歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

浅田真央選手の演技を想像すると共に日本の情報通信機器メーカーの課題について考えてみた

2010-03-04 01:29:24 | ものづくり・素形材
 仕事が忙しく、私はほとんどバンクーバー冬季オリンピックの試合をテレビ観戦していません。高い視聴率を記録したらしい女子フィギュアも観ていないので、キム・ヨナ選手、浅田真央選手がどのような演技をしたのかもよく知りません。しかし、このIT技術者の方のブログの記事を読んで、両選手の演技がどのようなものであったのかなんとなく想像がついたと共に、情報通信機器に関わる日本のものづくりの課題を考えさせられました。

浅田真央はソニー製でキムヨナがLG電子製なんだなと思ったと同時に日本のメーカーがiPodを作れなかったことを思い出した。

(以下引用)
国内のネットのオリンピックの審査結果の評判を聞いているとこんな感じだ。

・キムヨナは採点基準を追求した点取り型の演技で技術的には浅田真央の方がレベルが高い。

・浅田真央は世界初のトリプルアクセルを成立させたが、採点基準の上では低くなる。

なんだか、いつもヘンな技術にこだわってスカタンをする日本のメーカーみたいで笑ってしまった。

(中略)

初代iPodが出たとき、ぼくは、松下のSDプラットフォームチームにいた。当時、松下は本気でSD-AUDIOを開発していたので、iPodは正直、おどろいた。

松下などのSD陣営はデータが消えにくく、著作権保護が可能なSDカードとその周辺の開発で、すでに数百億円以上つっこんでいた。他社と調整して SDMIなどの世界標準規格もたくさん作った。すごい時間とカネをかけて著作権保護と暗号化と静電気に強いカードとフォーマットを開発していた。その前に出したスマートメディアやMMCが静電気に弱くデータが消えることが多かったからだ。一万回SDカード抜き差しテストなどが普通に行われていた。もちろん、メモリースティックも同様の状況だったと思う。

だから、ハードウェア担当たちは、急に出た初代iPodの発表を聞いて、びっくりした。「ハードディスクなんて、不安定なものでどうやって、データを消えないようにしとるんや?加速度センサーで衝撃や落下を事前に検出してシークをはずしたりしとるんか?その割には安すぎるし、それでデータ保護も完璧にはでけへんやろし...。」

iPodの発売日、ハードウェア担当たちは、恐る恐るiPodを分解した。Appleはどんな衝撃対策やデータ保護対策をしているのだろう...。どんな未知のテクノロジーを使ってユーザーのデータを保護しているのだろうか?

結果は...iPodの中に裸のハードディスクがゴロンと入ってるだけだった。加速度センサー?そんなものは微塵も無かった。衝撃対策は、ゴムみたいな何かを挟んでる以外は何もしてなかった。「データは消えても知らん」という設計思想だった。実際、iPodはデータが飛ぶことがあった。

iTuneも著作権保護もぐだぐだで、国内メーカーがこぞって進めていた「自称」世界標準の著作権保護規格であったSDMI規格も100%無視されていた。CDに焼いたり複数のiPodにコピーできたりなんでもアリすぎて、これもびっくりした。

ハードウェア担当が言った。

「こんなん、ウチではだされへんがな。」

iPodが売れるに従い、我々がこだわっていたことは一体なんだったのかと思うようになった。

(引用終わり)


 技術にこだわる日本メーカーの姿勢は、Made in Japanに対する世界からの高い信頼の礎であったはずですが、なぜそれが「スカタン」につながるようになってしまったのでしょう。最大の理由は日本メーカーのマーケティングの弱さ、そして意思決定に時間がかかるマネジメントの問題なのでしょうけれども、やはりこと情報通信機器についてはものづくりの仕組みが大きく変わってしまったこと、さらにものそのものに求められる価値が低下してしまったことが挙げられると思います。

 まず、情報通信機器のものづくりのアーキテクチャが「擦り合わせ型」から「組み合わせ型」に移行してしまい、「組み合わせ型」の素早いけれども「そこそこ」なものづくりでは、一昔前であればいかにもチープなものしか作れなかったはずです。このIT技術者の方は初代iPodはデータが飛ぶことがあったと指摘していますが、一昔前の「そこそこ」なものづくりであれば発生するトラブルはとても消費者が容認できるレベルではなかったと思います。しかし、ソフトウェアの技術の進歩によって「そこそこ」でも消費者が充分に満足できるものが作れるようになってしまったのです。またものづくりは国や地域における技術的集積をあまり考慮せずとも十分可能になり、生産コストの安い新興国が情報通信機器の生産基地になったことにより、日本メーカーは厳しい立場に立たされることになったわけです。

 そして、ハードウェアそのもので得られる機能よりも、ネットに接続された先に広がるインターネットの世界という、メーカーがコントロールしきれない「あちら側」から得られる機能やサービスに消費者が価値を見出すようになってしまったことも、目の前にあるハードウェアという「こちら側」に関わる技術にこだわる日本メーカーにとって大きな逆風となったと想像します。「あちら側」は日本メーカーの常識が通用しない少々アブナイ世界です。そんな「あちら側」をうまく使って商売するには、「あちら側」の流儀とある程度は妥協し、「あちら側」から知恵も借りることも必要かと思うのですが、日本メーカーは自らの常識を貫こうとしてアップルや韓国メーカーに敗れてしまったのではないでしょうか。
 
 私は現在iPhoneと台湾ブランドのノートPCを愛用しています。いずれも中国で組み立てられた製品で、日本製品のように最新技術が使われている訳ではなく、「そこそこ」な技術を組み合わせて作られているものです。それでも「あちら側」の世界を楽しむ上では全く不自由しないどころか非常に快適です。iPhoneで音楽を聴きながら、台湾ブランドのノートPCでネットに接続しながら、上記のようなことをふと考えてみた次第です。