万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

情報通信と金融は切り離すべきでは?-競争法の出番

2019年06月30日 13時34分08秒 | 国際経済
スマートフォンといった携帯端末の出現は、社会におけるコミュニケーションの在り方を一変させてしまいました。今では、IT大手が運営するSNSが他者と関わる主たる手段となっている人も少なくありません。しかも、SNSといったネットサービスは無料であるものの、それと引き換えに、ユーザーは利用規約によって位置情報や交友リストなど自らに関する個人情報の一切を事業者に提供する義務を負わされています。このため、IT大手は、個々のユーザーの行動や思想傾向のみならず、人間関係をも全てデータ化して管理することができるのです。

 IT大手は、情報・通信サービス事業と云う名において社会全体をコントロールする手段を手に入れているのですが、社会分野に留まらず、その支配的な野心は、今や経済の分野にまで及びつつあります。IT大手の中には、GAFAの一角を成すアマゾンのように人々の消費行動を把握し得る通販ネットワークを構築した事業者もおりますが、今般、これらの事業者は、本業の事業展開に伴ってグローバルレベルに広げた自社のネットワークを金融分野に転用しようとしています。中国の通販大手のアリババは、既にブロックチェーン技術を用いた国際決済サービス事業に着手していますし、フェイスブックもリブラ構想への参加を打ち上げています。

単一通貨を想定するこれらのケースでは、従来民間の銀行が行ってきた送金や決済業務のみならず、将来的には通貨発行権の掌握をも視野に入れているかもしれません。例えば、リブラは、米ドルやユーロ、あるいは、安定的な公債を準備として発行される予定であり、マイニングを要するビットコインとは異なる‘ステーブルコイン’とされているものの、よく考えても見ますと、ブレトンウッズ体制にあっては金・ドル本位制と称されたように、米ドルの準備高がその国の通貨発行量とリンケージしていました。管理通貨制度に移行した今日でも、為替決済を通して中央銀行は通貨を供給しています。また、特に公開オペレーションの買いオペは、債権を準備とした通貨供給の一面がないわけではないのです。つまり、リブラの発行機関は、事実上、国家の中央銀行と同様の機能を有しているということができるのです。通貨供給量を人為的に調整できる点において、リブラは、ビットコインよりも国家が発行している既存の公定通貨に近いとも言えましょう。なお、仮にリブラが許されるならば、如何なる私人、あるいは、民間団体であっても、独自に通貨を発行することが可能となります。

IT大手が個々人の消費行動、所得、金融資産、投資行動といった経済に関わるおよそ全ての情報を掌握すると共に、自らが既存の銀行や中央銀行の役割をも兼任するとなりますと、IT大手は、民間事業者でありながら、経済全体を支配する強力な手段を手に入れることとなります。それでは、IT大手による国境を越えた経済支配を防ぐことはできるのでしょうか。

 最も有効性が高いと期待できる手段とは、競争法の活用です。競争法上の取締行為の類型の一つに‘集中規制’と呼ばれるものがあります。これは、財閥や企業グループが経済全体を支配するほどに巨大化しないように歯止めをかけるための規制なのですが、これらが参入し得る事業数や業種に対して制限を設けています。‘集中規制’の観点からすれば、IT大手による異業種への参入は、競争法によって規制されて然るべきように思えます。つまり、社会のみならず、経済をも同時に支配する恐れのあるIT大手による金融事業に対しては、その参入を認めないというのも一案です(現行の競争法では難しいのであれば、法改正も必要かもしれない…)。そして、こうした規制は、情報の収集を伴う交通インフラの支配という側面において、中国IT大手のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)、並びに、アップルやグーグルによる自動運転システムの開発についても適用すべきようにも思えるのです。

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mobilis-in-mobili)
2019-06-30 14:03:11
【スマホに頼りきった現代社会は異常‼】
現代では、何かあるとスマホで検索。ウィキの解説を読んで分かったふりをする人間ばかり。支払は電子マネーを使うのが『おトク』とこれもスマホ決済。就職活動さえも『エントリーシートを送らないと』始まらない。ネットとスマホに頼りきった生活が何か便利で素晴らしいかのように喧伝されている。残念だが、この傾向は止まらないのではないか。せめても自分はこの傾向に乗らないよう努めているつもりだが・・・。
Unknown (mobilis-in-mobili)
2019-06-30 14:11:00
この行く末は①『国家の形骸化』と②『ネットとAIに支配される人類』という未来図かもしれない。私はその時代にはすでに生きていないことを幸せに思う。
Unknown (mobilis-in-mobili)
2019-06-30 14:31:18
【取り敢えず警告】普段LINEを使っている人は、『設定』➡『個人情報』➡『プライバシー管理』➡『情報の提供』の中身を確認してみるといい。この中の項目にチェックしていたら、自分の個人情報を垂れ流してLINEに提供していることになるのですよ。
Unknown (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2019-06-30 15:40:35
今回のブログ御意見の趣旨には同意いたします。
たしかに、情報通信と金融は切り離すべきだと思います。
同一勢力(個人・法人)が、『情報通信の流れ』と『お金の流れ』を完全に
掌握する事になりますと、恐るべき権力を独占することになります。
これは、ほんとに、おそろしいことです。

聞くところによりますと、最近では神社・仏閣への『奉納金・お賽銭』までが
スマートフォンで『決済』されているケ-スもあるらしいです。
これには、さすがに『行き過ぎ』だと言う意見もありますが、これが行き過ぎと
思われなくなってしまったら面妖なことといわざるを得ません。

情報通信産業の『行き過ぎた行為』には規制は必要だと思いますが、
ただ、現状の『競争法・独占禁止法』が、そういうことを想定して作られて
いるかどうか、、、、その点が問題なんですね。
私は、専門家ではないので、よくは、わからないんですが、やはり、
何らかの法律の改正・整備が必要なんじゃないかと思います。

◎世の中の 思いもよらぬ 変わりごと いかにすべきか 悩みも巡る
mobilis-in-mobileさま (kuranishi masako)
2019-06-30 20:34:04
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 LINEにつきましては、行政サービスにも採用されておりますので、憲法の定める法の前の平等に反する可能性が相当に高いのではないかと思います。LINEを使用していない国民は、行政サービスを受けられないのですから、誰が考えてもこの点は明白なのですないでしょうか。にも拘わらず、政府は口を噤んでおりますので、スマホを全国民に使わせることが真の目的なのではないかと疑っております。
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2019-06-30 20:52:19
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 
 IT大手の情報独占問題については、’新しい独占’として政府も公正取引委員会も取り組みを開始しているようです。ただし、主として優越的地位の適用を検討しており、集中規制にまで踏み込むのかは今のところは不明です。一方、アメリカでは、既に分割論で持ち上がっているようであり、今後が注目されるところです。

 おそろしき 鵺もおのおの わかたれば 暗き夜さえも こころやすけし
中国では (Unknown)
2019-07-01 03:29:41
 老人の場合、スマホ決済の設定は息子か孫がやっているらしいけど、それ以後、決済は老人でもちゃんとやっている。日本の場合、老人に優しすぎるのだ。スーパーで総額言われてから財布を探し、今度は小銭入れを探しと列の人をイラつかせる。私は電子マネーで決済するのですぐ終わる。現金のみだと釣銭も用意しなければならず、レジ締めも時間がかかる。スマホ決済や電子マネーは便利なのだ。便利なものは普及するのが当然。
 アリペイのようだと利用者の支払い状況がすぐわかる。信用調査がすぐできるので小口金融は簡単。日本だと無担保金融はリスクが多いので銀行でも高利貸しとなる。
 選挙の際の資金も集めやすくなるのではないか?山本太郎がすでに3億円ぐらい集めているが、10億集めて10人立てるそうだ。重度障碍者の方も立てるそうだがこう言った。「国会議員700人もいて障碍者の施設も国会にないのはおかしい」
 ま、カネのない人も議員になる道がようやくでき始めたか?
 金融業界はリストラで大変だろう。ま、私には、かつて酷いことを言われて融資を断られた恨みがあるので、ザマーだが。40歳で年収1000万越えで我が世の春だったが、系列の介護施設で下の世話か?ま、やれよ。それぐらい。嫌だと断れば自己都合退職で退職金削減だわね。
 信用情報を持つものがカネを貸す。通常のことだ。信用情報も持たない銀行が担保のみで貸すよりよほど進歩している。
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-07-01 09:06:50
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 スマホ決済や信用情報につきましては、技術的な進歩のレベルの問題ではなく、利便性を追求するのか、もしくは、プライバシーを尊重するのか、という選択の問題ではないかと思います。我が国の場合も、技術的には可能であっても、情報掌握による一方的な支配という問題があるからこそ、普及が停滞しているのではないでしょうか。誰もが、『1984年』に描かれた世界のように、プライバシーを侵害されたり、自由を失いたくはないからです。

 なお、Unknownさまは、たいへん恨み深い方のようです。リストラという人生において辛い思いをされる方々に対する同情や何とかしてあげたいという慈しみの心が全く感じられません。たとえ過去に恨むような出来事があったとしても(銀行の方々はUnknownさんに対して個人的な’恨み’があったわけではなく、金融マンとしての仕事をされただけなのでは…)、他者の不幸を願うのはいかがなものでしょうか(罰を受けるべき犯罪者でもない…)。人の不幸を見るのは心が痛むものですし、お互いに他者を思いやり、その幸せを願う社会のほうが、人々が生きやすい善き社会なのではないかと思います。
7(セブン)ペイのハッキング事件に思う (mobile)
2019-07-19 11:52:53
7(セブン)ペイのハッキング事件は中国からの(何者かによる)攻撃だったことが明らかになっている。
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この事件に対しては『日本製のスマホ支払システムの信用を失墜させ、その間に中国由来のスマホ支払システムによる日本経済乗っ取りを図ったもの』という見方がある。
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日本は徒にスマホ支払システムの普及を急ぐだけではなく、自国製の支払システムに対する、統一的な(セキュリティ等)基準の作成と運用をこそ急ぐべきではないかと、真摯に思います。
mobileさま (kuranishi masako)
2019-07-19 19:20:32
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 中国人観光客の急激な増加により、今では、日本国内においてもアリペイだけでお買い物ができるようになっているそうです。つまり、中国の人民元圏が日本国まで拡大してきたことを意味します。これは、フェイスブックのリブラにも優るとも劣らない大問題なのではないでしょうか。日本国政府は、通貨問題について認識が甘すぎるように思うのです。

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