万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

朝鮮戦争終結で北朝鮮は軍事独裁体制から経済利権独占体制へ?

2018-04-28 15:20:38 | 国際政治
「完全非核化目標」と明記 北朝鮮、南北会談を報道
 昨日、朝鮮半島の板門店で設けられた南北首脳会談において、両国首脳が最も強調したかった合意点は、予想通り、朝鮮戦争の終結であったようです。案の定、非核化問題について沈黙してきた北朝鮮の朝鮮中央通信も、同会談の共同宣言を「板門店宣言」として報じながらも、同問題については、“付け足し”程度の報道ぶりであったようです。

 ところで、プロパガンダと演出を重んじる南北両政府とも、同会談を朝鮮戦争終結への道筋をつけた歴史的快挙として浮かれておりますが、朝鮮半島における朝鮮戦争の終結が何を帰結するのか、真剣に考えた末なのか疑問なところです。何故ならば、朝鮮戦争が幕を閉じれば、同時に、北朝鮮の軍事独裁体制もまた終焉を迎えざるを得ないからです。

 北朝鮮の独裁体制は、外部に“敵”の存在があってこそ、成立し得えるものです。歴代の指導者達は、恒常的な戦時体制を以って自らの独裁権力を正当化しており、アメリカや韓国、時には日本国をも倒すべき敵国として罵倒してきました。北朝鮮国民も、幼少期から一致団結して戦う心構えを叩き込まれ、“将軍さま”が敵国を倒す日を信じて窮乏生活に耐えています。飢餓が起ころうが、抑圧的な生活を余儀なくされようが、あるいは、指導者達が贅の限りを尽くした生活を送ろうが、どれもこれも戦争に勝つという目的の前には些細なことでしかなかったのです。

 しかしながら、今般、両国が平和に向けた新たな道を歩み始めるとしますと、北朝鮮国民は、一体、どのような反応を示すのでしょうか。もはや憎き“敵”はいなくなるのですから、軍のトップに座す金正恩委員長のみならず、朝鮮人民軍もまた、これまでの特権的な立場を維持できなくなります。従来の先軍政治は方向転換せざるを得ず、国家の予算や資源も経済分野に重点的に振り向けられることになりましょう。

 確かに、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会においては、核開発は完了したとして“並進”路線から転換し、今後は“社会主義経済建設”を目指すとしており、既に経済中心への移行の兆候は見られます。また、金委員長が極秘に訪中した際にも、改革開放路線のモデル事業等を視察するなど、経済に対する高い関心を示しています。となりますと、ソ連邦崩壊に際して、旧共産党員が企業家に転身し、中国においても共産党幹部が経済利権を握ったように、北朝鮮にあっても、指導者と軍部に経済利権を集中させる“新たな体制”への転換を図ろうとしているのかもしれません。

 そして、ここに一つの可能性としてのシナリオが想定されます。それは、米朝首脳会談において、北朝鮮が急転直下、アメリカが求める“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”に応じるとするものです。おそらく、その見返りは“体制の保障”であり、それは、現行の軍事独裁体制ではなく、金一族、並びに、その取り巻きによる経済利権の独占体制の承認となのでしょう(北朝鮮の鉱物資源や労働力等を狙う米欧企業、並びに、中韓企業にとりましても、独裁体制の方が取引し易い…)。政治的な民主化は、AIや情報通信分野における先端技術を駆使した情報統制や監視システムによって押さえつける一方で、経済面においては、独裁者が党を介して官民の企業をコントロールするという、かの中国モデルです。冷酷で利己的な金正恩委員長であれば国権を私物化し、国民を置き去りにしても自己利益の最大化を図ることには躊躇しないことでしょう。しかも、“北朝鮮の核放棄”の合意ともなれば、米朝首脳会談において得意の“サプライズ”を演出できますし、経済制裁も解除される上に、国際社会から惜しみない称賛を受けるかもしれないのです。北朝鮮が、あくまでも核保有に拘る場合には、米朝首脳会談の決裂から軍事制裁へと事態は進展しますが、金一族が、利権さえ手に残れば核を手放すと決断するならば、両国間の合意成立もあり得るシナリオなのです。

 このシナリオは、北朝鮮の核放棄という点において、所期の国際社会の目的は達成されたように見えます。しかしながら、習近平国家主席をトップとする個人独裁を確立した中国が、国民の不満を逸らし、かつ、求心力を高めるために軍事的な拡張主義に活路を求めているように、北朝鮮の軍国主義も、何時、復活するか分かりません。特に警戒を要するのは日本国であり、南北首脳会談の晩餐会のデザートに竹島が登場したように、日本国は、南北共通の“敵”に仕立て上げられる可能性さえあるのです。また、長期的な視点からしますと、身勝手な金委員長の変わり身の早さと国家の私物化は、金一族に対する民心の離反を招き、真の意味での体制崩壊をもたらすかもしれません。

 このように考えますと、たとえ米朝首脳会談で“北朝鮮の核放棄”が合意されたとしても、手放しには歓迎できないように思えます。中国モデルの独裁国家が一つ増えただけであり、利益を得るのは利権に与る独裁者と国際経済勢力といった一部の人々でしかないからです。民主主義も自由も犠牲に供され、国際社会の法もモラルも、経済勢力を味方に付けた全体主義国家群によって蝕まれることでしょう。この解決方法が果たして人類にとりまして望ましいのか、今一度、深く考えてみる必要があるように思えるのです。

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2 コメント

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果たして北朝鮮は「自由化」するか?金王朝の崩壊の瀬戸際。 (本田伸樹)
2018-04-28 17:05:19
倉西先生。
いつもご指導ありがとうございます。
今回の、南北首脳会談は全くの茶番であったと私は思っています。
しかし、一点、金正恩が「微笑外交」を、今後一定期間続けていく決断をしたとすると、金正恩にとって、それなりの覚悟とリスクを背負った決断と私は考えます。
なぜなら、北朝鮮にとって、西側との宥和は、現体制を揺るがしかねない大きな危険をはらんでいるからです。
この点については、先生の御指摘に全面的に従うものです。
脱北者の証言にもあるように、北朝鮮国民は「精神的」に金王朝に心服しているものではありません。
西側世界との接点が増し、多層的なレベルでの交流の機会が増えると、北朝鮮国民の「合理的な」判断力が、独裁の恐怖政治を行う金王朝を崩壊に向かわせるのでは?という可能性を今、考えています。
しかし、日本での朝鮮総連の活動などを見ると、その可能性もわずかしか期待できないのでは、という失望の感もあります。
いずれにせよ、北の核放棄が実現したら、それは千軍政治の一元的な価値観の放棄なのですから、以降の金王朝と北朝鮮国民との関係の推移は注視していかなければと思っています。
今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。
本田伸樹さま (kuranishi masako)
2018-04-28 20:49:46
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 北朝鮮問題の解決につきましては、順番を間違えてはならないと考えております。結果として、中国モデルの独裁が増長し、国際社会が無法化したのでは、人類にとりましては退化以外の何ものでもないように思えます。米朝首脳会談に臨むトランプ大統領には、是非とも、深慮をお願いしたいと思うのです。

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