万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘米中アヘン戦争’の行方-「オピオイド」問題

2019-09-18 13:17:39 | 国際政治
アメリカと中国との間の対立と言えば、誰もが真っ先に頭に浮かべるのが、米中貿易戦争です。あるいは、安全保障の最前線では、中国の軍事的台頭を背景とした新冷戦の構図も出現しています。しかしながら、こうした政治や経済の表舞台の裏側では、熾烈な米中‘アヘン戦争’が繰り広げられているようなのです。

 本日の日経新聞朝刊(9月18日付)に、興味深い記事が掲載されておりました。それは、「フェンタニル」という名の鎮痛剤をめぐる米中対立です。「フェンタニル」とは、1960年代からがん患者の痛みの緩和剤として使用されてきましたが、麻薬と同様の幻覚や高揚感を得られることから、アメリカ国内で同薬剤への依存症が蔓延しているそうです。2017年には、過剰摂取による死亡者数が2万9千人にも上っています。しかも、ここ4年間にその数が9倍にも増加したのですから、米政府としても看過できない問題なのです。

 それでは、「フェンタニル」問題が、何故、‘米中阿片戦争’へと発展したのでしょうか。「フェンタニル」とは医療用鎮痛剤の「オピオイド」の一種です。「オピオイド」とは、恐らく‘オピウム(opium)’、即ち、‘アヘン(阿片)’を語源として命名されているのでしょう。「オピオイド」問題とは、いわば、蔓延の舞台はアメリカに移ったものの、現代の阿片問題でもあります。そして、ここでどうして中国が関わるのかと申しますと、それは、近年、中国からの密輸品が激増したことに依ります。トランプ米大統領は、中国の習近平国家主席に「フェンタニル」の米国への流入を阻止するように要請したにもかかわらず、一向に密輸は減少しませんでした。そこで、業を煮やした同大統領が、中国制裁第4弾を発動した経緯があるのです。

中国からの密輸品が急激に増えた理由は、「オピオイド」が社会問題として深刻化したからです。規制強化によって医療を目的とした医師による処方が減少するのみならず、同薬剤を製造してきた米製薬会社も苦境に陥っています。「オピオイド」を製造してきた大手製薬会社であるパーデュー・ファーマは、2千件を越える集団訴訟によって一兆円を越える和解金の調達を迫られ、9月15日に連邦破産法11条の適用を申請しました。しかも、地方自治体も、オピオイドの中毒・過剰摂取対策のために投じてきた多額の予算の返還を求めて同社を訴えていたと言うのですから、「オピオイド」包囲網ともいうべき状況が出現していたのです。そして、この医薬品としての「オピオイド」の減少分を埋めるかのように侵食してきたのが、中国からの密輸品なのです。

 アメリカによる国を挙げての「オピオイド」に対する取り締まり強化を中国が台無しにしており、トランプ大統領が怒り心頭に発するのも理解されます。そして、ここで気が付くのは、中国と云う国の恐ろしさです。中国は、今日にあっても19世紀のアヘン戦争を自国の屈辱的な歴史として恨みを抱き続けているそうです。香港は1842年に締結された同戦争の講和条約である南京条約によってイギリスに割譲されていますし、この事件こそ、西欧列強による中国の‘植民地化’の始まりと認識しているからです。ここで、かつての英清アヘン戦争と今般の米中アヘン戦争を比較してみますと、奇妙な類似点が見られます。

先ず以って指摘されるのが、中国こそが、当時のイギリスの立場に成り代わっている点です。貿易上、自らに対して不利な政策を採る国に対して、倫理や道徳を無視して相手国の国民を腐敗・堕落させる商品を輸出する手法は、当時のイギリス、あるいは、東インド会社と変わりはありません。また、相手国の禁輸品ほど莫大な利益を生みますので、中国は、米中貿易戦争で減少が予測される貿易黒字を補うために、「フェンタニル」の密輸を影ながら支援しているのかもしれません。同記事に依れば、民間人でも比較的容易に「フェンタニル」を製造できるそうですが、ITを駆使して全国民を徹底的に監視している中国が本気になれば、密造者や密輸業者の摘発や密輸の撲滅は容易なはずです。それにも拘らず、対米密輸が減少していないとすれば、中国政府が黙認しているとしか考えられないのです。トランプ大統領は、当時の清朝の道光帝、あるいは、阿片の取締に当たった林則徐の役回りなのでしょうか。

香港において自由化、並びに、民主化を求める対中抗議運動が起きる中、中国は、西側諸国にアヘン戦争を思い起こさせるべく、意趣返しをしようとしているようにも見えます。たとえ過去に許されていたとしても、現代の価値観からすれば今日では許されない行為は多々ありますが、中国には時間経過による倫理・道徳の発展概念が欠如していますので、犯罪行為であっても‘やられたことはやりかえす’が基本的スタンスなのでしょう。あるいは、アヘン戦争に踏み切った当時のイギリス政府を動かしていたのが東インド会社であったように、今日の中国を裏から操っているのは、東インド会社の後継組織なのでしょうか。そうであれば、当時のイギリスと今日の中国の行動が類似するのも頷けます。米中対立の深層には、国際麻薬シンジケートを含む世界史に潜む巨大な闇を解き明かす鍵が隠れているようにも思えてくるのです。

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