万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府のRCEPインド支援が意味するもの

2019-12-10 16:31:16 | 国際政治
インドが対中貿易赤字を理由として離脱を示唆したRCEP。インドが参加しないRCEPでは意味がないとして、日本国政府は、梶山経産相を同国に派遣するなど、インドを引き留めるために躍起になっております。対印の具体的な支援策としては、インドの競争力を増すために、デジタル分野での協力、並びに、農業や漁業における生産性向上に努める方針が示されました。

 デジタル分野での協力については、インド市場において日本国のIT企業が現地企業と合弁事業を始めるに際し、数千万円の調査費等を補助する制度を設けるそうです。日本国政府としては、インド市場への日本企業進出を後押しすると同時に、IT分野におけるインド製品の対中輸出を拡大する一石二鳥の案なのでしょう。しかしながら、抽象思考に秀でたインドのIT技術のレベルは日本企業の支援を要するほどに低いとは言い難く、Micromaxといった自国企業の育成にも力を入れていますので、日本国政府の支援策がインドをRCEPに呼び戻すほどの効果があるとは思えません。

また、たとえIT技術において日本企業の方が比較的高いレベルにあったとしても、中国の事例が証明するように、長期的な視点からすれば、やがて技術移転を受けたインド製品が輸出競争力を獲得し、日本市場に安価で高品質の製品が流れ込んでくる事態ともなりかねません。本日のニュース蘭にも、中国のスマートフォン・スマート家電大手のシャオミの日本上陸を伝える記事が配信されていました。

 加えて、現状にあってさえ、日本企業は、IT分野では中国企業に押され気味です。自国市場のフェンスでさえままならない状況にあって、インド企業が、日本企業との共同事業にメリットを見出せるのか疑問なところです。仮に何らかの効果が期待できるとすれば、インド製品の競争力強化による対中貿易赤字の減少なのですが、これでは、中国がクレームを付けてくる可能性も否定はできません。WTO等の通商ルールでは政府補助は原則として禁じられていますが、自由貿易圏であるRCEPにあって、日本国政府の支援は、公正な貿易を歪める特定の国に対する公的支援と見なされかねないからです。

 農業や漁業に対する支援策も、インドの食糧事情の改善ではなく、その主たる目的が対中貿易赤字の解消を意図しているとすれば、ITやAI分野でのインド製工業製品の対中輸出が増加しない場合の予防的な措置なのかもしれません。つまり、RCEPにおける‘国際分業’は、最先端技術の分野は中国に任せ、インドには対中輸出向けの食糧生産をさせるという…(日本国政府も農産物や水産物の輸出促進に取り組んでいる…)。

 以上に主要な問題点を述べてきましたが、これらから分かることは、自由貿易主義の理論の非現実性です。古典的な自由貿易理論では、政府が介入しなくとも自然に相互利益的な貿易関係が成立し、貿易収支の不均衡問題は起きるはずもないのですが、現実には、物々交換と同様に貿易にあっても相互利益が成立するケースは極めて稀なのです。しかも、日本国自身もインドと同様に対中貿易は赤字であり、RCEPが成立したとしても、規模の経済が強力に働きますので、必ずしも国際分業において有利なポジションが割り振られ、かつ、対中貿易赤字が改善するとは限りません。最悪の場合には、日本国は、単なる対中食糧供給国、あるいは、外国人向けの観光地に転落してしまうことでしょう。

 おそらく、RCEP構想の発案者は日本国ではないのでしょうが、自由貿易理論が想定する国際分業では、最終的には国別の産業固定化にも行き着きます。日本国政府は、攻めばかりを考えている、あるいは、RCEPにおける配役に満足しているように見えますが、インドの離脱は、日本国に取りましても沈没しそうな危ない船から降りる、九死に一生のチャンスとなるかもしれないと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント   この記事についてブログを書く
« 東大とソフトバンクの「Beyon... | トップ | EUから見るRCEPの無理筋 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際政治」カテゴリの最新記事