万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南北による“連邦国家”は無理では?-移動の自由問題

2018-04-03 16:18:57 | 国際政治
 米朝首脳会談に先立って、朝鮮半島では、4月27日に南北首脳会談が開催される予定です。この会談では、南北融和の具体化として、連邦国家の建設による統一も会談の議題に上るのではないかとする指摘もあります。

 過去を振り返りますと、南北のよる連邦国家の建設については、北朝鮮からは、金日成時代の1960年8月14日と1980年10月10日の二度にわたって連邦制統一案と高麗民主連邦共和国案が提起されたそうです。さらに、2000年に金大中大統領と金正日委員長の間で合意された「6.15南北共同宣言」には、「南と北は国の統一のため、南の連合制案と北側のゆるやかな段階での連邦制案が、互いに共通性があると認め、今後、この方向で統一を志向していくことにした」と記されています。南北両国の国家体制を維持しながら連邦制に移行する、即ち、一国二制度による連邦国家の形成が、現時点における双方受け入れ可能な合意点となりましょう。

 両国による融和政策の後ろ盾となっている中国の習近平主席がアメリカに対して新たなる安全保障体制の枠組を提唱していることから、27日に予定されている南北首脳会談での議論も、この案の延長線上にあると推測されます。しかしながら、この“連邦国家”案の前には、国民の自由移動の問題が立ちはだかっているように思えます。一般的には、単一国家であれ、連邦国家であれ、国民には国内であれば自由に移動する権利が認められているからです。自由移動の原則は、国家連合の段階でも認められるケースもあり、アメリカでは、連合時代のアメリカ連合規約第4条において州間の移動の自由が保障されていました。また、EUでも、1958年のEEC(欧州経済共同体)設立時において、既に域内の人の自由が原則の一つとして掲げられています(もっとも、今日では、移動の自由がEUに対する加盟国国民の不満を高めている…)。一つの国家を形成する連邦であればなおさらのことであり、連邦国家を形成する限り、当然に新国家の全国民に対して国内の自由移動が許されるはずなのです。

 それでは、実際、朝鮮半島において連邦国家が誕生すれば、統一後の全国民は38度線を越えて自由に移動できるのでしょうか。ベルリンの壁が建設された理由は、移動が自由な状態にあっては東ベルリンから西ベルリンへの一方的な市民流出が起き、東ドイツ側が体制崩壊を招きかねない危機感を抱いたからです。西ベルリンは、当時、自由主義国のショーウィンドウの役割を果たしており、統制経済の下で低い生活レベルに甘んじていた東側の人々を惹きつけたのは理解に難くありません。朝鮮半島において、仮に一国二制度にあって38度線が解放されたとしますと、旧北朝鮮の国民が、比較的生活レベルが高く、社会保障制度も充実している旧韓国側に雪崩を打つように移住する事態も当然に想定されます。北朝鮮には、金一族やその取り巻きの一部の特権的な人々しか残らず、事実上、旧北朝鮮地域から国民が消滅してしまう可能性も否定はできないのです(軍事独裁体制が維持されている北朝鮮に移住する旧韓国地域の国民は極僅かでは…)。

 北部から南部への大量人口流出が予測される以上、南北による連邦国家の形成は、両国とも消極的にならざるを得ないのではないでしょうか。また、現状維持を意味する一国二制度を採用すれば、主として対外関係の分野で権限を有する連邦政府の形成も困難であり、結局は、連邦国家どころか、連合以下の奇妙な体制が出現するのではないでしょうか。そして、この案が、中国による朝鮮半島支配の野望、あるいは、経済的手段であれ、軍事的手段であれ、制裁を解きたい北朝鮮による“目くらまし”であるならば、国際社会は、連邦国家建設案にまで及ぶ両国の融和の動きには警戒すべきではないかと思うのです。

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