万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝実務者協議の不思議-両国の見解が食い違う理由とは?

2019-10-07 16:58:39 | 国際政治
10月5日からスウェーデンの首都、ストックホルム郊外で始まったアメリカと北朝鮮との間の核・ミサイル問題をめぐる実務者協議は、極めて奇妙な様相を呈しています。会談後に開かれた両国代表の見解は、全く逆なのですから。同じ時と空間を共有しながら、何故、かくも両者の説明は食い違っているのでしょうか。

 実務者会談の席に付いたのは、アメリカ側はビーガン北朝鮮担当特別代表、北朝鮮側は金明吉首席代表の二人です。会談後の記者会見において、当初、ビーガン特別代表は、合意に向けた感触を得たかのような発言をし、北朝鮮との協議が比較的円滑に進んだことを強調しておりました。しかしながら、もう一方の金明吉代表は、同氏の発言を真っ向から否定し、協議は決裂したと説明しています。アメリカ側が北朝鮮側も合意したとする、スウェーデン政府による2週間後の再協議提案の受け入れも否定しており、先行きは、さらに不透明になりました。金代表曰く‘対朝鮮敵視政策を完全かつ不可逆的に撤回する実質的な措置を取るまで協議する意欲はない’というのですから。‘完全かつ不可逆的’というフレーズは、‘検証可能な’という表現は欠けているものの、アメリカが核放棄の方法として北朝鮮に対して要求してきたCVIDの意趣返しであることは確かです。

 両国間の相違を生んだ理由として推測されるのは、会談直後、両代表の合意内容を聞き知ってそれに不満を抱いた‘何者か’による介入です。その理由は、北朝鮮の言い分は時間が経過するにつれて過激さがエスカレートしているからです。会談が終了した直後の5日にはアメリカに対して一方的に責任を押し付ける声明を読み上げるに留まっていましたが、上述した‘完全かつ不可逆的’の発言が飛び出すのは翌6日です。さらに、7日に至りますと、帰途の経由地である北京空港において記者団を前に「米国がきちんと準備できないなら、どんなひどい出来事が起きるか分からない」と述べています。この発言は、明白なる対米脅迫です。北朝鮮側は一切の妥協を拒否し、アメリカに対して譲歩するよう迫っているのです。SLBMの実験は、北朝鮮がこの日のために準備した脅迫手段であったのかもしれません。

 それでは、北朝鮮の態度を硬化させたのは、‘何者’であったのでしょうか。もちろん、金代表に交渉を任せつつも、平壌において逐次報告を受けていた金正恩委員長が、協議内容、あるいは、金委員長の対米融和的な態度に不満を抱き、即、その破棄を金代表に命じたのかもしれません。会談終了後の5日6時半頃に金代表が‘決裂’を公表したのは、北朝鮮大使館前であり、しかも声明を読み上げる形でしたので(既に誰かが声明文を作成している…)、本国からの指令を受けた可能性も否定はできません。

 あるいは、中国経由で帰国の途に就いていますので、習近平主席からの介入があったとも考えられます。折も折、6日には、中朝国交70年を記念して両国の首脳が祝電を交換しています。双方とも両国間の絆を強調しており、中国側から今般の対米融和的な協議の継続に釘を刺されたのかもしれません。北京空港での金代表の‘脅し文句’は、アメリカではなく、習主席に向けた最大限の対中友好のアピールであった可能性もあるのです。

 以上の推測の他にも、北朝鮮利権に関連して、何らかの国際組織が米朝協議の決裂を望んだのかもしれず、介入者の姿は判然とはしません。もしくは、単に北朝鮮側が虚偽の発言をしている、あるいは、米朝が結託して茶番を演じている可能性もあり、真相は藪の中のです。しかしながら、少なくとも独裁国家と実務者レベルで交渉しても、事態を混乱させるのみであり、むしろ、独裁国家側に翻弄されて目的を見失い、巧妙に北朝鮮有利に誘導されてしまう可能性の方が高いように思えるのです。

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6 コメント

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日本人の世界とは (Unknown)
2019-10-08 04:23:11
 アメリカと中国と朝鮮半島でしかないと断言する人がいた。万国と名乗りながら看板に偽りありだね。
 米朝の交渉など、トランプの再選に一番効果的な時期と北の要求が最大限満たされる時期を巡ってプロレスをやっているに過ぎない。考えるだけ脳のエネルギーの無駄遣い。
 それよりも台風が神奈川あたりに上陸しそうだから、こちらの備えをした方が良い。
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-10-08 07:56:18
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 アメリカや中国の動向は、我が国を含め’万国’にも影響を与えておりますし、朝鮮半島は、地政学的に申しますと、ロシアを含め、大国の勢力が衝突する地帯です。こうした意味では、本部ロブにおいてこれらに関する記事が多くなりますのも、致し方がないのではないかと思います。なお、Unknownさまは、米朝プロレス説を主張されておりますが、私も、その可能性は決して低くはないと考えております。実際に、同推測の通りとなるのか、しばし観察してみる必要があるように思います。
中東の観察こそが一番重要 (Unknown)
2019-10-09 05:17:18
 この地域でのアメリカの戦争能力は世界中の指導者が見つめている。アメリカの軍事力にひれ伏して従属しているふりをする国家指導者も多い。
 だがサウジを守れない防空能力、イスラエルのF35が飛べないロシアの対空能力、フーシなどと言うゲリラに敗戦しつつあるサウジ。これを見ながら北の大将「完全かつ不可逆的な敵視政策の放棄」などとアメリカをおちょくっている。
 トランプはアメリカの弱さを知っておりシリアから撤退するらしい。戦争屋DSは抵抗するだろうが。
 ところで消費税値上げの天罰が東京を襲いそうだ。森田に続いて小池が無能をさらすかもしれない。イデオロギーで知事を選んだウヨクへの天罰となるか?
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-10-09 08:21:37
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 Unknownさまは、戦争=ディープステート=’悪’という構図を描き、アメリカの中東からの撤退を’善’と捉えておられますが、’戦争’と称されるものの中には、侵略や国際法違反の行為を排除する武力行使の形態もあります。アメリカが撤退した後、中国等が他国を侵略した場合、一体、どの国が’世界の警察官’を務めるのでしょうか。この問題についても、深く考えてみるべきではないかと思います。
アメリカはシリアに合法的に駐留していない (Unknown)
2019-10-09 10:00:45
 ISという傭兵まで使って押し込み強盗をしている。国際法違反をしているのはアメリカである。だからトランプは撤兵するのだ。
 アメリカがもともと世界の警察官でもなあいのにバカな議論をしないで欲しい。
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-10-09 19:03:41
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 問題は、アメリカの役割というよりも、アメリカが中東から撤退した場合、その後、どのような事態が起きるのか、ということです。’警察官’が存在しない状況下にあって、誰が侵略行為を止めるのでしょうか。アメリカが撤退すれば平和になるのではなく、さらなる混乱が待っている可能性もあるのですから、早急な判断は禁物であると思うのです。

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