
頭皮のできものを治療するために見つけた病院は飯田橋にある。治療が終わると、真っ直ぐに帰宅したが、この日は最後の通院となった。多分、もうしばらく来ないだろうから、最後はちょっと飲んで帰るか。そう思って、ネットで立ち飲みを検索すると、「晩杯屋」と「やまじ」という店がヒットした。「晩杯屋」なら、いつでも行けるし。「やまじ」を目指すか。
飯田橋駅東口。だが、お店は不思議な立地にあった。神田川沿いの不思議な空間にたたずむオンボロの建物。まるで東京とは思えない、時代に取り残されたようなその建物に幾つかの飲食店が入居している。その一番奥が、「やまじ」だった。
オンボロの建物にまさに同化しているような、そんな立ち飲み屋。L字のカウンターには7、8人も入れば、いっぱいになってしまいそうな、小さな酒場だ。コロナ対策として一人分のスペースを空けるよう、カウンターにボードが置かれている。先客は3名。自分が入って満員になった。
カウンターにポジションして、さて何を飲もうかとあれこれ、店内を見回す。マスターが一人で切り盛りしているようで、ちょうどお客さんのあてを作っているようだった。しかし、その厨房が凄まじかった。乱雑といったらいいか。それともカオスといったらいいか。とにかく、その光景は凄まじい。多分、マスターはどこに何があるか覚えていて調味料とか、手にとりやすい場所に配置されているのだろう。子どもの頃の自分の机のように。お母さんが気を利かせて、掃除をしようものなら、「どこに何があるか分からなくなった」と言ったことがある人は、この厨房のイメージは大体想像つくのではないだろうか。
マスターが一息ついたところで、「ホッピー 白」(450円)をオーダーした。このマスター、かなり気難しそう。体軀は大きく、やや強面。ちょっと、近寄り難い感じだ。
酒もつまみもキャッシュオンデリ。カウンター上に1,500円を置いた。
さて、つまみをどうするかと、改めて店内を見回す。図上の壁には、「野菜と魚に力を入れている」と貼り紙があり、「初めての人はグラタンがおすすめ」とある。そして「ホワイトボードを見て」と結んでいた。そのホワイトボードは入口近くに掲示されている。メニューはいろいろ多い。
まずは、「ポテトサラダ」から。このポテサラが絶品だった。じゃがいもとマヨネーズのバランスが抜群でねっとり感が、またいい。ポテサラの下には野菜が敷きつめられていて、それもまたいい味を出している。
先客のお三方は、常連さん。わいわいと近況を報告している。少しだけ、自分も仲間に入れてもらった。
さて、「ナカ」(200円)をおかわりする際に、そのおすすめの「グラタン」をオーダーした。立ち飲みで「グラタン」とは珍しい。
珍しいといえば、「どくだみ茶ハイ」。先客のお一人が、ホワイトボードを見て、「あ、今日『どくだみ茶』あったんだ。俺、それね」と言った。どうやら、「どくだみ茶ハイ」はレアメニューらしい。「ホッピー」の次に、それをいただこうか。
「グラタン」がようやく焼けて、出てきた。とてもいい香りがする。「グラタン」の味は確かで、まるで洋食屋さんのよう。意外だったのは、「ホッピー」との相性。「グラタン」の甘みが、「ホッピー」の苦味と相まって絶妙なマリアージュを奏でる。
「ホッピー」をやっつけて、最後の一杯に、「どくだみ茶ハイ」をいただいた。これもまた意外にも甘みがあり、すっきりしているのだ。イメージとしてのどくだみは、どうも苦いという思い込みがあったが、実に優しい味で、自分はいっぺんに、この変わった酎ハイが好きになった。
「どうもごちそう様でした」。
帰りがけにマスターに言うと、「ありがとうございました」と丁寧にマスターはお礼を返してくれた。無愛想な感じに見えたので、それは新鮮だった。しかも、お礼は一回きりではなく、店を半分出かかったときに、もう一度「ありがとうございました」とマスター。なんだか嬉しい気持ちになって、家路についた。
ポテサラの信用性。
ホントにそう思います。
おからとは、また渋いですね。自分の場合、ポテサラとソーセージでしょうか。