+-×÷餓鬼上等÷×-+

[2012年1月 更新]
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-I-2nd

2008-08-15 18:21:49 | ますべ的書き物風落書き

信じられない。
あのパパが、こんな。こんなことしてたなんて。
嘘でしょ?嘘って言ってよ。ねぇパパ。ねぇってば!
そんな……。また新しい冗談のつもりなの?全然面白くないよ?何時もより。全然。ちっとも笑えない。
ハハ…。ほら。やっぱり笑えない。


よく聞いてくれ。家族の中ではお前が最後だ。
大輝にも和にも。三人とも既に話してある。


ママは。ママは知ってたの?
昔からって、そんなに昔からでママは知らなかったの?


ママも知ってる。
ママと結婚するときに正直に話した。


嘘。嘘よ。
ママがそんな殺人犯を赦して結婚するはずが無いわ!


本当のことだ。
そろそろ信じたらどうだ。
もう一度冷凍庫の中を見せようか?


嫌。それだけは嫌…。


なぁ、朋子。
私たちは家族だ。家族は仲良くしていくものだろう?
お前は三人兄弟の一番末っ子だ。
お前が大人になって、こういった難しい話をきちんと理解できるようになるまで待っていたんだ。
朋子も昨日で二十歳だ。大輝も和も、二十歳の誕生日の次の日に打ち明けてきた。
二人とも今の朋子と同じリアクションだった。でも最後はパパを赦してくれた。


そんな、私はお兄ちゃん達とは違う!
こんなこと絶対に赦せない!
皆人間じゃないわ!ケダモノよ!薄汚れた畜生よ!
大輝お兄ちゃんだって、和にぃだって。
パパも、ママも!
みんな頭がおかしいだわ!
なに考えてんの!?


朋子。
朋子の考えることは分かる。
ただ朋子が貶せるのはパパだけだ。
ママのことも、二人のお兄ちゃんの事も。二度と悪く言うな。
自ら汚してきたのはパパだけなんだ。
朋子には考える時間が必要みたいだな。今日はもう遅い。
この話はとりあえずここまでにして、寝なさい。


うるさい。ヒトゴロシ。
喋りかけないで。
分かってるわよ。そんなこと。


朋子だってパパの調理したあれをこないだまで食べてたじゃないか。
そんな朋子に人殺しなんて言って欲しくないなあ。


じゃあなんだっていうのよ。
人を殺してるんだわ!何年も何年も。


人だけが優れているという感性で生きるからそういった発想になるんだ。
この地球に生きる種族の中で人間だけが唯一自らの主を最高と驕っている。
それは間違いだ。地球という一つの命をジワリジワリと削っていく害虫でしかない。
朋子だって知っているだろう?
今の人間が地球に何をしているのか。自然に何をしているのか。
少しずつでも害虫は駆除しなきゃいけない。
ただ、人間の中にもいろいろいるんだ。疲れた地球をどうやって守るのか。回復させるのか。そうやって考える人たちだって沢山いる。
ただ、それはとても少ない。私は神なわけじゃない。ただ自分でこういった地球の病状を加速度的に悪化させる輩の存在が許せなかったんだ。


それで、殺したの?


そうだ。


なんで若い女の人ばっかりなのよ…。
ただの猟奇殺人じゃない…。


違うな。若い女性は出産能力がある。
一つの種族だけが多くいすぎてはいけないんだ。
それに人間という種族はその脆弱性ゆえに武器を持った。そして集団を組織する。
食物連鎖のヒエラルキーを知っているだろう?


ヒエラルキー…。


ピラミッド型の図の事だ。


あぁ…。
うん、知ってる。

あれは天敵の少ない順番ほど上層に上れる。
逆に種として弱ければ下層だ。
ただし下層部に行けば行くほどピラミッドの裾は広がる。主の絶滅を絶対数でカバーするんだ。
人間は裸で檻の中じゃ状態じゃ犬にも負ける。


だから、何が言いたいのよ。


そんな弱い人間が獣に襲われる。
それはいたって自然だと言いたいんだ。
文明がまだ未熟だったころの人間は常に自然の猛威から身を守るために必死だった。パパは今の人間たちに気付いて欲しいんだ。



朋子。何日か考えてどうしてもパパを許せないのなら、警察に電話するのでも構わない。もう何十年も前に文明に裁かれる覚悟はしていた。
ただ、朋子。よく聞いてくれ。
どう間違えてもパパを直接殺そうとするな。
朋子は手を赤に染めなくていい。汚れなくていい。
パパは死ぬのが怖くて言ってるんじゃない。朋子に同属殺しをして欲しくないだけなんだ。
どうしてもパパのことが憎くて耐えられなかったら警察にいきなさい。
自殺もして欲しくはない。どんな死に方を選んでも自殺は人を助けない。パパは朋子の生死の際を踏み越えた顔を見たくないんだよ。
今まで何人も…、何十人か直接殺してきた経験で言えばどんな方法をとっても最期の顔は醜く歪む。朋子の可愛い顔をわざわざ歪ませる必要は無いんだ。


…。おやすみ。




さて。僕はこれからどうなるだろう。
朋子は警察に僕を通報するだろうか。
それとも安易に僕を直接殺そうとするだろうか。
朋子は優しい子だ。人付き合いも上手い。
親の欲目ながら美人の部類だと思う。
すべて妻のお陰だと思っている。
もう二十年も前。あの頃はまだ浄化に戸惑いがあった。
月日は人間を変える。僕も変わった。
昔は自分に信じ込ませなければ殺しなんて出来なかった。
ずっと自己暗示をかけ続けた結果か。今ではもう宗教然として僕の前にその考え方は広がっている。より強く、より固く。何人も僕のこの壁を突き崩す事は出来ないだろう。
今ではもう娘と同い年ぐらいの子を殺す事にさえ躊躇はない。

ふと思う。
自分はいつからこんな人間になったのだろうか。と。
その自問の言葉に気付いて慌てる。
まさか自分は自分を貶しているのか。こんな人間という言葉をつい使ってしまった自分に対してまだニンゲン寄りの部分もあるんだな、と認識する。
ただし、認識するだけだ。それによって安堵したり、嫌悪したりすることはない。
ただ第三者の目として認識し、現状を把握するだけだ。

大輝も和も、社会人になってしまった。
家に残っているのは妻と朋子と僕。そして兄弟が使っていた部屋がそのままに残っているだけだ。


ふぅ。やはり秘密を打ち明けるのは気持ちよくないな。
僕も寝るか。


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