万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ワクチンパスポートの設計者は’予知能力者’?

2021年11月03日 12時48分39秒 | 国際政治

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック化から1年足らずして、同ウイルスに対するワクチンが開発・実用化されると共に、ワクチンパスポートのアイディアも現実のものとなりました。当初、発祥地の武漢にあって街行く人々が突然に倒れ、市民がパニックに陥っている映像が全世界に拡散されたことから、恐怖心に駆られた人々は、ワクチンパスポート導入までの流れに然したる違和感はなかったかもしれません。しかしながら、コロナ禍にあって一定の時間が経過し、我に返って人々が平常心を取り戻すにつれ、ワクチンパスポートの怪しさに気が付く人も増えてきたように思えます。

 

 ワクチンパスポートの制度をめぐっては、ワクチン接種の感染予防の効果は限られているなど、様々な問題点が指摘されていますが、その一方で、もう一つ、重大な疑問点があるように思えます。それは、同制度が、新型コロナウイルス感染症という特定の感染症に特化されて制度設計されている点です。

 

人類は、古来、数多くの感染症と闘ってきました。そして、有毒ウイルスとの闘いにあって、人類側の勝利に向けたブレークスルーとなったのは、ワクチンという予防方法の開発です(近代免疫学の父とされるエドワード・ジェンナーによるとされる…)。近代に至り、全世界に普及したワクチンの予防接種により、人類を死の恐怖に陥れてきた感染症の多くが撲滅、あるいは、制圧されたのです。今日、乳幼児期から接種されているワクチンの多くは、感染予防の効果のみならず、安全性が確認された感染症に対するものです。撲滅されたのは1980年に根絶が宣言された天然痘のみなのですが(もっとも、研究所には保管されている…)、結核、ジフテリア、腸チフスなども、ワクチン接種によってその集団発生は激減することとなったのです。

 

かくしてワクチンは、人類のいわば’救世主’となったのですが、今日に至るまで、これらの既存のワクチン接種については、その有無を確認するワクチンパスポート制度を提案した人はいませんでした。このことは、そもそもワクチン摂取が完全に安全であって、長期的に同効果が持続する場合には、ほぼすべての人々が自発的にワクチンを摂取することもあり、ワクチンパスポートといった制度を設ける必要性はないことを示しています。

 

となりますと、同制度の発案者は、ワクチンの安全性や効果を疑問視して、多くの人々がワクチンの摂取を拒否することを既に予測していたこととなります。すなわち、同制度の発案者には、ワクチンの安全性は医科学的に短期的には証明されず、一定数の未接種者が現れることが初めから分かっていたことになります。ワクチンパスポートとは、未接種者が存在してこそ、成り立つ制度であるからです(未接種者をワクチン接種に追い込む仕組み…)。

 

第2に、既に治療薬や治療法が確立している場合にも、ワクチンパスポートは不要となります。ペスト、ハンセン病、さらには梅毒やエイズなど、今日にあってなおも人類の生命や健康に対して脅威を与えながら未だにワクチンを開発できない感染症も存在しています。これらの感染症の場合には、ワクチンは存在していなくとも、一先ずは、完治に至らないまでも、ある程度の効き目が認められる治療薬や治療法が開発されていますので、ワクチンパスポート導入の議論は見られないのです。

 

その一方で、今後とも、既存のワクチン効果を減滅させてしまう新型コロナウイルスの変異株のみならず、より毒性の強い変異種も登場するかもしれませんし、新型コロナウイルス以外にも、新たに未知の有毒ウイルスがパンデミックを起こすかもしれません。中国が主張するように、新型コロナウイルスが野生のコウモリを起源とするならば、未知の有害ウイルスがパンデミックを起こす事態は、今後ともあり得ます。仮に、未知の感染症に対するワクチンが開発された場合にあっても、ワクチンパスポートは、これらのワクチン接種に対しても設けられるのでしょうか。複数の感染症に対するワクチン接種を同時にチェックするとなりますと、有効期間などのばらつきを含め、極めて煩雑な制度となります。

 

何れにしましても、俄かに出現したワクチンパスポート、あるいは、ワクチン証明書の制度には不審点が多すぎます。上述した考察からしますと、同制度の設計者は、多数のワクチン拒否者の発生、コロナ禍の長期化、コロナワクチン効果の限定性、治療薬や治療法の開発・実用化の遅延、変異種や未知のウイルスの不出現…などを、予め知っていたとしか考えられないからです。ワクチンパスポートが1年や2年といった短期間で廃止されるならば、政府のシステム整備にかかる予算、並びに、同制度を導入する事業者の設備投資は無駄となることでしょうから。同制度の設計者は、予知能力を備えていたのでしょうか。謎は深まるばかりなのです。

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