万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

防空識別圏問題-日中二国間協議ではなく国際ルールを

2013年12月02日 15時04分23秒 | 国際政治
中国の防空識別圏は「張り子の虎」? それでも力む中国の意図とは(産経新聞) - goo ニュース
 中国の一方的な防空識別圏(ADIZ)の設定は、国際社会に対して一つの重要な問題を突きつけることにもなりました。それは、現状では、防空識別圏を律する明確な国際ルールが存在しない、ということです。

 ADIZの設定については、幾つかの議論すべき議題があります。第1に論じるべきは、防空識別圏の範囲や上限です。海洋の分野では、領水、接続水域、EEZ、並び大陸棚…のそれぞれについて、およそ国連海洋法条約等で一定の幅が定められています。ADIZは安全保障を目的としたゾーンですが、設定幅は各国まちまちであり、例えば日本国は、およそEEZの上空を自国のADIZとしています。第2の議題は、ADIZが重複した場合の措置です。重複への対応としては、両国のADIZの間に中間線を引いて重複を回避する方法や、重複する部分における両国軍用機の行動に何らかのルールを設ける方法などがあります。第3に、他国の領空にADIZを設定する行為に対する対応です。異なる国の領空とADIZが重なりますと、軍事衝突が起きる可能性が高まりますので、当然、禁止行為とすべきです。なお、尖閣諸島については、中国が、一方的に領有権を主張しておりますので、こうした場合、領有を主張する側に、ICJ等の付託を義務付けるといった方法もあります(付託に合意しない場合には、ADIZの設定を認めない…)。第4に論じるべきは、ADIZ内で許容される軍用機の行動です。今般、中国政府は、ADIZを設定するに際して「武力による防御的な緊急措置」を採ると脅迫したため、撃墜も辞さない構えと解釈されました。領空侵犯の場合には撃墜は許されますが、日本国のADIZでの自衛機の行動は、スクランブル、無線通告、警告、警告射撃の順となり、最悪、相手戦闘機から攻撃を受けた場合のみ、戦闘が許容されています。こうした行動についてもルールを設けませんと、ADIZは、一国の一方的な措置によって容易く”領空化”されてしまいます。第5の論点は、事前通告に関するルールです。中国は、民間機のみならず、軍用機にまで事前に飛行プランを提出するように要請しましたが、この要請は、日米の航空機の無通告飛行で証明されたように非現実的でもあります。第6に、政府による公海上を飛行する民間航空機に対する命令権の行使は、国連海洋法条約第83条にも違反しますので、この点についてもルール作りも必要です。

 中国のADIZの設定に関しては、尖閣諸島問題を背景に、日中二国間協議に持ち込みたい中国側の思惑があるとの指摘もありますが、二国間交渉では、中国の一方的な要求を飲まされる可能性があります。また、日本国政府は、ICAOにこの問題を提案する方針にあるものの、ICAOは民間航空に関する国際機関ですので、上記の5と6の問題にしか対応できないかもしれません(国連国際法委員会等への提起も視野に…)。中国は、南シナ海にもADIZを一方的に設定する方針と報じられておりますので、ADIZに関する国際ルール造りは、国際の平和と安全のための喫緊の課題であると思うのです。

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コメント (2)
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