万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

“トランプノミクス”に一理がある理由

2018-01-22 16:08:08 | 国際政治
 ドナルド・トランプ氏が鳴り物入りでアメリカ大統領に就任してから、早、一年が経過しました。保護主義的な政策を打ち出しての登場であっただけに、グローバル企業からの風当たりも強かったのですが、懸念されたようなアメリカ経済の失速には至っていないようです。

 あらゆる国境規制を取り払うことを是とするレッセフェール的な自由貿易主義者にとっては予想外の展開となったわけですが、“トランプノミクス”には、一理あるように思えます。何故ならば、もの、サービス、お金、人、技術、情報等の国境を越えた移動を完全に自由化した場合、必ずしも全ての諸国が繁栄する共存共栄に至るとは限らないからです。しばしば自由貿易主義の理論的根拠として引き合いに出されるリカードの比較優位説も、経済力において抜きんでた地位にあった19世紀イギリスの自由貿易体制の正当化理論であり、同氏は、かのカール・マルクスと同時代に活躍した人物です。200年前と市場統合が進展する現在の経済状況は著しく違っていますし、それが喩え貿易利益に関する一面を切り出しているとしても、マイナス面まで包摂して説明しているわけではありません。

 自由貿易主義を支える経済理論が懐疑に晒される一方で、現実は、徹底したグローバリズムの行く先には、格差に沿った“都市部”や“グローバル企業”への偏った集中化を示唆しています。何れの国でも、国内には移動に関する境界が存在しないため、農村部からの人口流出による過疎化や地方経済の衰退に悩まされています。この現象は、グローバルレベルでもあり得ないわけではありません。グローバリズムは、国籍等に関係なく能力を認められた少数の人には等しくチャンスを与えますが、その他多数の人々は、廉価な労働力として扱われるか、あるいは、グローバリズムの波に乗れない‘見捨てられた人々’となるリスクが高いのです。世界大での分業の成立は、現実には国家や地域間に経済格差があり(移動は高きから低きへ…)、それに基づいて役割が決まる以上、グローバル企業の戦略上においてどの役割を担うかによってその恩恵は一律ではなく、グローバリズムの経済効果とは、全体から見れば不均等分散型なのではないでしょうか(仮に、世界レベルで完全に経済格差が収斂した場合には、移動の必要性もなくなる…)。

 このように、経済分野におけるグローバリズムの問題は、国民国家体系と抵触するが故に、社会分裂を伴う深刻な移民問題を引き起こしますが、経済面のみに注目しても、レッセフェール的なグローバリズムは、全ての諸国や人々にとりまして望ましい未来ではないように思えます。否、自由貿易原理主義が吹き荒れ、中国企業が強大化する現状にあるからこそ、弱肉強食、あるいは、相互破壊に陥らないよう、一定のルールを設ける必要があるのではないでしょうか。ルールとは、その本質において各自の自由を抑制し、かつ、全ての主体に対して保護的であることを考慮しますと、保護主義を打ち出す‘トランプノミクス’の方向性を無下には否定できないように思うのです。

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2 コメント

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Unknown (北極熊)
2018-01-24 12:56:49
より広域に人、物、金が交易をすれば全体としての経済成長は見込めると思いますが、地域格差をどのように是正しながら進めていくかが課題ですね。 EUでユーロを共通通貨としたことによって、ギリシャだけでなく、イタリアやスペインの経済はダメージを受け、得をしたのはドイツだけでした。 EUには、日本国内における地方交付税のような仕組みで、欧州連合に集めた税金を各国に再配分する仕組みが必要なのだと思います。そうでなく、労働力移転で解決と言われていましたが、スペイン語通じないドイツに人が動く訳が無いですよね。 
北極熊さま (kuranishi masako)
2018-01-24 13:38:07
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 ギリシャの財政危機を背景に、EUでは、フランスのマクロン大統領が財政移転の強化を訴えておりますが、メルケル首相の方針とは一致しても、ドイツの一般世論は反対論が強いようです。ましてや、一帯一路構想にはこうした再配分の仕組みはありませんし、実のところ、NAFTAやTPP等も同様です。予定調和的な自由貿易論は現実の現象を説明しておりませんので、むしろ、理論の方の見直しを急ぐべきではないかと考えております。

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