万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日米貿易協議-本音で交渉しては?

2018-08-11 15:59:52 | 国際政治
日米協議、車や農業折り合わず 9月に持ち越し
 2017年1月のトランプ政権の発足は、関税政策が、国家の通商戦略の一環となってきた時代の再来を意味しています。戦後に成立した自由貿易体制では、関税政策そのものが時代の流れに逆行する‘悪者’と見なさる傾向にありましたが、関税障壁が有する内外調整の役割を考慮しますと、一概にトランプ政権の方針を非難はできないように思えるのです。

 今では殆ど死語と化していますが、関税自主権という用語は、日本国内では誰もが教科書で習った馴染み深い言葉です。江戸末期に米、英、仏、露、蘭の五か国と締結した安政の五条約は、条約により関税率が定められたため、日本国が、自由に関税率を変更することはできませんでした。このため、交易条件において日本国が不利となるケースもあり、領事裁判権の撤廃と並んで関税自主権の回復は、明治政府の悲願ともなったのです。こうした歴史は、一旦、不利な条件の通商条約を締結してしまうと、相手国があるだけに、簡単には是正することができない厳しい現実を示しています。

 今日では、軍事的圧力の下で相手国に不利な条約を課す不平等条約は影を潜め、一先ずは、対等の立場における交渉を経て双方の自発的な合意に基づいて通商条約が結ばれています。かくして砲艦外交も過去のものとなると共に、条約の内容も、戦後の自由貿易体制の成立と共に、双方が関税や非関税の撤廃や削減に努める方向へと向かいました。しかしながら、レッセフェール的な自由貿易、並びに、市場統合には自ずと勝ち組と負け組を造りだすメカニズムがあり、かつ、当事国間の経済レベルに格差が存在する現状を直視しますと、自由貿易協定であれ、経済協力協定であれ、その果実が全ての締約国に‘平等’にもたらされるとは限りません。たとえ自由貿易を基調とした‘平等条約’であったとしても、それぞれの国は所与の条件が違いますので、不平等な結果をもたらす可能性は極めて高いのです。トランプ政権が、困難が予測されるNAFTAの再交渉に着手し、TPPからの離脱を決意したのも、表向きは平等に見えるこれらの協定が、その実、‘不平等条約’であることに気が付いたからなのでしょう。

 そして、実のところ、この側面は、二国間条約でも多国間条約でも、変わりはありません。となりますと、先日開始された日米貿易協議は、奇妙な交渉と言わざるを得ないのです。何故ならば、アメリカ側が日米二国間でのFTAの締結を求める一方で、日本国側は、TPP11へのアメリカの復帰を念頭に、多国間でのFTAへの参加に拘っているからです。すなわち、双方とも、相手国に対しては自由化を求めながら、自国については自由化を拒絶しているのです。

こうした奇妙な展開は、建前と本音の不一致によって生じるのであり、円滑な通商交渉を阻害する要因ともなります。日米双方が利益を得る通商関係を築くには、むしろ、建前を捨てて本音で自らの立場を主張し、両国にとりまして双方が益となる‘最適な取引’、を模索したほうが、建前を貫いたばかりに生じる不要な犠牲を払わなくても済むのではないでしょうか。例えば、双方の保護対象分野を認めた上での、関税率の特別減免措置や現状維持、数量制限の容認、セーフガード条項の条件緩和、資源を含む相手国特産品の輸入拡大、政府調達における優先交渉権、再交渉の容易化あるいは定期化…を組み合わせるといった措置も考えられるのではないかと思うのです。

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