万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

’三つ目の世界大戦’の勝利条件は’第三次世界大戦の回避’では?

2022年06月16日 13時11分49秒 | 国際政治
先日、フランシスコ法王が過去に述べた’三つ目の世界大戦’に関する発言に言及したことから、ウクライナ危機の行方が改めて懸念されることとなりました。2015年頃、即ち今から7年ほど前から、同法王は、既に世界は戦争状態にあると語り始めています。当時、イスラム過激派によるテロやISの勢力拡大からイスラム問題が深刻化していましたし、NATOのフィリップ・ブリードラブ欧州連合軍最高司令官をはじめとして、「アメリカとロシアの核戦争が世界大戦引き起こす」とする不吉な予測もありました。世界大に張り巡らしてきたカトリック教会情報網を擁するバチカンからしますと、法王の発言は、精緻な情報分析に基づく人類に対する‘警告’であったのかもしれません。

 2016年の法王発言において特に興味深いのは、具体的な国名や発端となる地域紛争を挙げるわけでもなく、「利害・富・天然資源・人々の支配を巡る“本物の戦争”」と表現していることです。この抽象的で曖昧な表現は、宗教的権威による扇動効果を危惧して焦点をぼかしているのではなく、近代以降の世界大戦の構図が、超国家勢力との間の三次元戦争である実態を表しているのかもしれません。’利害’も’富’も’天然資源’も’人々の支配’も、何れも地球規模で争われており、法王の視点は、イエズス会出身らしくまさに地政学的であるからです。そして、この視点からしますと、’三つ目の世界大戦’は、’既に’起きているということになるのです。

 今日、’三つ目の世界大戦’の只中にあり、それが三次元戦争であるとしますと、何れの諸国も水平方向と垂直方向との両面戦争を戦うこととなるのですが、少なくとも、紛争当事国がロシアとウクライナの二国間に留まっている限り、教科書的な表現としての世界大戦、すなわち、第三次世界大戦には至ってはいません。’三つ目の戦争’が、超国家勢力と国家群との三次元戦争、並びに、従来の二次元戦争としての第三次世界大戦との二つによって構成されているならば、先ずもってこの複雑かつ多元的な戦争の勝利条件を考えてみる必要がありましょう。

 三次元戦争と二次元戦争は別個の戦争ではなく、両者を一連のプロセスとして捉える超国家勢力にとりましての勝利条件とは、第三次世界大戦を引き起こし、その結果として自らによる世界支配を可能とする体制を樹立することにあると推測されます。二次元戦争においてどちらが勝利しても自らの目的が達成できるように両陣営に’賭け’てありますので(二頭作戦…)、第三次世界大戦の勝者はどちらでも構わないのです。先の第二次世界大戦にあっても、戦勝国となった連合諸国が必ずしも繁栄したわけではなく(英仏は没落、ソ中は抑圧体制に…)、二頭作戦に好都合となる軍事的には米ソの超大国による二極対立構図が成立したに過ぎません(なお、国際法によって戦争による略奪は禁じられており、かつ、武力の行使が従来の戦争から国際法の執行へと移行するほど、’戦利’なるものは消滅へ…)。予測される第三次世界大戦にあってどちらかが勝利し、一極支配、すなわち、超国家勢力による世界支配、もしくは分割体制が成立してしまうと、戦中にあっては何れの勢力に属しようとも、人類(諸国民)の前には等しくディストピアが待っているのでしょう。

 それでは、諸国家、あるいは、諸国民の側の勝利条件はどうでしょうか。二次元戦争にあっては実戦における勝利が勝利条件となるのですが、三次元戦争にあっては、上述したように二次元戦争での勝敗は無意味です。言い換えますと、国家・国民にとりましては、二次元戦争を起こさないことこそ、超国家勢力に対する勝利条件となるのです。人類支配へのステップを事前に阻止することになるのですから。

 ローマ法王が指摘するように三つ目の世界大戦が既に始まっているならば、その勝敗の行方は、国家・国民の側による対応の如何にかかってきます。そして、本ブログで再三にわたって述べてきたように、地政学的な勢力圏抗争の思考回路から脱し、主権平等、民族自決(国民自治、主権在民、民主主義…)、内政不干渉等の原則に基づく平和の実現を望むならば、各国政府は、先ずもってNPT体制の抜本的な見直しを求めるべきなのではないでしょうか。グテレス国連事務総長は、日本国政府に対して唯一の被爆国として核廃絶の旗振り役を期待しているようですが、大国による核の同時放棄という殆ど不可能な要求は、’何もしない宣言’に等しく、人類を敗北に向けて言葉巧みに誘導しているように思えてならないのです。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする