万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ワクチン戦略を’振出し’に戻すオミクロン株

2021年11月29日 12時43分04秒 | 国際政治

 今般、南アフリカで変異したとされる新型コロナウイルスのオミクロン株は、全世界を震撼させております。同変異株は、感染力の強さのみならず、既存のワクチンに対する高い免疫回避の可能性が指摘されているからです。オミクロン株には、スパイク蛋白質の部分に32か所以上の変異が認められています。

 

 もっとも、オミクロン株の出現から日が浅いため、その感染力や病毒性などに関するデータや情報はそれ程多くはありません。感染力の強さは確認されているようですが、既存のワクチンや治療薬等の効果に対するマイナス影響やそのレベルは確定的なものではなく、あくまでも憶測の域を出ない状況にあります。WHOも、オミクロン株の特性は現時点にあって不明であるとしています。

 

しかしながら、オミクロン株出現の報に接したワクチンメーカー各社が、一早く対応策を打ち出しているところを見ますと、既存のワクチンに対して強い免疫回避性を有している可能性は高いようです。香港で見つかったオミクロン感染者は、ワクチン二回接種済みでした。そして、モデルナ社は、100日以内にオミクロン株用のワクチンを開発できるとして、自社の技術力に自信をのぞかせているのです。それでは、オミクロン株が高い感染力のみならず、既存のワクチンに対して免疫を回避する能力を有しているとしますと、一体、何が起こるのでしょうか。

 

 第1に確定するのは、既存のワクチンは、接種しても無駄になるということです。これは、オミクロン株の免疫回避性がもたらす当然の結果です。このことは、最初の接種であれ、追加接種であれ、既存ワクチンの接種メリットがゼロとなる以上、日本国政府を含む各国政府は、目下、強力に推進しているワクチンの接種事業を、一旦、中止せざるを得ないことを意味します。否、オミクロン株の免疫回避性が明らかとなった時点で、誰もが、既存ワクチン接種を拒むことでしょう。そして、ワクチン・パスポートのシステムも頓挫することとなります。

 

 第2に予測されるのは、ワクチン戦略そのものの見直しです。先に述べましたように、ワクチンメーカー各社は、遺伝子ワクチンの特性を活かしてオミクロン株用に新たなワクチンを開発する予定のようです。しかしながら、改良、あるいは、改変ワクチンの再投入が適切な対策であるのかどうかにつきましては、議論の余地はありましょう。何故ならば、今後とも、オミクロン株用の改良ワクチンに対して高い免疫回避能力を有する別の変異株が登場する可能性が否定はできないからです。つまり、およそ永遠に、免疫回避変異株と改変ワクチンとの間の’いたちごっこ’が繰り返されるかもしれないのです。ワクチン接種が永続化すれば、人類は’ワクチン漬け’にされてしまいます。ワクチンリスクが、最悪の場合には命に関わる点を考慮しますと、各国政府とも、ワクチンの多重接種には慎重にならざるを得なくなりましょう。言い換えますと、’いたちごっこ’によるワクチン接種の永続化が確定した時点で、ワクチン戦略を放棄するという選択肢も生じるのです。

 

 そして、第3に予測されるのは、ポスト・ワクチン戦略です。古典的な方法としては、水際対策を徹底し、オミクロン株の上陸を防ぐというものですが、既に、全世界13カ国において同株の感染者が報告されており、’オミクロン・パンデミック’も時間の問題ともされています。最高レベルの警戒が必要とされていますので、各国政府とも、出入国に際しての規制強化に努めることでしょうが、過去の政府による’緩い対応’を見る限り、政府が水際対策に成功する見込みは薄いと言わざるを得ません。

 

かくしてコロナ対策は’振出し’に戻ってしまうのですが、スタート時点に戻ったからこそ、今後は、各国の技術力や発想力がものを言うのかもしれません。免疫回避性を有する変異株の出現は、新型コロナウイルスが一本鎖のRNAウイルスであることから再三指摘を受けてきたものの、ワクチン開発成功から接種促進プロジェクトの流れが世界に全ての国家が飲み込まれてきました。’バスに乗り遅れるな’の状態にあったのですが、オミクロン株の登場は、各国が、自国の状況に合わせて独自の対策や手法を考案するチャンスとなりましょう。オミクロン株の出現を受けて、G7の保健相がテレ会議の場を設けたとする報道もありましたが、何れの国も有効な対応策を提供できる状況にはありませんので、具体策を欠いた協議の場の設置は’対策’とは言えないように思えます。

 

あらゆる変異株に効果を発揮するユニバーサル型のワクチン開発や治療薬の開発を目指すという方向性もありましょうし、新たな治療薬や治療法の開発を試みるという方向性もありましょう。そして、変異株間の’シェア競争’に注目した、よりイノベーティブな方向性としては、エラー・カタストロフの限界理論を応用したカウンター・ウイルス(自らの変異を修正できないnsp14欠損ウイルス)の開発や、強力な感染力を備えた人工弱毒化・無毒化ウイルスの開発なども視野に入ってくるかもしれません。何れにしましても、コロナ対策にあっても独自性や多様性が尊重されるべきですし、競争のメカニズムを経てこそ、より安全でより低コストな対策も実現するのではないかと思うのです。

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