大井町。
ついつい、「晩杯屋」にばかり、通ってしまったが、もう一軒、大井町で重要な立ち飲みを忘れていた。
「臚雷亭(ろうらいてい)」。
中華の立ち飲みである。
何度か、店の前を通ったし、「孤独のグルメ」に登場したときは、早く行かねばと思ったものである。
さて、今夜ようやく念願が叶う。
ブルーのテントに黄色い看板。立ち飲みの外観としては、あまり見ない。さすが、大陸の人がやっている店である。店内は狭く、両サイドにカウンターを併せ持つ。フルで10人入れば満員だろうか。店内に入ると、既に4人のサラリーマンが酒を飲んでいた。
店の奥が調理場で、おばさんが一人、若い女性の二人が店を切り盛りしている。若い女性は、おばさんの娘さんだろうか。働かされているといったあんばいで、顔が険しい。
「生ビール 中」が300円。安い!
「ホッピセット」、多分「ホッピーセット」だと思うのだが、これも300円。「中」は150円。この安さは出色だ。さて、ボクの好きな「紹興酒」は1合が250円。破格の値段である。
ホッピーは中華との相性も良く、かなり悩んだが、ボクが選んだのは、やはり「紹興酒」。中華に、これ抜きでは始まらない。
つまみも安い。一皿が100円から。今どきの立ち飲みでは、まずあり得ない金額だ。
例えば、「バターピーナッツ」、「メンマ」などなど、100円の小皿が数品ラインナップされている。ボクがまず、チョイスしたのが、「ハチノス和え」。これがたったの200円だ。その値段に反して、抜群にうまい。
調子にのって、もう一皿が「ピータン」。
これも200円なのだ。
甲斐甲斐しく働く、その女性は、まだあどけなかった。手の甲に、自分で彫ったと思われる下手くそなタトゥーがあった。仕事が一息つくと、スマホを出して、誰かと連絡をとっているようだった。
「ピータン」も、満足いく味で、ボクは「紹興酒」をおかわりした。
最後に「水餃子」(230円)をオーダーした。
かっこつけて、店のおばちゃんに、「しゅいじゃお!」とオーダーしたのだが、通じなかった。
5個で230円は安い。ただ気になるのは、「水餃子」の皮が、やけに白いこと。なんか不自然なのだ。だが、恐る恐る食べてみると、見事においしい。
やるなぁ。この店。
「臚雷亭」の臚雷が、何を意味しているのか分からない。けれど、その響きに、ボクはドイツの妖精を思い出す。
そう、この店はローレライのあるライン川のように狭い。手の甲にタトゥーのある女性は、もしかするとローレライではないかと。なにしろ、この店の安さとうまさに虜になったら、まさに撃沈だろう。
そういえば、大井町には妖精伝説がある。その妖精は「臚雷亭」に住んでいる。