1990年代後半、ITの普及と発展を背景に様々なベンチャー企業が登場し、世の中を賑わせた時代がありました。当時は行政や金融機関も競ってベンチャー企業を支援していましたから、あの頃はベンチャーブームでありかつ「ベンチャー支援バブル」の時代であったように思います。こうした中、自らも起業家になることを目指す若者も増え、学校を卒業したら どこかの会社に就職する、という今まで当たり前のように考えられていたキャリアルートが決して当たり前ではなく、卒業後または在学中に起業するのも選択肢の一つと考えられるようになりました。
しかしITバブルはあっけなく崩壊し、多くのITベンチャーは姿を消してしまいます。また社会のルールを逸脱したベンチャー企業が世間を騒がしたこともあって、起業を評価する風潮も大きくトーンダウンしてしまいます。さらに長引く不況に伴う求人市場の悪化は、若者の保守化傾向もあって「会社への就職が厳しいのであれば自ら起業しよう」という方向には作用せず、却って若者たちの起業に対する意欲は低下しています。
(以下引用)
会社を立ち上げて経営者になる起業家志向が低下していることが、野村総合研究所の調査でわかった。世代別では10代の起業家志向が最も低かった。仕事をしている人の約6割が「転職は考えていない」と答えるなど、景気低迷のなか安定志向が強まっている。
調査は価値観や消費スタイルの変化などを探るために15~69歳の約1万人を対象にアンケートを行い、昨年末にまとめた。1997年から3年ごとに実施し、5回目。
「一流企業に勤めるよりも、自分で事業をおこしたいか」との質問に対し、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人は計35%にとどまり、97年の49%から14ポイント低下。調査開始以降、低下が続く。2009年を世代別でみると、30代の起業家志向が39%で最も高く、10代が27%で最も低かった。
一方、安定志向は強まっており、前回調査と比べ3ポイント増の59%が「転職は考えていない」と答えた。また、「有名な大学や学校に通った方が、将来は有利になると思う」との質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人は過去最高の56%。学歴志向も強まっている。
(引用終わり)
出所:起業家志向が低下、10代は27% 野村総研1万人調査 (朝日新聞2010年1月16日23時51分)
http://www.asahi.com/business/update/0116/TKY201001160390.html
新規創業が活発になれば経済が発展するとか住みよい社会になるとは必ずしも限りませんが、やはり日本経済の閉塞感を打破するようなイノベーションの担い手は若いベンチャー企業に期待したいところです。にもかかわらず、前に述べたように若者たちの起業への意欲は低下しています。もう日本の将来は暗い、のでしょうか。
そこで注目したいのは日本で学ぶ留学生たちです。彼らの大半は中国、韓国などの東アジアからの留学生ですが、概して日本の若者に比べて独立心は旺盛ですし、チャンスがあれば卒業後に日本で起業したいという夢を持つ人も少なくないものと思われます。 日本で学んだ知識やノウハウを母国に持ち帰っていただくのも、国際貢献の観点からすれば悪いことではありませんし、仮に日本びいきになってもらえれば海外における日本企業の協力先になる可能性があるわけですから、それなりにメリットがあります。しかし、日本を気にいってもらって日本で起業してもらう方が雇用や税収の増加など経済波及効果は当然大きく、より国益にかなっているでしょう。
財団法人入管協会「国際人流」(2010.1)によると、在留許可が「投資・経営」に変更が許可された留学生・就学生の数は平成17年以降急増しており、平成20年は128名と前年の倍以上となっています。たったそれだけ、なのかもしれませんが、日本人よりも創業資金の調達を行う条件が厳しい外国人にとってはかなり健闘している数字ではないでしょうか。
自治体の中にはこうした留学生らの起業意欲に注目し、彼らを支援することで地域内の経済活性化につなげようとするところも見られます。例えば神戸市では留学生・OBの神戸での起業について、ワンストップサービスを提供しており、留学生OBが経営する企業がすでに32社あるそうです(
こちら)。また川崎市も産学官民共同で「アジア起業家村」を形成し、在日アジア留学生等を対象とした創業支援セミナー「アジア起業塾」を開催しています(
こちら)。
ところで、ITを学ぶ世界の若者がシリコンバレーを目指す理由の一つは、そこでは世界最高水準のITの研究開発が行われているからでしょう。そして彼ら外国人の中からシリコンバレーの活力をさらに高めるような創業者たちが次々に生まれています。これと同じような仕組みが、日本が世界に誇るものづくりの分野で成り立たないものでしょうか。ITと違ってものづくりで創業するには相当な初期投資が必要になりますから話は容易ではないでしょうけれども、日本のものづくりの国際競争力を維持、向上させていくには、ものづくりの技術を学ぶために日本に留学しに来る優秀な外国人の起業を支援することも検討すべきではないかと思います。