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高橋五郎「農民も土も水も悲惨な中国農業」

2009-06-06 20:51:06 | 読書
 高橋五郎「農民も土も水も悲惨な中国農業」(朝日新聞出版)を読みました。

 著者は経済学者ですが、日本の商社マンも訪れないような中国の農村を訪れ、畑の土を握り、悪臭を放つ肥溜めや汚染された農業用水を見て歩き、農民たちから直接話を聞いて回り、本書を書き上げています。タイトル通り、本書で描かれた中国農業は悲惨としか言いようがありません。農民を「二等公民」という低い社会的地位に縛り続け、農民の農地への愛着や生産へのインセンティブが働きにくくした上に、汚染を垂れ流し農地や農民の健康を損なう工場を放置する、中国の政治経済の体制がその大きな要因です。

 本書を読むと、「毒入り餃子」、「メラミン入り牛乳」のような事件は、中国の農業と農民たちが置かれている劣悪な環境と深く関係していることがわかります。これらの衝撃的なニュースに、日本では中国製であることを掲げる食品が店頭から一時消え去ったことは記憶に新しいですし、今でもはっきりと中国製であることを謳った食品はあまり目にしません。

 しかしながら、著者によると日本の加工食品産業はもはや中国製農産物抜きには成り立たなくなっており、現在のような加工食品に多く頼った食生活を続ける限り、日本人は中国の農業と深く関わらざるを得ないのです。日本人の食の安全を確保するためには、加工食品という「袋の味」から、手間がかかり面倒であっても自ら原材料を加工するプロセスを必要とする「おふくろの味」に回帰すること、そして農業への新規参入を事実上阻害する現行の農地法を見直すなど、日本の農政の改革の必要性を著者は主張します。
 
 著者による中国農業の実態を伝えるルポの内容は衝撃的ですし、背景にある中国の政治経済体制の問題分析は鋭く、それだけでも十分本書を読む価値があります。しかし、著者が本書を通じて読者に最も訴えたい箇所は、日本の食生活と農業の問題であるように思います。食生活について考えてみたい方に本書の一読を勧めます。