Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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不法居住区の悲劇

2013-05-15 17:09:59 | アジア
「ブルドーザーがきて家をみんな壊していったよ。公衆トイレさえもさ。何も残らなかった」

ここに30年近く住んでいるというラム・ラタンは力なくそう言った。

インドの首都デリーに何百と存在する不法居住地のひとつ、ソニア・ガンジー・ナガール。4月中旬のある朝、ここにあったラタンの家を含めた50軒の家がすべてとり壊された。

デリーやムンバイなどの大都市には、毎年何万という人々が地方から仕事を求めてやってくる。ラジャスタン州からきたラタンもその一人だ。正規の部屋を借りるお金もない彼らはこのような不法居住区に住まざるをえないが、地域のインフラ開発が始まると、法的な住居権を持たない彼らはまっ先にその犠牲となる。ソニア・ガンジー・ナガールも、前を通る道路の拡張工事のために邪魔な存在となったのだった。

不思議なことは、ラムをはじめとしたここの住人達の身分証明書や選挙投票の登録カードには、はっきりとソニア・ガンジー・ナガールの名前が住所として記されていることだ。不法居住区なのに、市の発行する書類には登録されているというこんな事態は、悲しいかな矛盾だらけのインドでは珍しいことでもない。しかし、家を失った住人たちにしてみれば、笑い話ではすまないことだ。

僕がここを訪れたとき、赤ん坊がひとり簡易ベッドの上で眠っていた。まわりにはぶんぶんと羽音をたててハエが飛び回っている。同じくらいの歳ごろの娘をもつ父親として、さすがに辛くなる光景だけれど、僕に出来ることなど無駄にハエを追い払うことくらい。瓦礫のうえでは、女子供たちがレンガを拾い集めていた。次の家を建てる時のために使うためだ。しかしそれがいつのことか、どこになるのかなど誰にもわかりはしない。

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(同記事は、Yahoo Japan News にも掲載しています)