歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

シンガポールの工場アパート

2009-10-07 23:50:50 | 海外ものづくり事情
 シンガポールは淡路島程度の島に480万人がひしめく小さな国です。狭い土地を有効活用するため、町工場のような小さいメーカーは工場アパートに集積しています。工場アパートは大田区でも見たことがありますが、シンガポールのそれはかなり規模が大きいです。


 こちらはアン・モ・キオ地区(こちら)の工場アパートです。5階建てで60社ぐらいが入居しているそうです。


 ここで訪問したのは光学機器などの精密加工を行っているシンガポールのローカル企業です。製品のサンプルを見せてもらいました。四角の穴が開いた金属板は穴をプレスで抜いたように見えますが、切削によるものです。よく見ると穴は単純な形状ではなく、非常に微細な加工が施されています。極小のセンサを運ぶための装置に使われるとのことでした。



 工場の様子です。設備は台湾製のものが目立ちました。MCもEDMも台中にあるメーカーのものでした。
 なぜ台湾製なのかというと、やはりコストが第一に指摘されました。台湾製の機械は日本製に比べてかなり安く、しかもこの5年間でかなり性能が上がっているとのことです。またサービス体制も充実しており、修理の際に部品在庫がない場合、日本勢は部品取り寄せに時間がかかるが台湾勢は迅速だということです。

 さらに5軸のマシニングセンタのような高精度の工作機械の場合、輸出管理の問題が日本勢にとって不利に働きます。高精度の工作機械は大量破壊兵器の生産に転用される恐れがあるということで、国際条約によってその輸出は管理されることになっています。俗に「ホワイト国」、「グレー国」、「ブラック国」と国が分類され、「ホワイト」→「グレー」→「ブラック」となるに従い輸出に際しての審査は厳しくなります(ブラックの北朝鮮、イランなどは輸出不可)。シンガポールは「グレー国」に該当するため、輸出に際しては軍事転用されることがないことを証明するために様々な審査が行われるのですが、日本政府による審査は他国に比べて特に時間と手間がかかるといいます。
 この会社によると、日本の工作機械が欲しいと思っていてもあまりに時間がかかる上に聞かれたくないことまで細かく詮索されるため、すっかり嫌気が差してしまい、台湾製やドイツ製の機械を買ったことがあるということでした。かつて某社の工作機械がソ連に渡って対米関係が悪化した、という過去が日本政府のトラウマになっており、過剰な輸出管理につながっているものと思われます。もちろん大量破壊兵器の拡散は阻止すべきなのですが、それで日本の工作機械業界がビジネスチャンスをかなり失っているということは事実であり、もう少し見直しをしてはどうかと思いました。