万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ジレンマを抱えるアメリカの3つの対中通商アプローチ

2018-04-09 14:10:39 | 国際政治
米大統領、通商問題で中国の譲歩予想 「障壁は撤廃される」
 アメリカのトランプ大統領は、巨額の対中貿易赤字を削減し、かつ、同国の雇用を護るために、目下、対中圧力を強めております。米中通商対立に関連し、同大統領は、“中国は貿易障壁を撤廃するだろう”と楽観的な見通しを示したそうですが、この発言から、アメリカには、同問題に対して三つのアプローチを用意しているように思えます。

 第1のアプローチは、今般の鉄鋼・アルミ製品に対する高率関税の設定に見られる手法であり、関税障壁による自国産業の保護です。この手法は、保護貿易の古典的な手法であり、価格競争における自国製品の優位において、輸入減少による貿易不均衡の是正効果があります。

 第2のアプローチは、貿易黒字国の政府と輸出入に関する交渉を行うことで、相手国の黒字を削減する手法です。いわば、管理貿易の一種であり、この方法で貿易不均衡を是正するには、貿易黒字国が、自国の輸出を削減する一方で、貿易赤字国からの輸出を拡大する必要があります。もっとも、このアプローチでは、相手国の合意を得る必要があり、そのためには、貿易赤字国が、何らかの“交渉カード”を有する必要があります。今般の米中関係では、アメリカの握る対中“交渉カード”こそ、上述した第1のアプローチ、即ち、関税障壁の設置であり、両者の間ではトレード・オフの関係が成立しています。

 それでは、ここに来て新たに示されている第3のアプローチとは、どのような手法なのでしょうか。上記のトランプ大統領の発言からしますと、それは、現在、中国が外国企業に対して設けている外資規制を撤廃する市場開放要求のようです。しかしながら、この自由化を促進する市場開放の手法は、米中間の貿易不均衡を是正し、併せてアメリカの雇用改善に寄与するのか否かは未知数なように思えます。否、この手法では、逆効果も予測されないわけではありません。

 その理由は、中国企業との合弁企業の強要や技術移転の義務付けといった外資規制が撤廃されるとすれば、逆に、米国企業の中国市場進出が加速される可能性があるからです。米企業の製造拠点の対中移転が増加すれば、中国で生産された米企業製品の対米輸出も拡大しますし(対中貿易赤字の拡大…)、アメリカ国内の雇用も減少することでしょう。また、貿易収支の赤字を中国からの対米金融投資で補い、国際収支を均衡させようとしても、中国企業による米企業の買収や株式投資に資金が振り向けられるとすれば、アメリカ経済そのものが中国のコントロールの下に置かれる可能性もあります。実際に、中国市場では、アリババとテンセントの二強が活発な買収活動で市場を寡占する勢いですが、こうした旺盛なチャイナ・マネーの買収熱が米企業にも及ぶとしますと(ドイツでもベンツ社の筆頭株主が中国の吉利に…)、プラットフォーム型やAIを利用した新型のビジネスは、軒並み中国企業に席巻されるかもしれません(また、“行き過ぎたグローバリズム”で問題視されたように、たとえ米企業が中国市場において勝者となったとしても、本国の米国経済や米国民にその恩恵が及ぶとは限らない…)。しかも、中国国内の企業は同国の国内法により共産党のコントロール下にありますので、中国共産党の国家戦略がアメリカ経済において内部化される恐れさえあるのです。

 そしてもう一つ考慮すべき点があるとすれば、それは、アメリカ側が第3のアプローチを選択し、中国側がこれを受け入れれば、第1と第2のアプローチは放棄せざるを得なくなる点です。少なくとも現時点では、第3のアプローチと第1のアプローチとの間ではトレード・オフが成立していますし、自由化を意味する中国の市場開放が実現した以上、同時に第2の管理貿易のアプローチを採ることも容易ではありません。

 防衛や安全保障上の問題は別途論じるとしても、以上に述べたように、3つの対中通商アプローチの間にジレンマがある以上、特に第3のアプローチについては相当の慎重さを要するように思えます。最悪の場合には、アメリカ経済の衰退に拍車をかけ、中国の野望の実現に手を貸すことにもなりかねないのですから。

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