万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日中合意文書-解釈の違いが戦争リスクを高める

2014年11月08日 15時53分48秒 | アジア
「領土問題、認めていない」…合意文書に石破氏(読売新聞) - goo ニュース
 APECにおける首脳会談にまつわる取引なのか、日中両政府は、合意文書なるものを公表しました。この合意文書には幾つもの問題点が潜んでおりますが、本日は、第3点に上げた危機管理に関する合意が、逆に戦争のリスクを高める可能性について指摘しておきたいと思います。

 外務省のホームページでは、当合意文書については、合意に至るまでの詳細な交渉過程について解説は付されておらず、合意内容とされる4点だけを箇条書き風に掲載しています。所謂”秘密外交”の結果なのですが、その第3点には、「双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。」とあります。日本側の説明では、両国の異なる見解の認識は、”緊張状態”を受けており、領土問題を認めたわけではないとのことです。外務省が公表している英語版を読めば、日本側の解釈を確認することができます。ところが、報道によりますと、中国メディアでは、当合意文書において、あたかも日本国政府が尖閣諸島の領土問題化を認めたとする論調が見られ、日本側との間に正反対ともいうべき解釈の違いを見せています。国営新華社通信では、政府系シンクタンクである中国社会科学院日本研究所の高洪副所長の解説として掲載しておりますので、中国政府が、当合意文書によって、日本国政府から尖閣諸島の”領土問題化”の言質を採ったと見なしている可能性が高いのです。日中両国による合意文書の解釈の違いは、今後、どのような影響を与えるのでしょうか。日本国側は、安全保障上のリスクが下がったと理解しているようですが、中国側からしますと、尖閣諸島に対する武力行使のハードルが下がったことを意味しかねません。いざ、武力に訴えたとしても、国際社会に対して、日本国は領土問題化を認めたと説明することができるのですから。そして、今後は、より積極的に、巨額のチャイナ・マネーを武器として国際的なプロパガンダを展開することでしょう。また、日本国政府が、尖閣諸島の防備を強める方向に動きますと、中国国民は領土問題化されたと信じているわけですから、その反発は、国有化時を凌ぐ可能性もあります。”緊張状態”に関する両国間の認識の違い以上に、日中合意文書の解釈の違いは、将来において、深刻な問題をもたらすかもしれないのです。

 尖閣諸島は、紛れもない日本国の領土なのですから、”緊張状態”の根本的な原因は、国際法を無視して覇権を追求する中国側にあります。にも拘らず、曖昧な表現とはいえ、中国に対して不要な譲歩的な態度を示しますと、結局は、中国の覇権主義を増長させ、低下させたはずのリスクを逆に高めることになるのではないでしょうか。中国メディアによれば、中国側は、合意内容の遵守を日本国政府に強く求めているそうです。異例とも言える合意文書の公表は、またもや日本国が、既成事実化を得意技とする中国の罠に嵌ったことの現れではないかと不安になるのです。

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コメント (2)
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