伊勢崎市議会議員 多田稔(ただ みのる)の明日へのブログ

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「地域再生の政治経済学 」 神野 直彦

2014-11-20 20:25:39 | 政治・政策・経済
高崎経済大学で第74回産業研究所公開講演会
「地域再生の政治経済学」
が開かれ参加しました。
講師は神野直彦さん。

日 時  平成26年11月20日(木)14:20~15:50
会 場  高崎経済大学
講 師  東京大学名誉教授 神野 直彦 氏
演 題  「地域再生の政治経済学」



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(神野教授のレジメの一部)

詩人・画家のスティッグ・クレッソンの言葉

第2次大戦後、スウェーデンは豊かな国となり、
人々が「繁栄」と呼ぶ状況を生み出した。

(中略)

人々は大きな単位、コミューン(市町村)を信じ、
都市には遠い将来にわたって労働が存在すると信じた。

私たちは当然のことながら物質的には豊かになったが、
簡単な言葉で言えば、平安というべきものを使い果たした。

私たちは新しい国で、お互いに他人同士になった。

小農民が消滅するとともに、小職人や小商店が、そして、
病気のおばあさんが横になっていたあの小さな部屋、
あの小さな学校、あの子豚たち、
あの小さなダンスホールなども姿を消した。

そういう小さな世界はもう残っていない。
小さいものは何であれ、儲けが少ないというのが理由だった。

なぜなら、幸福への呪文は<儲かる社会>だったからだ。


(多田感想)

これはスウェーデンの状況ですが、
日本も同様という意味で、
神野教授が紹介されたのだと思います。

儲けを追求した結果、
小さな経済の仕組みは非効率ということで
消えてしまいました。

その結果、私たちは他人同士になり、
平安も失いました。



1 二つのレールム・ノヴァルム

「レーノム・ノヴァルム」とは、ローマ法王が
世界に発信する文書です。

宇沢東京大学名誉教授が文書の副題を考えました。
 1991年「社会主義の弊害と資本主義の幻想」

これに対応するかつてのレーノム・ノヴェルムの副題。
 1892年「資本主義の弊害と社会主義の幻想」



2 希望と楽観主義で歴史の「峠」を越える

・やさしさ、謙譲、心のゆとり
・「強盗文化」とはあらゆるものを、欲望の赴くままに
 自分のものにしてしまう傾向が支配的な文化
・存在欲求=人と人、人と自然との関係で充足される欲求=幸福の実感
・所有欲求=自然を所有することによって充足される欲求=豊かさの実感
・工業社会=存在欲求を犠牲にして所有欲求を充足した社会



3 「いつか来た道」としての「地方再生」

平成26年9月12日
まち・ひと・しごと創生本部決定
基本方針(案)


 1 基本目標
 地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する。
 そのために、国民が安心して働き、希望通り結婚し子育てができ、将来に夢や
 希望を持つことができるような、魅力あふれる地方を創生し、地方への人の流れ
 をつくる。人口減少・超高齢化という危機的な現実を直視しつつ、景気回復を全
 国津々浦々で実感できるようにすることを目指し、従来の取組の延長線上にはな
 い次元の異なる大胆な政策を、中長期的な観点から、確かな結果が出るまで断固
 として力強く実行していく。

 2 基本的視点
 50 年後に1億人程度の人口を維持するため、「人口減少克服・地方創生」
 という構造的な課題に正面から取り組むとともに、それぞれの「地域の特性」
 に即した課題解決を図ることを目指し、以下の3つを基本的視点とする。

(1)若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現
(2)「東京一極集中」の歯止め
(3)地域の特性に即した地域課題の解決




4 成年式を迎えた地方分権改革

4-1 地方分権の推進に関する決議(H5.衆議院、参議院)
 国民が待望するゆとりと豊かさを実感できる社会

4-2 地方分権の推進に関する意見書(地方6団体)(H6)
 地方公共団体の果たす役割への期待が高まる
 地方公共団体が、迅速・機敏に、きめ細かに
 その責務を果たすために、より足腰を強めて「自立する」

4-3 地方分権推進法(H7)
 (目的)第1条
  国民がゆとりと豊かさを実感できる社会を実現する



5 「人間を手段とする社会」を目指すと、人間は人口になる
 昭和14年の『結婚十訓』    「産めよ増やせよ国のため」
 昭和16年の『人口政策確立要綱』「1960年に人口は1億人達成」



6 「脱工業化」と「逆都市化」
6-1 人口爆発の工業社会の終焉


6-2 日本の人口移動

・高度成長期は、地方から東京へ低所得層が移動、集中。
・1961年が地方からの転出超過のピーク。
・1973年には、工場の地方移転を進めたので人口も地方へ移動。
・1980年代のバブル期には、再び東京へ移動。
・バブル崩壊後は人口流れは地方へ。
・1990年代後半から、工場は海外へ移転し、
 大企業の管理・研究部門が東京へ集中。
 このことにより、今回は高所特層が東京へ集中の流れ。

(多田注)
神野教授は、以下のように人口の変動は
産業構造の変化に伴って起こると考えておられるようです。

 高度成長期の日本は、工業化社会だったので、
 大量生産・大量消費が基本であり、
 人口が多いほど有利だったので人口が増えた。

 現在の日本は、製造は賃金の安い外国で
 製造した方が国内で作るよりも有利なので脱工業化の段階。
 国内の人口が多くても他国との経済競争において有利にならない。

 環境が耐えられる負荷で見れば、
 日本の国土に対する適正人口は7000万人という説もある。




6-3 逆都市化現象
リクルートの調査によれば、
2009年の大学生は大学進学時に地元に残りたいは39%だったが、
2013年時には、48・7%に上昇した。

6-4 地域への永住意識
将来ずっと今の地域に住みたいかという調査では、
日本の青年は第7回調査時点では、
「住んでいたい」は33%だったが、
第8回時点では、43%に上昇。

6-5 失業率
1位 沖縄県 6.8%
2位 大阪府 5.4%
3位 青森県 5.3%
4位 北海道 5.2%
5位 福岡県 5.2%
6位 宮城県 4.8%
7位 京都府 4.7%
8位 兵庫県 4.6%
9位 東京都 4.5%
10位 神奈川県 4.4%

39位 群馬県 3.4%

44位 三重県 3.2%
45位 富山県 3.0%
46位 福井県 2.6%
47位 島根県 2.2%

(多田注)
日本の人口減少が進めば、
東京一極集中が進むという意見もあるが、
神野教授はそんなことはない、という見解。

 脱工業化社会は、
 知的・クリエイティブな仕事が主になる。
 すでにヨーロッパでは、環境の悪い都心ではなく、
 郊外の環境の良い場所に、知的な仕事や大学
 研究機関などが移動している。


 
7 オムソーリとラーゴム

スエーデンの考え方
 オムソーリ=悲しみの分かち合い 
       対人社会サービスの理解(福祉・医療・教育等)

 ラーゴム=中庸  豊かさもほどほどが良い

・「所有欲求」から「存在欲求」の充足へ
 豊かさの追求から幸福の追求へ

・蓄える美徳から、与える美徳へ



8 コモンズの再生=協力社会の創造によるまちづくり

「市場拡大・政府縮小」から「社会拡大」戦略へ

・1996年「ヨーロッパ・サスティナブル都市最終報告書」
 工業によって高配した都市を人間の生活場として再生する。

・市場主義にもとづく都市再生の大失敗

・自然環境の再生と地域文化の再生

・生活様式としての文化の復興→市民の共同事業としての教育振興

・ヨーロッパでは都市の中心部にカフェなどがあり、
 人出が多い時は、人の交流を優先するため、
 郊外に駐車させて中心部への車の流入をストップさせる。

・地下鉄は止めて路面電車にすれば、安くて
 人の交流や買い物も活発になる。

・人間の生活の場の再創造
 人類の生存可能性を破壊するグローバリゼーションへの対抗戦略

・近視眼的な景気回復や経済成長を追及するのではなく、
 合い言葉は「ゆっくり、冷静に」



9 「量」の経済から「質」の経済へ

・自然資源多消費型の大量消費の限界

・熱力学
 第1法則 エネルギーの量は一定、生産も消費もできない
 第2法則 エネルギーは条件により、仕事の能力や質に差がある
 
 「家の中を電気で暖めようとすることは、
  電動ノコギリでバターを切るのと同じくらい愚かなことだ」     
               エイモリー・ロヴィンス

・量から質へ置き換えるのは人間の知識
 
 わたしは日が照っていないときでも 
 太陽の存在を信じます

 愛を感じることができなくても
 愛の存在を信じます

 神が沈黙しているときでも
 神の存在を信じます

 (第2次大戦で爆撃されたケルンの地下室にしるされた言葉)

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(講演、ここまで)
        

        
(多田質問)

グローバル経済の中で、無関税の自由貿易をしていては、
地域経済が成立しないのではないか?
コモンズ経済を作るには、道洲制やブロック経済が
有効と思うが先生のお考えは?

神野:
・グローカリゼーションという言葉があるように、
 経済がグローバル化すればするほど、
 同時にローカル化しなければならない。

・地域に根をはった人間の生活を実現するには
 地方分権を進めなければならない。

・グローバル経済の荒波に対抗するには、
 一極集中ではなく、分散した方が良い。

・先に地域経済が自立して回るようにする。
 道州制の器は、あとでもよい。

・今後世界がどうなるか見えない。
 アメリカを中心とした世界秩序はこれで崩れた。
 多極化していく。

 可能性①帝国台頭:中国やロシア

 可能性②国民国家(今の国家):グローバル化に揺られている。
 
 可能性③都市国家:EUのように、自立した地域経済が緩やかに連合

 可能性④ブリクス台頭:帝国、インド、ブラジルなど

・私たちが今後の歴史をどうつくっていくのかだ。
 まず身近なところからコモンズのようなものを作っていくことが
 グローバル化して行く世界の中で、
 荒波から守っていくことになる。 


(会場の質問2:自治体の合併の問題)

地域の生活が完結するということは、地域の中に
 必要なものが全て揃っているということ。
 それが欠けていれば人口は流出する。


・自治体は合併する前に、メリットがあるか考えよ。
 コミュニティは家庭のようなもの。企業とは違う。
 
・隣の家同士が合併すれば、冷蔵庫もテレビも一つで足りる。
 しかし生活習慣が異なればうまくいかない。

・フランスは5千万の人口なのに、市町村は3万5千ある。
 しかし合併はしない。
 ゴミ処理などは広域連携しているが、教育など身近なサービスは
 小さな自治体が身近なところで意思決定している。


 
(多田感想)

・資本主義経済の限界が見え、
 産業構造や経済体制、価値観など
 大きな転換期に来ているという
 神野教授の意見には私も同感です。
 
・私の質問に対する先生の回答は衝撃的でした。

 今後世界がどうなるか見えない。
 アメリカを中心とした世界秩序はこれで崩れた。
 多極化していく。

 可能性①帝国台頭:中国やロシア
 可能性②国民国家:グローバル化に揺られている。
 可能性③都市国家:EUのように、自立した地域経済が緩やかに連合
 可能性④ブリクス台頭:帝国、インド、ブラジルなど
 
 アメリカを中心とした世界秩序がすでに崩れた
 という先生の発言にはビックリしました。
 そのような感覚は感じていましたが、
 はっきりと言い切ってしまわれるほどとは。

 次の秩序が出来上がるまでは、
 混沌期、カオス状態です。
 その中で、どの勢力が台頭してくるのか?
 先生は4つの可能性を提示されました。

 日本の財政や、現在の世界経済という
 狭い範囲でなく、今後の世界という
 空間的にも時間的にも広い視野から
 貴重なヒントをいただけました。
 ありがとうございます。





 
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