とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

量子力学を見る:外村彰

2011年06月02日 13時00分17秒 | 物理学、数学
量子力学を見る―電子線ホログラフィーの挑戦:外村彰


------ カバー裏の紹介文 -------------------------------
量子力学によると、電子や光子は波であるとともに粒子でもあるという。だが、いったい誰がそれを見たのだろうか。朝永博士もファインマン博士も、それを直接示す実験は不可能だと言った。しかし、著者はそれを見事にやってのけた。世界最高の電子線と電子線ホログラフィー技術を武器に、アハラノフ-ボーム効果を実証し、さらに超伝導体中の量子に挑戦している著者が、数々の貴重な写真によって量子の世界の本質を見せてくれる。話題を呼んだイギリス王立研究所での金曜講話をバージョンアップして紹介。
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前回記事にした「量子現象の数理:新井朝雄(第3章)」の中で紹介されていた本である。1995年に刊行された110ページほどの小型本。有名なのでご存知の方が多いことだろう。

不思議な量子力学の世界を写真や映像で見せるということについて、著者の外村先生はパイオニアであり先生の右に出る人はいないであろう。それを可能にしたのが日本が得意とする超微細なスケールでの加工技術だ。

本書で紹介されている「二重スリットの実験」や「アハラノフ-ボーム効果」、「磁束量子」の代表的な写真は次のページでご覧いただける。

ナノネットインタビュー(株式会社日立製作所 フェロー 外村 彰 氏)
量子力学を超えるもの~ホログラフィ電子顕微鏡の挑戦~
http://www.nanonet.go.jp/japanese/mailmag/2003/009a.html

量子現象の数理:新井朝雄(第3章)」のアハラノフ-ボーム効果の箇所では「数学モデルとして磁場としてはN個の特異点にデルタ関数的に集中している極めて特異な場合」について想定していた。どうしてこのような不自然なモデルを使っていたのか僕は腑に落ちなかったのだが、本書を読んで納得できた。

つまり、このデルタ関数的に集中しているN個の特異点とは「磁束量子」のことだったわけだ。数学的な特異点が「磁束量子」の映像として美しく(そして可愛らしく)配列し、動きまわる様子を目の当たりにすることは、「納得」や「理解」を超えた「否定のしようがない証拠」を突き付けられたようなものだ。

「磁束量子」は意図して発生させたものではない。アハラノフ-ボーム効果の検証実験をしようとして創り上げた装置上で特定の条件のもとで自然に発生したものである。

通常は空間を連続的に満たす磁束たちが、超電導状態の金属を突き抜ける際に、1点に集中してしまう状況が発生する場合がある。このとき古典電磁気学的な磁束は「磁束量子」になるわけだ。「量子現象の数理:新井朝雄(第3章)」の中の数学的な証明でも「アハラノフ-ボーム効果が起きるためには磁束が量子化される必要がある。」という結論が示されている。


外村先生のこの本では一般的な波の性質の説明から始まり、質のよい電子波がどうして必要なのか、どのようにして質のよい電子波を作ればよいのか、数式を全く使わず一般の読者が容易に理解できるよう、実に明快な説明が見事なまでに積み上げられている。写真で見ると納得できるし、先生は言葉で説得するのも上手なものだと感心させられた。

前半のハイライトは「電子の二重スリット実験」だ。

有名な説明動画(日本語字幕付き)はこちら。(笑)



二重スリットの実験(日立製作所)
http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html

アハラノフ-ボーム効果:超伝導体の境界面に観察される磁束量子

磁束量子の動画(日立製作所)-> ぜひYouTubeにアップしてほしいと僕は思った。
http://www.hitachi.co.jp/rd/portal/highlight/quantum/movie/index.html

電子波で見る電磁界分布【ベクトルポテンシャルを感じる電子波】
外 村 彰
http://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/200012/20001201-1.html


物理学の実験というのは、結果を数値で示したり、それを分析したりして検証するのが普通なのだが、数値やグラフでなくこの本のように写真や動画で見せられてしまうと「百聞は一見にしかず。」、「一目瞭然」なのだ。

この本の良さは「一目瞭然」+「素人にもわかる解説」なのである。

アトムの物理ノート」のアトムさんも本書のレビュー記事をお書きになっている。そちらの記事も参考にしていただきたい。

「量子力学を見る 電子線ホログラフィーの挑戦」 外村彰著 (岩波科学ライブラリー)
http://letsphysics.blog17.fc2.com/blog-entry-479.html

本書の写真や(上記サイトの)動画を見ると、朝永先生やファインマン先生(そして既にこの世を去られた量子力学発展に貢献した大先生方)に見せてあげたいと多くの人が思うことだろう。

そして新井先生の数理物理学による証明と外村先生の写真と動画をお見せできれば、あのアインシュタイン先生だってきっと量子力学を受け入れてくれるに違いない。

外村先生が学習院大学の江沢先生と一緒に電子の二重スリットの実験の論文を発表したのは1989年。ファインマン先生がお亡くなりになった翌年のことである。アハラノフ-ボーム効果の検証実験は1982年6月に公表され、「完璧な検証実験」が発表されたのは1986年なのでファインマン先生もご存知だったかもしれないが、当時先生はスペースシャトル・チャレンジャー事故原因の究明で多忙を極めていたはずだ。

実のところファインマン先生はアハラノフ-ボーム効果を肯定的にとらえていた。それは「ファインマン物理学(5)量子力学」の第21章「古典的状況のもとでのシュレーディンガーの方程式:超電導ゼミナール」に超電導や磁束の量子化についての説明があることからもうかがえる。本書の英語版が書かれたのが1965年であったことを考えると、先生の直観と洞察の鋭さがあらためてうかがえる。


外村先生は昨年次のような本も刊行されている。ページ数も多くカラー写真が掲載されているようだ。こちらについても近々レビュー記事を書くつもりだ。

目で見る美しい量子力学:外村彰



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量子力学を見る―電子線ホログラフィーの挑戦:外村彰


目次

プロローグ

第1章:ファラデーと磁力線
第2章:波とは何だろうか
第3章:電子波の発見と量子力学
第4章:干渉性のよい電子線を創る
第5章:電子の裁判
第6章:磁石の中を見る - 電子線ホログラフィー
第7章:超電導の量子を見る

エピローグ - これからの研究
あとがき
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4 コメント

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雑誌 (のりボン dende)
2011-06-02 22:25:45
もう読まれているかもしれませんが,サイエンス社の雑誌の「数理科学」を読んでみてはどうですか?
この頃は易化が進んできていますが,それでも面白い話が多いです.


目で見る美しい量子力学:外村彰

↑の本は「数理科学」の連載記事として描かれていて,それを僕は拝見していました.このアハロノフ・ボーム効果の話がきっかけで論文が描けるので,僕には外村彰さんが光り輝いて見えています.この話を取り上げてくれていたので,嬉しくなってコメントを描かせてもらいました.
返信する
Unknown (コメントどうも!)
2011-06-02 22:55:01
とねさん、私の記事を紹介してくれて有り難うございます。
間違い箇所の指摘も感謝です。

外村博士の本、楽しいですよね!
返信する
Re: 雑誌 (とね)
2011-06-02 23:02:17
のりボンdendeさんへ

コメントいただき、ありがとうございます。
帰宅したら「目で見る美しい量子力学」が届いていたので、ニヤニヤしながら眺めているところです。
今回紹介した「量子力学を見る」が大幅にパワーアップした感じで、読む前からワクワクしています。

月刊誌の「数理科学」は以前から購読しようか迷っていました。自分の生活パターンや部屋のスペースをみながら決めたいと思っています。買った本は捨てられない人なので。。月刊誌などは特に今後電子書籍化するか、NewtonのようにWebで購読できるようになってほしいですね。
返信する
アトムさんへ (とね)
2011-06-02 23:07:11
どういたしまして!
「量子力学を見る」は一般読者でも十分ワクワクできる本だと思いました。会社で隣の席の同僚がたまたま理数系本好きな人なので、さっそくこの本を貸したところです。

理論系にしても、実験系にしても際立った成果をあげられる人はごく一部なのだと思います。外村先生のお人柄がより詳しくわかる「目で見る美しい量子力学」のほうも読むのを楽しみにしているところです。
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