とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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LHC 7TeV実験:「質量の起源探し」開始!

2010年03月31日 20時55分36秒 | 物理学、数学
掲載画像:7 TeV実験で得られた画像(LHCアトラス実験オフィシャルブログより)

正確な言い方ではないが「質量の起源」とは、つまり「どうして重いものほど動かしにくいのか?」ということだ。実はこれだけ科学が進歩している現代でも、こんな基本的なことの理由がわかっていないのだ。

物理学で物質の質量は m や M という文字であらわされる。

アイザック・ニュートンは17世紀に著書「プリンキピア」で幾何学を使ってニュートンの運動方程式(力 F と質量 m、加速度 a の関係)や惑星の運動法則、万有引力の法則などを導いた。

ニュートンの運動方程式(力と質量、加速度の関係):



万有引力の法則:



けれども、ニュートンの運動方程式は質量と他の2つの量との数値的な関係を示しているだけで、質量 m がどうして発生するのかについては何も言っていない。質量ははじめから存在していると仮定しているにすぎない。また、万有引力の法則に含まれる m や M であらわされる質量についても解明されていないという点では同じだ。

20世紀に入ってアインシュタインは特殊相対性理論で「質量 m とエネルギー E は等価である。」とする次の関係式を導いた。

エネルギーと質量の間に成り立つ関係式:



しかし、これもエネルギーと質量の間の変換比率を示す関係式であって、そのからくりや質量の起源を示しているわけではない。

アインシュタインの一般相対性理論から導かれる重力場の方程式にしても同じことだ。

重力場の方程式:



この方程式で「エネルギー - 運動量テンソル」Tの中にエネルギー E が含まれていて、エネルギーと等価なことがわかっている質量は、Tの中に隠れていることになる。けれども、質量の起源について得られる情報は何も含まれていない。

さらに、20世紀に発展した量子力学の基礎方程式のひとつである「シュレディンガーの波動方程式」から「エーレンフェストの定理」によって、ニュートンの運動方程式 を導くことができる。量子力学はミクロの世界の力学理論だ。

エーレンフェストの定理:
http://eman-physics.net/quantum/expectation.html
http://www.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld2/2Part2/2P23/classical_theory.htm

エーレンフェストの定理による量子力学的なニュートンの運動方程式:


これにしても、質量 m は起源が明らかになっていない。なぜならエーレンフェストの定理を導くためのもとにした「シュレディンガーの波動方程式」の中に質量 m は既に含まれているからだ。

シュレディンガーの波動方程式:



現在、最先端の「量子重力理論」も現時点では証明されているわけではない。つまり「質量」という力学の根幹をなす概念は解明されていないのだ。

そして、現在唯一の理論的なよりどころとなるのが素粒子物理学でその存在が予想されている「ヒッグス粒子」なのだ。この粒子の存在がLHCの加速器実験で検出されれば、質量の起源も明らかになるそうなのである。

そのような状況の中で、今日この巨大加速器で衝突させるエネルギーがこれまでで最大の7 TeVに達した。エネルギーが大きければ大きいほど未知の粒子が発見される可能性がでてくる。今後の実験と検証によって「質量の謎」をはじめ、多くの発見がなされることだろう。せっかく巨資を投じているのだから、順調に進んでほしいものだ。

ヒッグス粒子やLHC実験についてもう少し知りたい方はこちらをご覧いただきたい。

やさしい「LHCでの物理」入門
http://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/~asai/lhc2/Main_atlas.html

数式入りで詳しく知りたい方はこちらのサイトでどうぞ。特にヒッグス粒子やヒッグス機構はこのページで説明されている。

リニアコライダーの物理(高エネルギー加速器研究機構)
http://www-jlc.kek.jp/general/DOC/oho95-html/oho.e.html

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「質量の起源探し」開始 ビッグバン状態再現する加速器「質量の起源探し」開始 ビッグバン状態再現する加速器
朝日新聞
http://www.asahi.com/science/update/0331/TKY201003310250.html

【ワシントン=勝田敏彦】宇宙誕生の「ビッグバン」直後の高温・高密度状態を再現する世界最大・最強の粒子加速器LHCで30日午後、衝突エネルギー7兆電子ボルトの陽子衝突実験に初めて成功し、物理的な観測データの採取に入った。運営する欧州合同原子核研究機関(CERN)が同日、発表した。
このエネルギーでの実験はLHCの初期の大目標で、質量の起源とされる「ヒッグス粒子」や正体不明の暗黒物質の候補粒子探しなどが始まった。発見されればノーベル賞級の成果となる。
スイス・フランス国境にあるLHCは2009年11月の運転再開以来、陽子のエネルギーを上げながら性能の確認を続けてきた。この日の衝突エネルギーは米の加速器テバトロンが01年に作った世界記録の約3.5倍。今後、7兆電子ボルトでの実験を2年ほど続け、約1年かけて改良工事をしたあと、13年ごろ最終目標の14兆電子ボルトでの実験に入る。

LHC 7TeV実験はじまる(LHCアトラス実験オフィシャルブログ)
http://d.hatena.ne.jp/lhcatlasjapan/20100330/1269953857

ついにLHC稼動!!(2008年9月11日)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cf96eca23876019ea2a5b343b3ff21a7

待ちに待ったLHC再稼動!(2009年11月24日)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e5eb49a31dbb647102cc02d012b965ea


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