居酒屋放浪記NO.0025～立ち飲み屋の流儀～「Cuvee」（千代田区内神田）

　 いやぁ、くたびれた。１万6,000歩も歩いちゃったよ、今日。貰った歩数計を早速つけてみたんだけれど。このくらいは普通歩いているものなかのねぇ～。
　 しかし、台場は蒸してたなぁ。あそこは埋め立てだから、地下の水分で余計に蒸されるんだろうねぇ。ビッグサイトで行われていた某展示会を取材の後、神田にある会社に帰ってきたんだけれど、１日中歩き回ったのと、この暑さとでもうへとへと。
　
　というわけで、編集部のH氏とびあ～っとビアーを飲みに行こうということになり、出かけたのは会社から徒歩1分、「Cuvee」というお店。

　 「Cuvee」と書いて「キュヴェ」と読む。実はこのお店、昨秋頃オープンしたのだが、今日の今日までわたしは「キュービー」と読んでいた。あの、10分1,000円の散髪屋QBハウスと同じなのか、と思っていたのである。
　 しかも、このお店、今巷で噂の「立ち飲み屋」なのだ。いやいや、「立ち飲み屋」と言ってしまっては語弊がある。正確には「スタンドバー」だ。店の看板にもしっかり書いてある。だが、店の脇にある別の看板には「立ち飲み処」とも記されている。見たところ、小ぎれいでお洒落な感じだから、「立ち飲み処」という体裁ではない。この辺はしっかりと神田のお父さんにもアピールしているんだろうなぁ。

　 お店の看板にはこうも書いてある。「ワインと地酒の店」と。
「一体、どっちなんや！」とブッチャーの地獄突きを咽喉仏の手前で寸止め！まさにそんな心境なのである。しかし、こういう二極化のユーザーを取り込もう、なんて虫が良すぎる、と思いながら、この半年間この店に近寄らず敬遠していたのだが、今宵はふらふらとビールの魔力に吸い寄せられてしまったわけなのだ。

　 店に入ると少し薄暗がりになっており、クーラーが効いていて涼しい。普通のおっさん系立ち飲み屋ならこうもいくまい。おっさんの放熱で蒸し暑く加齢臭が漂う。ぎとぎとの脂汗が滴り、テーブルは食べかすや飲み散らかしで汚れているはずだ。だが、キュヴェは涼しげな風にジョン・コルトレーンが流れ、きれいなお姉さんが優しく、ホント丁寧に応対してくれるのである。この対応は居酒屋CS度コンテストでかなり高得点を獲得するであろう。
　 こうした見事な演出が、驚くことに二極化のお客を取り込んでいるのである。若い子たちとおっさん隊の絶妙なる共存だ。

　 飲み物もワインからバーボン、焼酎に地酒まで幅広い。つまみはスティックポテトフライにトルティーヤチップス、チーズの盛り合わせ、など完全に趨勢はスタンディングバーだ。
　 こうして我らおっさん組も入り、一番手前の丸テーブルに陣取った。既に18時を回ったため、ハッピーアワーも終了してしまったようでビールを頼んだ。
　 キュヴェのサービスタイムは割りとすごい。ビールを除く飲み物が半額である。
　 例えば、ハウスワインが185円。芋焼酎の「大魔王」が200円といった具合である。
　 むむむっ。今度17時ダッシュをかけてがぶ飲みしてみるか。

　さて、生ビールを頼んだおっさん二匹は運ばれてきたジョッキに手をかけ、乾杯と同時に咽喉を鳴らし一気に半分ほど飲んだのである。「いやぁっ、たまらんちゃー」などと、一体どこの人間かよ、と突込みが入りそうな叫びを周囲に漏らし、蒸し暑い梅雨どきの夕刻に極上のビールタイムを迎えたのである。

　 このお店はオーダー制である。お姉さんを呼びつけ、注文するシステムだ。お会計は最後まとめてである。立ち飲みスポットによってシステムが違う場合があり、注意が必要だ。
　 早々に杯を片付けたわたしとH氏はすかさず2杯目を頼み、つまみは冷やしトマトを選択した。二杯目もングングと咽喉鳴らしのピッチは遅くなることもなく、今日の展示会の出来はどうだったのか、とかどこどこの展示物がよかった、だとか一通り話しをすると、2杯目の生は跡形もなく消えてしまったのである。
　 それを見ていた美人のおねえさん、間髪入れずに「お飲み物は何にいたしましょうか」と擦り寄ってくる。我々はほぼ二人同時に「ごちそうさま」「お勘定を」と財布に手をかけた。そんな我々の行動が以外だったのか、お姉さんはややひるんだが、すぐさま笑顔で「ありがとうございました」とお礼を述べる。

　たとえ、「スタンディングバー」と名前を変えてはいても、サッと飲んでサッと帰る。これが立ち飲み屋の流儀だ。