万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北方領土問題は日ロ二国間で解決できないのでは?

2018年11月25日 14時52分19秒 | 国際政治
日露平和条約交渉を後押し、外相間でも議論へ
 戦後、解決の日を迎えることなく70余年が経過した北方領土問題。ところが、今般、安倍晋三首相が1965年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約締結に向けた日ロ交渉を進める方針を示したことで、俄かに同問題が国民の関心を惹くこととなりました。同共同宣言では、色丹島と歯舞群島の二島の引き渡しのみを定めているため、日本国政府が、択捉島、並びに、国後島の主権、並びに、領有権を放棄し、ソ連邦の侵略行為を事後承認するのではないかとする懸念も燻っております。

 日ロ間の交渉の行方については不透明感が漂うものの、北方領土問題に関しては、戦後一貫して日ロの二国間で解決すべき問題とする認識が定着してきました。その背景には、ソ連邦は、連合国の一員でありながらサンフランシスコ講和条約の締約国ではないという特別な事情があるのですが、国際法上の一般的な手続きに照らしますと、本問題は、たとえ問題の当事国であったとしても、二国間の合意で解決できないように思えます。

 戦争が双方とも複数の国家群から形成される陣営対陣営を構成する場合、戦争を終結し、平和を回復するに当たって、全ての当事国が参加する講和会議が開かれてきました。同講和会議における全参加国による合意こそ平和条約の締結であり、領土の帰属問題も、講和条約を以って解決されたのです。例えば、全ヨーロッパを巻き込んだナポレオン戦争の後にはウィーン会議が開催され、第一次世界大戦後の講和会議の地はフランスのパリでした。後者では講和条約自体は国別に作成されたものの、講和会議に全当事国が参加し、合意を形成しなければならない理由は、それが、戦後の国際体制を構築する行為に他ならなかったからです。乃ち、講和会議には、単なる和解を越えた国際秩序上の重要な意義があったのです。

 それでは、第二次世界大戦ではどうであったのでしょうか。実のところ、1945年7月26日に発せられたポツダム宣言の頃までは、戦後の国際秩序に関しては、ソ連を含めた体制の構築を構想していたようです(なお、この点は、ひと月前の同年6月に署名された国際連合条約からも確認することができる)。そして、同宣言の八には、「カイロ宣言の条項は、履行せられるべく、また日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに吾等の決定する諸小島に局限されるべし」とあります。この一文で注目すべきは、‘吾等の決定’という言葉です。何故ならば、この表現は、連合国間での合意を意味しているからです。乃ち、諸小島の帰属については、ロシア(ソ連邦)一国で決定することができない問題なのです。しかも、カイロ宣言でも、「同盟国は、自国のためには利益も求めず、また領土拡張の念も有しない。」とし、大西洋憲章で掲げた原則を再確認していますので、ロシア(ソ連邦)は、その領土拡張を日本国に対して求めることもできないはずなのです。そして、実際に、アメリカは、1965年の日ロ共同宣言に際して日本国政府に警告したように、ロシア(ソ連邦)による北方領土の領有を認めてはいませんし、英仏も不承認の姿勢にあります。

 冷戦の激化により、サンフランシスコ講和会議では、全世界を包摂する新たな国際秩序を形成することはできませんでした(国連も機能不全に…)。そして、慣習国際法ともなっていた戦争終結の正当な手続きを考慮すれば、北方領土問題は、日ロ二国間ではなく、旧連合国諸国が合意し、日本国等を交えた国際会議を招集し、かつ、新たな国際体制の一環として解決すべき問題なのではないでしょうか。第二次世界大戦において掲げられた連合国の大義が、侵略国家と戦い、全体主義の頸木に繋がれた諸国に自由と民主主義をもたらすことにあるならば、ロシア(ソ連邦)による北方領土侵略は、決して承認されることはないでしょう(日本国は、東京裁判において戦争犯罪を問われた…)。そして、第二次世界大戦に際して払われた連合国、並びに、枢軸国諸国の国民の多大なる犠牲が唯一報われる道があるとすれば、それは、全ての諸国の正当なる権利と安全が保障されるべく、法の支配に基づく侵略なき国際法秩序を築くことではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 恐るべき韓国の事実認識の誤り | トップ | 中国の‘消費大国化’はアメリ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
北方領土問題 (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2018-11-25 22:44:33
この、北方領土問題は、私にとっては難しい話しですが、本来北方四島は日本の固有の領土であり、この主張はあくまでも譲ってはならないと思います。
安倍総理は、ともかく、日露平和条約を結び、さし当たっては『歯舞、色丹』の二島だけでも先行返還させたいともくろんでるようですが、果たして、そういう思惑通りにいくでしょうか?
安倍総理は、何か、在任中に「おおきな仕事??」をして、みんなをあっと言わせたい野心?があるらしく、そのため、本来の自民党の原則さえ歪めてる傾向があり、危惧の念を禁じ得ません。
日露平和条約の問題にかぎりません。安倍さんの最近の政策は、非常に危ないです。

この北方領土問題について、たまたま或る男性(普通のサラリーマン、管理職の人)と雑談しているときに話題になったのですが、その人は『北方領土返還は日本人の悲願だが、このままではロシアは絶対に返さないと思うね。なにしろロシアは軍事大国だからね。時間が経つうちに、ますます、北方領土の返還は絶望的になるだろう。だから早急にロシアと交渉して、せめて歯舞、色丹の二島だけでも返してもらえたら【御の字(おんのじ)】なんじゃないかな』と、いってましたが、私は、それはちょっと違うんじゃないかなあ、と思いました。

やはり、倉西先生のおっしゃるように欧米諸国などの国際社会全体の参与によって正しい解決を望むべきではないかと、思いました。
ただ、欧米諸国が、この問題について、どれだけ本気で関心があるのか?と云うことも、気になるのですが、、、、
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2018-11-26 07:30:48
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 軍事大国を理由に侵略による領土割譲が許されるようになれば、中国をはじめ、軍事力を擁する大国は、領土拡張主義を加速させてゆくことでしょう。いわば、弱肉強食の時代に逆戻りすることになるのですから、人類の倫理的な発展を考慮しましても、北方領土につきましては、筋を通すべきではないかと考えております。日本国政府は、対ロ交渉よりも、国際社会に解決への協力を訴えるべきなのではないでしょうか。

国際政治」カテゴリの最新記事