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オレたちの「深夜特急」~ヴェトナム編 ホイアン~

2007-04-14 13:17:53 | オレたちの「深夜特急」
 フエのうすら寒い気候にすっかり嫌気がさし、わたしはたったの2日間でフエを後にすることにした。
 早朝、わたしは韓飛野さんに別れを告げ、ひとりバスに飛び乗った。
 行き先はフエから南にバスで4時間ほどの距離にあるホイアンという村だ。

 何故、そこに行こうかと思ったのか、実はあまりよく覚えていない。
 恐らく、ホイアンの町全体が世界文化遺産に指定されていると人づてに聞き、行ってみようとバスに乗ったような気がする。
 バスに乗っている外国人の旅行者はわたしひとりだった。オンボロのグレーのバスは穴のあいたでこぼこの道路を絶え間なく飛び跳ねながら走った。
 バスは途中、急な勾配を登り、峠にさしかかったところで休憩した。
 バスを降りてみてびっくりした。北風ではなく、生暖かい南風が吹いてすっかり南国のような気候になっていたからである。
 サパやハノイ、そしてフエではほとんど太陽にお目にかからなかったが、南国の強い日差しが燦々と大地を照りつける。
 なんだか、少しわたしは嬉しくなった。

 運転手に「ホイアンに着いたぞ」と促されたわたしはひとりバスを降りた。
 なんとも、寂しい場所にわたしは降ろされたのである。
 すると、ひとりの若い男がすぐさまわたしの所に歩み寄ってきた。
 「どこへ行くんだい?」
 ブロークンな英語だった。
 その男の質問にわたしは答えず、逆に尋ねた。
 「ここはホイアンか?」
 すると、男は「ここはホイアンじゃない。ホイアンはまだまだ遠い」と言った。
 そして、「ホイアンに行くのならオレがバイクで乗せていってやる。5ドルでどうだ?」と続けた。
 どうやら、この男はわたしにふっかけているようだ。旅をしている者ならすこしずつ備わってくる勘のようなものが働いた。
 ここで焦ってはいけない。まだ、お天道様は高く、焦るような時間ではない。すると目の前にコーヒー屋が見えた。
 とりあえず、コーヒーを飲んでタバコでも吸うか。そう思ってコーヒー屋の椅子に腰掛けると、その男も着いてきて、わたしの目の前に腰掛けた。
 やはり、これはおかしい。
 そう思って、今度は店の女の子にここはホイアンかどうかを聞いてみた。すると、やはり違うと答える。
 ははぁん。ここがどうやらホイアンでないことは確かなようだ。
 しかも、どうやら歩いていくには随分距離がありそうな様子だ。
 しかし、いかんせん5ドルは高すぎる。たった今乗ってきたバスもフエから4時間も走って5ドルだ。
 このバイクタクシーのしつこさから見ても、客を絶対逃さない、という態度がありありだ。
 そうして、延々と値段交渉が始まった。
 男は5ドル。わたしは5000ドンからスタートした交渉も30分続いたろうか。結局2ドルで落ち着いた。わたしとしては2ドルでも不服だったが、結局この男以外に交通機関の代用となる者が現れず、渋々交渉を妥結した。
 そして、わたしは男のバイクのタンデムシートに跨り、舗装されていない道を砂塵を巻き上げながら一路ホイアンへと向かったのである。

 20分ほど走ったろうか、途中男はガソリンスタンドに立ち寄り、わたしの運賃を前借して燃料を入れ、その後馴染みの宿屋に立ち寄り、宿泊を斡旋するなど道草を喰ったが、それでもなんとか無事にホイアンまで送り届けてくれた。
 なんとか安宿を見つけ、といってもドミトリーで4ドルも取られたのだが、そこを拠点に翌日からそれほど広くもないホイアンの町を歩き始めたのだった。

 ありきたりの言葉になってしまうが、ホイアンは居心地のいい町だった。
 古い木造建築が数多く残る旧市街全体が世界文化遺産に登録されているのだが、静かな佇まいと穏やかな人々、まるでおばあちゃんチに行ったような雰囲気がそこにはあった。
 一日中町をぶらぶらしてもいっこうに飽きることはなかった。
 町には見所がいくつかあった。まず、1593年に日本人によって造られたとされる来遠橋。別名日本橋。400年以上も前に日本人町が存在したことにも驚かされるが、それよりも橋が未だ現存するのも驚きだ。
 そして、古い町並みの中で一際目立つのが、チャンフー通りにある77番の家。古い瓦屋根に黒木の民家はまるで日本の駄菓子屋のよう。およそ380年前(当時)に建てられたという。しっかり入場料を取られるのだが、家の中に入ると、なにか不思議な気持ちになってくる。長い時間が経っているはずなのだが、その時間がゆっくり自分の中に染み入ってくるような気がした。

 そして、名所ではないが、この町の市場もまた素晴らしかった。
 中国でもそうだったが、いい町だなと感じるところには大抵素晴らしい市場があった。
 ホイアンの市場はこじんまりとしながらも、これまで見た市場に負けずとも劣らない雰囲気に満ちていた。恐ろしく狭い通路にあらゆる小売店がひしめきあう。それはまるで迷路のよう。色とりどりの野菜や果物が売っていたと思ったら、肉屋や食堂が現れる。野菜を売るおばちゃんは菅笠に天秤棒のいでたちで、中には通路で売り買いする人もいる。雑貨や生活用品もところ狭しと並べられ、子供たちが店番をしている。そうした人々を見ているだけで、いっこうに飽きることはなかった。それこそ、町を散策し、市場でニョクマムがしみいるぶっかけ飯を食べ、市場に集う人々を見ていれば一日がアッという間に過ぎていった。

 そして、もうひとつわたしのお気に入りの場所があった。町のはずれを流れるトゥボン川だ。
 川沿いを歩いていくと少しきれいなカフェが並ぶ。オープンカフェといったら大げさだろうか。
 外に椅子とテーブルを出しているカフェを見つけた。わたしはそこがお気に入りの場所になった。ホイアンに滞在した4日間、朝は町を散策し、昼は食事を済ませながら市場に行く。そして、午後はひがな一日カフェでコーヒーを飲みながらタバコを吸う。眼前に広がるトゥボン川とその向こうに見える田園を見ながら。これ以上極上な時間があるのだろうか。恐らく、今頃東京ではあくせくとした時間が流れ、何かに脅迫されるように人は働き続けていることだろう。だが、今わたしを縛るものはない。あるものといえば、シルクのような風に吹かれ、30円ほどのおいしいコーヒーを飲みながら、ゆっくり流れる川面を眺めている自分だけだ。動くものといえば、そのとろりとした川の流れ。時折、鳥が飛び、木々が風に揺れる。
 しかし、本当にこの国は40年前、戦火に見舞われたのだろうか。
 目の前の風景からは全く想像することができなかった。

 宿には30代の日本人が宿泊していた。
 髭を生やした優男の彼とある日、例のトゥボン川のカフェで談笑していると、ヴェトナム人の男が現れ、「今取ってきたぞ。カンボジアヴィザ」と優男に声をかけた。どうやら、彼はこの男にヴィザの申請を頼んでいたようだった。彼は男にお礼を言いながら報酬を渡すと、突然ヴェトナム人の顔色が変わった。「おいおい、約束が違うじゃないか」。優男の言い分は20ドル。だが、ヴェトナム人は「40ドルの約束だ」と一歩も引かない。ヴェトナム人は今にも殴りかかりそうな勢いで、「20ドル」「40ドル」と議論は平行線を辿った。
 半ば喧嘩になった、この騒ぎに警察官が出動し、とうとう2人は警察署に連行されていった。
 わたしは少し心配になった。優男はあまり英語を話せなかったので、警察に連れて行かれたら、彼が不利になるのではないか、と。急いで宿に帰って、宿の主人に事情を説明した。宿の主人は警察に赴き、優男と一緒に帰ってきた。ヴェトナム人はその晩とうとう帰って来なかったという。
 この騒ぎがあってから、ホイアンのゆったりとした時間が少しギスギスしてきたような気がした。
 わたしは、この日ミニバスを予約して、翌日ホイアンを経つことにした。
とにかく、南へ。わたしは、急がなければ。ヴェトナムヴィザの期限はあと僅かに1週間を残すのみとなっていた。

※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん師と同時進行形式で書き綴っています。並行して語られる物語として
href="http://onitobi.blog20.fc2.com/blog-category-15.html">鬼飛(おにとび)ブログ
と合わせて読むと2度おいしいです。



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ヴェトナムでの (ふらいんぐふりーまん)
2007-04-20 13:14:57
バイタクや手配師との値段交渉の戦い。まあ、ヴェトナムに限らず、アジア貧乏旅行の定番といっても差し支えないよね。

最初は法外な値段に怒りが先行するんだけど、慣れてくると向こうも生活の為必死であることが分かってきたりして、自分が納得できる値段に着地できればいいやというスタンスになるよね。そうなると、無駄に怒る事も無くなっていった気がするよ。

今アジアを旅行したとすれば、もっと余裕を持って値段の交渉に挑める気がするなあ。ま、それだけおっさんになったってことだろうね。
倍タク。 (熊猫刑事)
2007-04-22 04:15:25
ヴェトナムで厄介だったのはやっぱバイタクだったね~。公認か非公認かしらないけれど、本当にそういう職業があるんだろうか。

しかし、料金に関して最初の提示額はおよそ市価の2倍、いや3倍だな。

バイクのドライビングテクニックについてはヴェトナム人は折り紙付きだと思うけどね。

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