万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

トランプ大統領の“体制保障”とは北朝鮮の‘被保護国’化?

2018-05-18 10:29:17 | 国際政治
リビアと異なり金正恩体制保証=北朝鮮の非核化で―米大統領
米朝首脳会談を来月12日に控え、米朝間の駆け引きが活発化してきております。北朝鮮側が同首脳会談のキャンセルを‘警告’したのに対して、アメリカのトランプ大統領は、金正恩委員長に対して‘体制保障’を明言したと報じられております。

 ‘体制保障’に関するトランプ大統領の具体的な表現は、「彼は国にいて、国を支配し、国は豊かになる」というものです。この表現からしますと、アメリカ側が言う“体制保障”とは、おそらく、リビア方式とは異なるプロセスであれ、金委員長が‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を受け入れれば、その‘見返り’として、同委員長が北朝鮮に留まり、引き続き独裁者として統治権を一身に掌握し、かつ、アメリカの経済支援の下で経済改革に取り組む、という意味になります。言い換えますと、アメリカは、同委員長に対して命の保障、即ち、亡命を勧告したわけではなく、アメリカの保護の下で独裁者の地位は保証されるけれども、アメリカの経済的コントロールを受け入れよ、と要求しているのです。

 アメリカの北朝鮮に対する最大の譲歩はこの意味における‘体制保障’ですが、譲歩の形を取ながらも、それは、北朝鮮に対する‘強い要請’とも読めます。そして、この譲歩案は、北朝鮮が、事実上、アメリカの“被保護国”となることを意味するのではないでしょうか(20世紀まで見られた歴史的な‘被保護国’は、外政に関する権限を保護する側の国に移譲するので、内政に関する権限も委任する今般のケースは、むしろ、‘属国’に近いかもしれない…)。実際に、トランプ大統領は、「我々は多くの事を北朝鮮に提供するつもりだ。もし、首脳会談が行われれば良い関係を築けると思う。北朝鮮は強い保護を受けるだろう」とも述べています。

 また、仮に、トランプ大統領の発言が北朝鮮の被保護国化を示唆しているとしますと、リビアとの比較に関する不可解な言及ついても説明がつきます。何故、不可解なのかと申しますと、同大統領は、核合意後に体制が転覆したリビアについて、当時、アメリカは、‘体制保障’をしていなかったからと述べているからです。リビアのカダフィ政権の崩壊は、民主化運動から内戦への流れの中で発生していますので、仮に、北朝鮮の金正恩独裁体制を保障するとなりますと、アメリカは、以後、国民から湧き上がる自由化・民主化要求運動、並びに、独裁体制の打倒を掲げる反体制派を弾圧しなければならなくなるからです。

 被保護国化のみならず、外国による民主化弾圧の事態は、主権平等、民族自決、内政不干渉といった国際社会の原則にも反するのですが、危機後の‘北朝鮮管理’あるいは‘移行期管理’の文脈から見ますと、一定の安定化の効果は期待できます。何故ならば、北朝鮮は、アメリカの管理下に入るわけですから、その肩書に変化はなくとも金正恩委員長は実質的に‘アメリカの代官’となり、真の統治者はアメリカとなるからです。つまり、真の統治者であるアメリカは、金委員長を介して、自由化を含む北朝鮮の国内改革に取り組むかもしれないからです。もっとも、民主化については、そもそも朝鮮半島には民主主義の歴史が殆ど皆無であり、また、自由、人権尊重、法の支配、公平・公正といった普遍的価値に対する理解も乏しいことから、国民に対して自由主義国への転換に相応しい適切な教育を施すための、一定の期間を設けるかもしれません。アメリカが、永久に金一族世襲王朝を保障するとは考えられませんので、おそらく、保障期間は、長期に亘って受けてきた国民の洗脳を解く期間をも考慮し、金正恩委員長の一代限りとなるのではないでしょうか。

 以上にアメリカによる北朝鮮の被保護国化について推測してみましたが、問題が残されているとしますと、それは、中国問題です。アメリカによる北朝鮮の自由化、特に、経済分野での自由化によって最も恩恵を受けるのは、グローバリズムを自国の覇権主義に活用している中国かも知れないからです。核放棄とほぼ同時に国際的な対北経済制裁網が解かれれば、真っ先に、鉱物資源やインフラを含め、北朝鮮経済の掌握に乗り出すのは、国境を接し、かつ、資金力優る同国に他なりません。そして、北朝鮮もまた、自国経済のモデルを中国とベトナムに求めていると報じられています。アメリカは、虎視眈々と漁夫の利を狙う中国の積極的な動きに対してどのような対策を講じるのか、あるいは、対中抑止の観点から首脳会談の決裂を選択するのか、北朝鮮危機に関しましては、米朝首脳会談に向かってここ暫くの間、関係各国、並びに、国際勢力の思惑が複雑に交差する正念場が続くように思えるのです。

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コメント (2)   この記事についてブログを書く
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2 コメント

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完全にセレモニーだった! (mobile)
2018-06-13 09:04:54
米朝会談は完全にセレモニーで、共同宣言も具体的な項目のない空論だった。
救いは、宣言の内容を逆に読むと『核保有する限り体制は保証されない』となるのと、事後にトランプが語った『核問題が重要でなくならない限り経済制裁は継続する』という2点だけかな?
mobileさま (kuranishi masako)
2018-06-13 09:50:41
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 昨日の命朝首脳会談は、全く以って期待外れでした。共同宣言の内容に納得できる人は、おそらく、ほとんどいないのではないでしょうか(もっとも、中国やロシアは歓迎では…)。確かに、’救い’はあるようにも思えますが、前者については、あくまでも、意志、あるいは、約束(英語ではcommtment)であり、具体的な行動を意味していません。また、後者についても、既に中国、ロシア、韓国が、制裁解除に向けて動いているとの情報もあります。予断を許さない状況が続いており、同会談によって、国際情勢は、安定化どころか、さらに不安定化したのではないかと考えております。

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