Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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2013-09-23 06:18:29 | Weblog
2日まえにおこなわれた州議会選挙の取材のためにスリランカで数日を過ごした。今回は全国9州のうち北部、中部および北西部の3州で選挙がおこなわれたが、なかでも注目されたのが、内戦終結までタミル人反政府武装組織タミル・タイガーの支配地域だった北部だ。この州での選挙はおよそ25年ぶりになる。

タミル人はスリランカ全体では少数だが、北部では人口の9割以上を占める。仏教徒が多くを占めるこの国のなかで、タミル人の多くはヒンドゥー教。民族も宗教も違う彼らは独立した州を要求し、タミル・タイガーと政府軍の間での内戦は25年以上も続けられた。2009年、政府軍による徹底的な攻撃でタミル・タイガーは壊滅。この時の死者は3万とも4万ともいわれているが、その多くは一般市民だった。

投票日に先だって、タミルの候補者や支持者に対する威圧や嫌がらせが相次いだ。多くが与党と密接な関係にある政府軍の兵士によるもので、候補者のアナンティ・サシタランさんも犠牲となった一人だ。ちょうど僕が北部州の州都ジャフナに到着した前夜、彼女の家が数十人の男達に奇襲をうけた。アナンティさんは幸運にも家を抜けだし逃げることができたが、彼女の支持者たち10人程が木や金属の棒で殴られ暴行を受けたのだ。軍は事件への関与を否定しているが、被害者の話では襲撃した男達の何人かは軍服を着ていたという。

こういった嫌がらせにも関わらず、予想通りタミルの政党は80パーセント近い得票率で圧倒的な勝利を収めた。彼らにとっては、これが自治領の獲得にむけての大きな第一歩、といいたいところだが、現実は厳しい。マヒンダ・ラジャパクサ大統領と中央政府に絶大な権限のあるこの国では、州政府の影響力は微々たるものにすぎないからだ。多くのタミル市民達はこのことを理解しているので、過度の期待は抱いていないようだが、それでもこの先の数年間、どんな政治的な変化がおこるか興味深いところではある。
いずれにしても今回の選挙は、タミルの人々の声が初めて政治に反映された、という意味で、スリランカにとって歴史に残るものだといえるだろう。

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