万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の対米‘貿易覇権主義’批判は敗北宣言?

2018年07月14日 15時39分15秒 | アメリカ
米中摩擦の影響議論へ=21日からG20財務相会議
7月6日、終に米中貿易戦争の開戦の火蓋が切って落とされ、トランプ政権による対中制裁追加関税が発動されました。翌7日、中国の新華社通信は、アメリカの対中通商政策を‘貿易覇権主義’として批判する記事を掲載し、同記事では、貿易戦争で敗北するのはアメリカの側であると断言しておりますが、果たして、中国側の予測は当たるのでしょうか。

 同記事は、貿易には勝ち負けはないとする経済学者の見解から説き起こし、アメリカの巨額な対中赤字の発生は中国の国家戦略ではなく、主として米企業の経営戦略に起因する貿易構造や国際分業の結果であることを力説しています。そして、関税を手段とした対中圧力を‘貿易覇権種’と見なすと共に、米企業もまた、世界大で展開してきたサプライチェーンの切断という痛手を蒙ると主張しているのです。いわば、経済封鎖を実施した側が逆封鎖を受けて音を上げたナポレオンの大陸封鎖令の顛末を期待した中国側の勝利宣言なのです。

一方、中国以外の諸国では、米中貿易戦争の行方については、米中貿易の現状分析から中国を不利とする見解が大半を占めています。その理由は、対中制裁を実施するアメリカの狙いが、習近平政権が発表した野心的な産業プランである「中国製造2025」を潰すことにあり、先端産業分野において将来的に中国企業が覇権を握ることを阻止することにあるからです。乃ち、短期的には、上述した新華社通信の記事が指摘するように、中国からの輸入品の関税上乗せの影響から米企業や消費者も不利益を被るでしょう。しかしながら、長期的に見ますと、知的財産権に関して中国政府が実施してきた不公正な自国産業優先政策の下、アメリカの先端技術を貪欲なまでに吸収してきた中国企業が、価格のみならず、技術面でも米企業を凌ぐことが予測されるとなりますと、判断は違ってきます。

20年後において、中国政府、否、中国共産党の全面的なバックアップを受けて急成長を遂げた中国企業が国際競争力において一歩抜きんでた存在となり、‘グローバル市場’において独り勝ちとなる場合、米企業は、中国企業の攻勢を受けて国内市場からも撤退を余儀なくされるかもしれません。言い換えますと、中国企業優位となった将来における米企業の痛手は、今般の対中経済制裁発動によるダメージよりも遥かに深刻であり、そのリスクが予測されるからこそ、短期的な不利益を覚悟してまで、アメリカは、対中貿易制裁に踏み切ったと考えられるのです。いわば、‘肉を切らせて骨を断つ’という荒業なのです。

このように考えますと、新華社通信の記事は、アメリカの目的を直視せず、敢えて論点を逸らしたことにおいて、暗に自国の敗北を認めたのかもしれません。これを裏付けるかのように、以後、先進国に頼らずとも中国自前の技術革新が可能である、とする主旨の中国からの発信が目に付くようになりました。早、鼎の軽重を問うてしまった中国は、まずは経済面において苦境に立たされる結果を自ら招いてしまったように思えるのです。

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