政府は、より積極的に事実の説明に努めるべきです。
 それにしましても、日韓議員連盟の三国共通教科書作成への努力合意には、驚かされます。この議連のメンバー、来週号の週刊文春の「今週のバカ」に選ばれてしまうのではないでしょうか。
Unknown (堅固)
2013-12-01 01:11:38
はじめまして、ちょくちょく拝読しています。尖閣棚上げ論など何の意味もないという点では、1992年の領海法以外にも、1998年6月施行の中華人民共和国排他的経済水域と大陸棚法や2010年3月施行の海島保護法などがありますね。尖閣棚上げ論者がこれらの法律に言及したのを私は見聞きしたことがありません。尖閣の領有権については、中国政府が過去に発行した地図で1960年代後半辺りまでのものが、釣魚島という記述ではなく尖閣諸島という記述であったという事実だけで十分です。この事実をしつこくしつこく世界中に広報し続けることが重要です。孫崎享氏や田中宇氏といった反米親中論者からすると鳩山元首相や小沢一郎氏は対米自立派の素晴らしい政治家だそうですが、私には彼らの主張が中途半端な反米脱米をぶち上げたものの尻すぼみ、その裏返しとして対米隷属ならぬ、対中隷属せよ、と言っているようにしか見えません。だからといって今の安倍総理はあまりにも対米従属が過ぎるきらいがあるので取り立てて支持していませんが、これが自主防衛能力のない、国民が70年近く自分の国は自分で守るという主権国家として当然の事柄から逃げ続けてきた国家の帰結ですね。今回の防空識別圏問題でも、日本のそれは米国からそのまま引き継いだままであること、竹島や北方領土が除外されているなど改めて米国が事実上竹島、北方領土を日本領とみなしていないように見える反面、尖閣は久場島、大正島の関係もあり、含めているということ、また中国側がこれまで防空識別圏を設定していなかったというのも逆に不思議な感じがします。どうりで日本のそれは中国側に結構張り出しているように見えるわけです。ただ保守陣営が米国のB52爆撃機の航行に溜飲を下げているのも何だかなあ、と思いますね。米国からすると、俺のシマに勝手なことするな、という意味であって、別に日本を守るという強い意志というようには思いません。親米保守派が中国崩壊論にすがっているのも、逆に小沢氏支持者や左派が対米自立すべきだと勇ましく叫びながら、自主防衛からも逃げ、米国と中国が戦争するわけがないと、希望的観測で、米軍を追い出して自主独立派の首相がうまく外交的に立ち回れば良いというのも、どちらも自分の信じたいドミナントストーリーがあって、それを補強できそうな断片的な知識だけの継ぎ接ぎで物事を論じ、厳しい国際関係を舐めているとしか思えませんね。今米中関係をどう見るかにおいて、米中新冷戦派と、米中蜜月日本封じ込め派があって、各々の論者が自説に有利な出来事のみを取り上げ、不利な事実には目を瞑り、どちらも日本が本当に自立する方法論に言及できていません。あまりにも米国と中国やロシアなどについてバランスのとれた見解の持ち主が少なすぎます。いつまで日本は親米派と親中派が不毛なプロレスをやっているのでしょうか。今ほど、米国にも中国にもはっきりものを言い、外國人参政権や人権擁護法案などの日本解体売国法案にも毅然と反対を貫き通し、本気で核武装実現を考えておられた私が唯一認める本物の愛国政治家である故中川昭一氏の必要性を痛感する時はありません。あと言論人では、青木直人氏と北野幸伯氏がなかなかバランスのとれた見解の持ち主で、青木氏の安倍政権に対する距離感は保守派としては実に適切だと思いますし、また北野氏の日本が自立するための五条件を掲げているのを見ると物事の本質を理解されているなと思います。まだこのお二人をご存知なければ是非青木氏のブログや北野氏のメルマガを読んでみてください。11月28日付の青木氏のエントリーでは保守派でまた取材者という視点で特定秘密保護法案の問題点を述べられていて左翼のヒステリックな反対論とは違う見解で保守派に多い賛成派にも考えさせる内容だと思います。ところで、私はいろんな政治系ブログを見ていますが、貴ブログのブログ主様ほど、丁寧で律儀なご返事をされるものはなかなか無いですね。また貴ブログは、ブログ主様とねむ太様の共同制作のような感じで、ねむ太様のコメントも勉強になります。ブログ主様におかれましては、嫌なコメントには時には適当に受け流したりなされたりして、無理をなさらないようにご自愛ください。長々と失礼しました。
堅固さま (kuranishi masako)
2013-12-01 08:18:41
 こちらこそ、はじめまして。今後とも、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
 中国との関係は不透明な部分が多く、日本国の政治家やマスコミの中にも、中国の利益のために動いた人々が存在したものと憶測しております。そしてそれは、日本だけの問題ではなく、アメリカの一部勢力とも繋がっていたのではないでしょうか。堅固さまもご指摘のように、アメリカには、”米中新冷戦派”と”米中蜜月日本封じ込め派”があり、おそらく大まかに見ますと、国防省対国務省なのかもしれませんが、国内で両勢力のせめぎあいがあるようです。アメリカの政策が不安定な理由もここにあります。このため、一つの政策が、どちらの顔を見せるのか、現時点で正確に予測することが困難となっております。青木氏のブログを拝見いたしましたが、特定秘密法案も、対中防衛強化に向かうのか、対中秘密隠蔽に向かうのか、判然とはしておりません。もちろん、後者であってはならないわけですから、法案には、売国機密隠蔽(対韓…も含めて)を阻止する何らかの安全装置を組み込むべきと思うのです。

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