万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対中制裁をめぐる奇妙な世論調査

2021年04月20日 12時28分14秒 | 日本政治

 ウイグル弾圧問題をめぐって、アメリカをはじめ自由主義諸国の多くは対中制裁へと舵を切っております。いわば、中国に対する国際経済制裁網が構築されつつあるのですが、日本国政府の対応はどこか方向性の定まらない’風見鶏’のように見えます。台湾や尖閣諸島に中国の魔の手が迫り、同国がジェノサイドを平然と実行する国家であることを考慮しますと、日本国政府は、如何にも危ういのです。

 

 莫大なチャイナ・マネーが流入しているためか、日本国内のメディアも、対中制裁については消極的な論調が目立ちます。手が込んでいるのが世論調査であり、本日4月20日の産経新聞朝刊の一面にも、FNNとの合同調査として中国の人権侵害問題に関する世論調査の結果が掲載されておりました。「中国の人権侵害 関与必要8割」との見出しが付されており、設問は、「中国・新彊ウイグル自治区のウイグル族や香港の人々が直面する深刻な人権侵害が国際的な問題となっているが、国会決議や制裁などで日本も関与すべきか」というものです。その結果は、「中国との関係が悪化しても強く関与すべきだ」とする回答が28.4%、「関係が悪化しない程度に関与すべきだ」とする回答が54.3%であったとしています。基本的には、世論が対中制裁支持に傾いているとする論調なのですが、この調査、どう考えましても奇妙なのです。

 

 ’関係が悪化しない程度’が最多であった理由として、同紙は、日中間の経済関係をその要因とみて、「日本企業などは対中依存度が高いことから良好な日中関係を維持したいとの慎重な考えがにじんだ」と解説しています。ところが、回答の内訳を見ますと実に37.8%の男性が’関係が悪化しても強く関与すべき’と答えたとしています。40歳以上であれば男性の40%を超えているそうですので、おそらく、男性だけに限定しますと、’関係が悪化しない程度に’派を上回っていたと推測されます。その一方で、女性にあって’関係が悪化しても強く関与すべき’と回答したのは、僅か19.4%であったというのです。

 

 仮に、’関係が悪化しない程度’が最多となった要因が対中経済依存であったとすれば、男性の方が同回答を選択するようにも思えます。現状にあって労働人口は女性よりも男性が上回っており、仮に対中政策の影響を肌身に感じるとすれば、男性の方が多いと推測されるからです。ところが、同世論調査の結果では、男性の方が経済的マイナス影響を受けようとも、厳しい対中制裁を望んでいます。つまり、同紙が世論の動向を適切に解説しているとは言い難く、同調査結果は、むしろ、日本国には経済的利益よりも人道を優先する男性が多いことを示していると言えましょう。それでは、日本国の女性の大多数は、経済優先なのでしょうか。そのようにも思えないのですが、仮に、女性の多くが対中制裁に消極的であるとしますと、それは、対中戦争を想定した’子供や夫を戦場にお送りたくはない’とする感情からなのかもしれません。何れにしましても、同紙の説明と調査結果の数字との間には齟齬が見受けられるのです。

 

 加えて、同調査において重大な問題となるのは、’関係が悪化しない程度’という選択肢を設けたところにあります。どのような意図があって、このようなファジーな表現を敢えて選択肢の中に加えたのでしょうか。対中制裁を’支持しますか’、’支持しませんか’、の賛否二択でも構わなかったはずです。何故ならば、’関係が悪化しない制裁’など、あり得ないからです。如何なる内容であれ、中国は、日本国が制裁を加えたり、国会で非難決議を採択すれば、日本国に対して様々な嫌がらせや妨害を行うことでしょう。

 

このように考えますと、同設問には、日本国が制裁や非難決議を行わないための口実としたい調査実施者側の意図が透けて見えてきます。同世論調査の結果を盾として、日本国政府は、’関係が悪化するから’対中制裁は控える、あるいは、国会決議は見送る、と言い出しかねないからです。新聞は’行間を読め’とも申しますが、現代という時代は、世論調査も、裏に隠されている’設問者’の意図こそ読まなければならない時代なのかもしれません。


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