万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

プーチン大統領の北方領土戦利品論の不正義

2018-11-16 11:24:41 | 国際政治
四島一括か二島先行か…揺れ続けてきた日露交渉史
東方経済フォーラムにおける首脳会議の席で、突如、日本国との条件なしでの平和条約締結を言い出したロシアのプーチン大統領。この時、日本国の安倍晋三首相は、一旦は同提案を拒絶しましたが、今に至り、56年の日ソ共同宣言を基礎として対ロ交渉を加速させる動きを見せています。

北方領土問題については、かねてよりプーチン政権は、北方領土は第二次世界大戦において獲得した‘戦利品’とする持論をロシア政府の公式見解としています。この見解、レーニンが不拡大主義を唱えたこともあって、‘戦利品’と言い切るまでには至らなかったソ連邦時代と比較しても過激であり、いわば、‘開き直り’宣言とも受け止められます。しかしながら、この主張、法のみならず、歴史的な事実に鑑みても不当としか言いようがないのです。

 ロシア側は、戦利品論の正当性を主張するために、第二次世界大戦において自国が払った犠牲の甚大さをしばしば強調しています。‘ロシア人の血は北方領土を以って贖われたと…’。しかしながら、ソ連参戦に至る歴史の経緯を顧みれば、ソ連邦は、日本国との戦闘においては殆ど人的、並びに、物的な被害や損害を受けていません。戦時にあって、極東に位置する日本国は、ドイツ、並びに、イタリアとの三国同盟の下で軍事同盟関係にはありましたが、ヨーロッパにおいて隣接する独伊のように共同で軍事作戦を採ることはありませんでした。しかも、戦時期は日ソ中立条約の有効期間にあり、日本国は、同条約を遵守しソ連邦との国境地帯は僅かな兵力しか置いていません。ソ連邦が闘った主敵はあくまでもドイツであって、日本国に対するソ連邦の戦いとは、日本国の敗戦を見越した一方的な侵攻と破壊、そして、民間人に対する非道な殺戮なのです。上記のプーチン大統領の言い分は、ドイツに対しては当てはまるかもしれませんが、日本国に対しては、全く通用しないのです(この点、ドイツは、旧同盟国である日本国の北方領土問題についてどのように考えているのでしょうか…)。

 ここに、軍事同盟関係に基づいて参戦して勝利した国は、その勝利を以って敗戦国に対する領土割譲の正当な根拠となし得るのか、という問題が提起されます(因みに、大西洋憲章では連合国の原則として不拡大主義が約されている…)。この問題を考えるに当たって、国連憲章の第55条において認められている集団的自衛権は参考になります。軍事同盟を構築する権利は、あくまでも自衛を目的とした権利であり、攻撃や侵略を目的としている場合には許されてはいません。なお、国連憲章の発効日は1945年10月24日ですが、その署名日はソ連邦が対日参戦を宣言した8月8月を一ヶ月以上も遡る6月26日です(もっとも、同憲章における‘敵国条項’は、ソ連邦の対日参戦を念頭に置いていたかもしれない…)。

ソ連邦としては、1941年12月のアメリカに対する日本国の真珠湾攻撃を同盟国の一国に対する攻撃と見なしたかったのかもしれませんが、この時点では、米ソ間に同盟関係はありませんでした。また、ソ連邦が参戦した時期は、日本国では、既にポツダム宣言受け入れは時間が問題となっていた戦争末期であり、日本側からソ連邦に攻撃を仕掛ける余力は最早残されてはおりませでした(ソ連邦が‘火事場泥棒’と批判された理由…)。況してや国連憲章では、他国の領土保全や政治的独立を脅かす武力の行使を戒めています。

乃ち、当時のソ連邦の行動は、侵略を違法とする慣習国際法にも反し(連合国はドイツの侵略行為を咎めている…)、連合国内で定めた行動規範―不拡大主義―からも逸脱する共に、国連の出発点にありながらそれが定める行動規範をも踏み躙っているのです。

 今般、色丹島と歯舞群島の2島の引き渡しを約した56年の日ソ共同宣言を基礎として交渉を始める方針が示されているため、日本国内では、安倍政権が択捉島と国後島をロシアに正式に割譲するのではないかとする懸念も広がっております。今後の日ロ交渉では、色丹島と歯舞群島の帰属問題も議題となるとされており、この点に関しては、プーチン大統領は‘戦利品論’を引き下げざるを得なくなりますが、択捉島と国後島の2島を永遠に失うのでは、駆け引き上手なロシアの策略の罠にかかったとしか言いようがありません。

そして、日本国の対ロ譲歩は、多大なる犠牲を払って第二次世界大戦で終止符を打ったはずの武力による領土獲得の歴史を蘇らせ、再度、人類を苦しめる結果を招きかねないのです。プーチン大統領は、臆面もなく戦利品論を打ち出していますが、仮に、ロシアが武力で領土を奪われた場合にも、‘それは戦勝国側の戦利品だから仕方がない’と諦めるのでしょうか。芥川龍之介の『羅生門』のようなお話になるのですが、ロシアの主張を認めることは、国際社会全体が弱肉強食の野蛮な世界に戻ることを是認するに等しいのです。ロシアが無法国家であり、真の正義を理解しない国である限り、妥協による北方領土問題の解決は、人類に退行をもたらすとともに、法の支配が行き渡る安全な国際社会を自ら放棄するようなものではないかと思うのです。

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2 コメント

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とんでもない国 (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2018-11-16 12:31:31
本当に、ロシアはとんでもない「ならず者国家」ですね。
ロシアといい、南北朝鮮といい、チャイナといい、日本の周辺にはトンでもない国ばかりで、これが日本の不幸というほかありません。
ロシアは、ウクライナのクリミア半島まで強引に併合してますから、日本の北方四島など、そう簡単には手放さないでしょう。
日本人の中には、『プ-チン大統領は、日本産の「わんわん」を飼ってるから「親日家?」だ』と思ってる人も居るらしいですが、もし、そんな事をおもってるとしたら、「馬っ鹿ちゃう!」というしかないです。(苦笑)
プ-チン大統領にしてみれば、『おいっ!日本人!!俺が飼ってる日本犬のように、俺の言うことを聞け!!』と、思ってるとおもいますよ。
 たぶん、、安倍総理は、バカにされてると思います。

もう、今の日本は、『国難』だと言う他ないですね。
その、国難の状況なのに、さらに危険性を背負いこむような『移民導入政策』を、取ろうとしてるんですから、今の買弁政治家には、絶望と怒りを感じます。

 
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2018-11-16 19:40:08
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 最近、安倍首相が鳩山元首相と重なって見えるようになりました…。1956年の日ソ共同宣言も、由紀夫氏の父に当たる鳩山一郎首相の時代の出来事です。両者は、対立しているように見えながら、何らかの国際的な水脈で通じているのかもしれません。国民は、怪しんで然るべきなのではないかと思うのです。

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