万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本は中国に‘サービスの自由’を認めたのか?-中国系プラットフォーマーの脅威

2019年12月01日 13時03分06秒 | 日本政治
 日本国が締結した通商協定と言えば、先日、日米間で成立した日米貿易協定が記憶に新しいところです。最近に至り、TPP11や日EU経済連携協定なども締結され、自由化による日本経済への影響が議論されてきました。その一方で、世界第二位の経済大国である中国との関係を見ますと、RCEPや日中間貿易協定の構想はありながら、同国に対する警戒感もあって未だに足踏み状態が続いています。

こうした状況から、日本国と中国との間には、何らの通商協定も存在しないように思われがちなのですが、1949年の中華人民共和国の建国後から3年を経た1952年に第一次日中民間貿易協定が結ばれています。同協定は、1958年に発生した長崎国旗事件を機に中断されましたが、日中間の国交が樹立されますと1974年に日中貿易協定が締結され、今日に至っています。現行の協定の主たる内容は、関税その他に関する最恵国待遇の相互確認や貿易決済方法などであり、グローバル時代を迎える以前の旧式の貿易協定と言えましょう。以後、両国間で二国間協定は結ばれることなく45年が経過し、中国との通商関係は、同国の2001年の加盟により一先ずはWTOを枠組みとして行われています。乃ち、グローバル時代にあって、日本国は、通商において中国に対して特別に優遇措置を与えているわけではないのです。

 しかしながら、日本国内を見ますと、製品分野のみならず、IT関連のサービス事業の分野においても、中国系企業の存在感は日々増してきています。中国系メディアの記事によると、東京と京都に進出した配車サービス大手の滴滴出行は、今後、日本国内での事業を20都市に拡大するそうです。その他にもアリペイやテンセントも日本国内でサービスを開始していますし、オンライン・ゲームや音楽配信などを手掛けるプラットフォーマー系の企業が続々と日本市場に上陸しているのです。この現象は、日本企業との提携の下であれ、事実上、日本国政府が、中国系企業に対して‘サービスの自由’を認めていることを意味しています。

 関税の撤廃による製品市場の開放とサービス市場の開放とは、その内容に大きな違いがあります。両者の違いについての詳述はここでは控えますが、前者は、自国産業への影響等を考慮して関税を維持したり、漸次的に削減することもできますが、後者の場合には、市場参入を認めるか、認めないかの‘ゼロか1’かの選択となります。乃ち、一旦、認めたが最後、自国企業と同等に事業を展開することができますし、特にプラットフォーマーによるサービス提供が主たる形態となりつつ今日では、交通、金融、情報・通信、エネルギーといった自国民の経済や社会活動に密着するインフラ系の事業分野にも進出可能となるのです。

それでは、何時から、日本国政府は、こうした分野にあって中国に対してサービスの自由を認めるようになったのでしょうか。WTOには、GATS(サービスの貿易に関する一般協定)と称される協定があります。1994年の同協定の成立を機に、日本国政府も自国のサービス市場の自由化を進めてきたのですが、必ずしも全加盟国に対して相互的な開放義務を課しているわけではありません(加盟国は、特定の約束を表として作成し、適用除外を設けることもできる…)。実際に、レコードチャイナやサーチナといった中国系メディアは、日本国内で自由に情報発信サービスを行っていますが、日本系のメディアが中国で同様の事業を自由に行うことはできません。また、GATSは、今日、顕在化しているIT大手によるプラットフォーム事業の問題に対して十分に対応する規定を設けているわけではないのです。

以上の諸点から浮上してくるのは、日中間にサービス分野を含む貿易協定が存在しないにもかかわらず、サービス分野における中国企業の日本市場への進出が一方的に加速している理由は、日本国政府が、特別に事業許可を与えているからではないかとする疑いです。仮に、公式の貿易協定が結ばれれば、日本国が一方的に自国の市場を開放する‘不平等条約’であることが一目瞭然となり、国民からも批判を受けますので、むしろ、水面下で目立たぬように既成事実化しているのかのようなのです。そして、親中派で知られる公明党が、国土交通大臣のポストを独占しているところも、気に掛かるところなのです。

なお、今日、G20などでも国境を越えたデータの取り扱いがルール化の方向で課題となっておりますが、GASTでも、データと云う言葉は使われていないものの、安全保障と並ぶ一般的例外として、第14条(c)(ii)に「 個人の情報を処理し及び公表することに関連する私生活の保護又は個人の記録及び勘定の秘密の保護」という規定があることはあります。中国系プラットフォーマーは、サービス提供に際して日本人の個人情報をも収集しているのですから、同規定を理由として日本国政府は、事業許可を見送る選択もあったはずです。香港やウイグル等における弾圧的な対応が示すように、中国という全体主義国は、他国や他民族に対して侵略的であり、かつ、洗脳をも厭わない不寛容で排他的な国です。日本国政府は、中国企業に対して特別の優遇措置を与える必要はなく、それは、国家と国民の安全にとりまして危険ですらあると思うのです。

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