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最近ちょっとお疲れ気味

「鴻海は敵か味方か」

2007-05-08 23:16:44 | 海外ものづくり事情
 先月末のインターモールドでは興味深い講演会が開催されました。その1つがファインテック常務取締役の村中昌幸氏による「中国巨大企業の金型戦略」です。
 ここでファインテックという会社について説明しておきたいと思います。この会社は工作機械を開発するベンチャー企業で、社長である中川威雄氏は東京大学名誉教授で、素形材技術の研究者としても有名な方です。そして重要なのは、この会社は台湾系の大手EMS(Electronics Manufacturing Services)、鴻海(Foxconn)の子会社であり、中川氏と鴻海社長のテリー・ゴー(郭台銘)氏は非常に親密な関係にあることです。そしてこの講演会は鴻海の金型戦略をテーマに話が行われました。

 実は講演会の内容は、昨年夏の「日経エレクトロニクス」no.931の特集記事「鴻海は敵か味方か」で書かれていたこととかなり重複しており、記事を読んでいた私にとっては少々新鮮味がなかったのですが、それでもスライドに映された金型工場の様子(残念ながら写真撮影は禁止)を見せられると「スゲエ」と感じざるを得ませんでした。
 詳しい内容は「日経エレクトロニクス」のバックナンバーに譲りますが(金型に関心がある方は是非読んでみて下さい)、簡単に説明してみると、

(1)鴻海は世界一のEMSで、2005年度の連結売上高は3兆1056億円。しかもこれだけ大きくなっても急成長を続けており、2006年度は約4兆円、2007年度は約7兆円が目標。

(2)中国・深センの工場は従業員10万人以上。ここでi-Pod Nano、任天堂DS、PSP、ノキアやモトローラの携帯電話、Dellのパソコンなど、様々な世界のヒット商品の生産を請け負っている。

(3)利益率はEMSとしては高い。高収益を支えているのは、早くて安い、しかも高い技術を持っていること。

(4)特筆すべきは巨大な金型部門を有していること。筐体用の成形金型を内部で迅速に作ることでリードタイムの短縮を実現している。

 とまあ、すごい会社なのです。
 中でも金型に力を入れているという点は、製造受託のEMSとしてはかなり異色です。しかもグループ全体の金型設計・製造の担当者が3万人とけた外れです。設備もすごいです。講演会の話によると、深センの金型工場には平面研削盤が3000台、マシニングセンタとフライスが1500台、EDMが1500台ありますが、どれも一流ブランドの最新モデルで、まるで世界の名機の展示場のようです。
 さらに鴻海はエレクトロニクスだけでなく、自動車部品への参入も狙っています。山西省太原市に最近作った、これも世界最大のマグネシウムダイカスト工場にはダイカストマシンが300台以上あり、エレクトロニクス製品の筐体を生産しているのですが、最近は型締め圧力1200トンの大型マシンも導入したのですが、これはどうも自動車部品の生産のためなのだそうです。

 いろいろな点でけた外れの鴻海ですが、飽くなき成長を続けるこの巨大企業を支えるのはテリー・ゴー氏のワンマン体制です。彼は日経ビジネスのインタビューで「非効率な民主主義よりも、合理的な独裁の方が企業にとって重要」と述べたのだそうです。確かにその通りなのかもしれません。しかしそんなワンマン体制が鴻海の強みでもあり、また弱点ではないかと思います。