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最近ちょっとお疲れ気味

技工貿と貿工技 日中ものづくりスタイルの違い

2006-09-22 23:04:44 | ものづくり・素形材
ちょっと古いのですが、富士通総研上席主任研究員の金堅敏さんが、実に面白いレポート(*)を書いています。日本企業は技工貿(技術開発 ⇒ 工場生産 ⇒ 貿易取引販売)、中国はその逆で貿工技だ、というのです。

(以下引用)
そもそも、中国地場企業の出発点は販売から始まっている。日系の一般的な企業はまず技術を開発し、その技術を製品化して商品を生産して、消費者に販売するという順番で戦略を考える。これは中国で言えば「技工貿モデル」(技術開発 ⇒ 工場生産 ⇒ 貿易取引販売)と名付けられる。
他方、数多くの中国地場有力企業は、資本蓄積や技術蓄積が乏しいがゆえに、まず多国籍企業或いは地場先行企業の製品・サービスの代理販売を行う。次に、代理販売の中で資本蓄積(販売利益)や技術の取得(多国籍企業による技術研修等)が進み、自らその商品の模倣品或いは改良品の生産を行うようになる。さらに、その資本、技術、人材の蓄積が相当程度に達したら、自社色を強め技術やサービスの独自開発へ進む。
これは「技工貿モデル」と対比して、「貿工技モデル」(貿易取引販売 ⇒ 工場生産 ⇒ 技術開発)ともいうことができる。「技工貿モデル」の下では、経営者や技術開発人員、工場生産管理者、販売営業部員は、当該製品の技術に対する理解は深いが、市場サイドへの理解は浅くなりがちである。これに対して、「貿工技モデル」の下では、経営者を始め社員は技術志向よりも市場志向の傾向が強い。
(引用終わり)

これまで私が訪問した日本と中国の中小企業で受けた印象を思い返しながら、実にわかりやすい説明だな、と感心しました。
確かに日本のものづくり中小企業の創業者には、もともと優秀な技術屋さん、叩き上げの職人さんが多く、とても技術にこだわりを持っています。しかし、すごい技術を持っているのに、職人気質なのでしょうか、その製品をできるだけ高く売り込もう、という商売人根性をあまり感じないことが多いのです。そもそも営業部門がない中小企業は少なくありません。
これに対し、中国のものづくり中小企業の経営者はまるで逆です。浙江省あたりの民営企業では特に顕著なのですが、創業者にはもともとは商売人だったという人物が目立ちます。そして、素人目で見てもたいした技術を持っているとは思えない企業でも、経営者は実に雄弁で、いかに将来性があるか、製品が優れているか、有名企業との取引関係があるか、国際認証を得ているか、をアピールします。厚かましいな、と思いつつ、ちょっと日本の奥ゆかしい経営者も彼らを見習ったらどうかな、と思ったりもします。
そしてある程度の規模になると、技術を持とうとしますが、わざわざ一から自社で開発するような面倒なことはあまりしません。金を払ってよそから技術とノウハウを買う、いっそのこと会社ごと買収するというのが、彼らの間で多く見られるやり方です。
このため、中国の経営者には、あまり「ものづくりへのこだわり」というものが感じられません。彼らにとっては、ものづくりは金儲けの手段の1つにすぎず、とにかく、いかに素早く多く儲けるか、が重要であるように思われます。彼らはここぞという時には、びっくりするような設備投資をしたりもしますが、それは「ものづくりへのこだわり」のためではなく、あくまでも素早く多く儲けるためなのです。このあたりの商売人としてのセンスはたいしたものです。
日本人は、なんとなく職人気質を崇高に、商売人根性を卑しく捉えがちですが、これはおかしな話です。金儲けは二の次でこだわりの逸品に精魂込める職人気質の頑固親父、というのはドラマの題材としては面白いのですが、現実社会の企業としては失格です。さすがにそこまで極端な経営者はいませんが、もっと日本のものづくり経営者は商売熱心になって欲しいと思います。

(*)No.136 May 2002. 中国有力地場企業の競争戦略と日系企業への示唆. 主任研究員. 金 堅敏. 富士通総研(FRI)経済研究所

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