とね日記

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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛

2019年07月25日 20時21分35秒 | 物理学、数学
相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
サポートページ)(参考書籍

内容紹介:
相対論とゲージ場の古典論を題材に、「ゲージ場の量子論を学ぶ心の準備」が整うように配慮したガイドブック。
本書では、古典力学や電磁気学や量子力学、線型代数やベクトル解析を聞きかじったことのある読者を対象に、現代物理学における相対論とゲージ理論の考え方の基本を、微分形式やリー代数の初歩といった数学を交えながら紹介します。特殊相対論とローレンツ群の表現、変分原理と解析力学、ゲージ対称性、多脚場とスピン接続といったトピックについて、その本格的な扱いや詳細に立ち入ることなく、ざっくりとその気持ちが伝わるような、軽めの解説をしました。これらを一通り目を通して頂くことで、現代物理学の標準言語である「ゲージ場の量子論」を学ぶための心の準備ができることを目指しています。

2019年5月24日刊行、174ページ。

著者について:
松尾衛(まつお まもる)
ホームページ: http://mmatsuo.com/
Twitter: @mamorumatsuo
2008年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻卒業。博士(理学)。現在、中国科学院大学カブリ理論科学研究所准教授。主にスピン角運動量を媒介とする非平衡現象の理論研究を行っている。


理数系書籍のレビュー記事は本書で420冊目。

通称「ねこ本」である。5月くらいからツイッターで話題になっていた。今年に入ってから志賀浩二先生の「ベクトル解析30講」(紹介記事)や「微分形式」という用語をタイムラインで頻繁に見かけていたが、この本の刊行と関係があるのかなと思っていた。

著者はツイッターで相互フォローをしていただいている松尾先生だ。日頃のツイートから本書にかける熱い想いが伝わっていた。

松尾先生のホームページには本書のサポートページがある。本書の「まえがき」の他、あとがきに相当する「第13章(最終章)」の一部をお読みいただける。また、本書の正誤表もサポートページの下のほうにある。初版の第1刷をお買いになった方は、ここを見て修正されるとよい。(すでに誤植が修正された第2刷が発売されている。)

ねこ本(相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く)
http://mmatsuo.com/ねこ本(相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く)/

先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」とも相性がよい。こちらは微分幾何学、微分形式から物理学へという流れ。そして松尾先生の本は物理学から微分幾何学、微分形式、解析力学という流れで進む。

また、本書の第9章あたりまでは既に学んでいるものが多く、本書の参考文献を確認したところ「やはりそうか!」と思った。一覧にあげられている本の何冊かをすでに読んでいたからだ。その中でも重要な本のうち読んでいないのは 須藤靖先生の本と内山龍雄先生の本だ。今年のうちに1、2冊は読んでみたい。

章立てはこのとおりである。

第1章 ガイドブックのガイド
第2章 「ちゃんとした」理論とローレンツ群
第3章 時空概念の変革
第4章 質点運動のレシピ
第5章 質点運動から場の運動へ
第6章 多重線型写像と添え字の上げ下げ
第7章 「ギョッとする」記法 -微小要素と線型写像の二面性-
第8章 ミンコフスキー時空上の微分形
第9章 特殊から一般へ
第10章 スピノル場の方程式
第11章 局所ゲージ対称性と非可換ゲージ場
第12章 動き回る物質の中の電子スピンたち
第13章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり

表紙や挿絵に描かれた猫が親しみやすい印象を与えるが、れっきとした数理物理学書だ。高校生にはもちろん読めない。古典力学や電磁気学や量子力学、線型代数やベクトル解析を聞きかじったことのある読者を対象に、現代物理学における相対論とゲージ理論の考え方の基本を、微分形式やリー代数の初歩といった数学を交えながら紹介する本だ。前提条件を満たす読者にとっては、とても読みやすい本である。

本書が読みやすい理由は、次の3つにまとめられる。

- 松尾先生ご自身が、本を買い漁っては解読に挫折、紆余曲折し、迷走に迷走を重ねた結果から得られたエッセンスをまとめた本、過去の自分に伝えたい情報をまとめた本であること。

- 取り上げているトピックについて、その本格的な扱いや詳細に立ち入ることなく、ざっくりとその気持ちが伝わるような、軽めの解説にとどめていること。

- ゲージ場の量子論に至るまでのガイドブックとなることを目指し、内容の本格的な取り扱いは、すべて参考文献に丸投げしていること。

特に僕好みだったのは、物理と幾何学の関係を重視しながら、解析力学的考察を深め、意味や論理的なつながりがわかるように書かれていることだ。そして初等的な電磁気学の教科書で学ぶ div、grad、rot、ラプラシアンなどの古典的なベクトル解析から微分形式へと自然に移行していることだ。

微分形式は、20世紀初頭にフランスの数学者のエリ・カルタン(多変数複素関数論、ホモロジー代数で業績を残したアンリ・カルタンの父親)が編み出した「究極の微積分法」である。この極限にまで簡略化された記法を使うことで、マクスウェル方程式やヤン-ミルズ方程式がシンプルに表現でき、それらのゲージ対称性を身近に感じられるようになる。マクスウェル方程式での例は「マクスウェル方程式を1本にまとめたのは誰?」という記事で紹介したことがある。

ゲージ対称性、ゲージ場の理論を本格的に学ぶには、九後汰一郎「ゲージ場の量子論 I・II」(培風館)やS.ワインバーグ「場の量子論」(吉岡書店)など本格的な教科書をお読みになるのがよい。けれども、このふたつはとても手強いことで知られている。いつかこれらの本にチャレンジするために、他の本で準備をしておきたい。その足掛かり、ガイド役となるのが本書なのである。

僕にとっては第10章からが目新しく、新鮮な気持ちで学ぶことができた。特に「重力場中のスピノル場」、「重力場と電磁場とスピノル場」はまったく初めてだった。そして「微分形式を駆使する解析力学」や内山龍雄による「一般ゲージ場」にも興味を持った。来月『龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者』という本が出るそうだ。(紹介記事


そして、本書には「共変解析力学」を使う本を中嶋慧さん(@subarusatosi)との共著『一般ゲージ理論と共変解析力学』(仮)(現代数学社)として準備中だと書かれている。共変解析力学というのは「微分形式の微分形式による微分」を駆使して定式化された解析力学という説明だ。この本で内山龍雄先生の『一般ゲージ場論序説』で扱われている内容を共変解析力学の立場から解説してくださるようだ。

目次はサポートページを参照していただきたい。

以下は中嶋さんによる解説だ。

『一般ゲージ場論序説』と関係するのが、8, 11, 13, 14, 16, 17, 18章です(18章にはワイルのゲージ理論の解説があるので)。16, 17, 18章では、共変解析力学(微分形式の微分形式による微分)は使わない予定です。

『一般ゲージ場論序説』はちょっと敷居が高いので、我々の本では敷居を下げたい、という狙いがあります。また、(ディラック場+重力場)系やその共変解析力学も敷居が高いので、案内が必要だと思いました。

このようなわけで、本書(ねこ本)は参考文献一覧がとても充実している。この一覧は「『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍」という記事にリンク付きでまとめておいたので、ご覧になっていただきたい。

物理の原理的な部分をたどりながら、基礎物理学の背後にあるゲージ理論の拡がりを実感できる本だ。ぜひお読みいただきたい。


------------------------
2020年9月30日に追記:

本書の続編とでもいうべき上で紹介した本が完成した。10月23日に発売。サポートページでは「まえがき」と「目次」を読むことができる。ぜひお読みいただきたい。

一般ゲージ理論と共変解析力学: 中嶋慧、松尾衛
サポートページ



関連記事:

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84e2122f4587cde561c3c5f3ed74f9a7

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ: 谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973

マクスウェル方程式を1本にまとめたのは誰?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/226568b2c27822fb9fdfdb088e7018d3

龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0648122c29b8413c5e13df83ff119756


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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
サポートページ)(参考書籍


第1章 ガイドブックのガイド
1.1 「局所ゲージ対称性」を思い描くために
1.2 本書の想定読者と構成

第2章 「ちゃんとした」理論とローレンツ群
2.1 「ちゃんとした」理論
2.2 2つの仮定とローレンツ変換
2.3 この宇宙に存在しうる「粒子」
2.4 群の表現の入り口

第3章 時空概念の変革
3.1 ローレンツ変換
3.2 ニュートン力学における相対性と絶対時間
3.3 速度の合成則とラピディティ
3.4 ミンコフスキー時空
3.5 線型変換で大切な 2 つの視点
3.6 ミンコフスキー時空からローレンツ多様体へ

第4章 質点運動のレシピ
4.1 荷電粒子の運動と電磁場の方程式
4.2 解析力学による抽象化の必要性について
4.3 作用積分と変分原理
4.4 解析力学の立場からニュートン力学を見直す
4.5 オイラー・ラグランジュ方程式の利点
4.6 連続対称性と保存則
4.7 ハミルトン形式の解析力学
4.8 特殊相対論的粒子の作用とラグランジアン
4.9 特殊相対論的粒子のハミルトニアン
4.10 質点から場への拡張
4.11 古典論から量子論への拡張

第5章 質点運動から場の運動へ
5.1 話の流れ
5.2 調和振動子の解析力学
5.3 1 次元連成振動子の固有振動
5.4 固有モードへの分解と実対称行列の対角化
5.5 1 次元連成振動子のハミルトニアン
5.6 質点系の連続極限
5.7 1 次元波動方程式の固有振動とフーリエ変換
5.8 場のハミルトニアン
5.9 相対論的場へ

第6章 多重線型写像と添え字の上げ下げ
6.1 電磁場のラグランジアン密度
6.2 双対ベクトル空間の成分表示
6.3 2 変数関数から 2 階テンソルへ
6.4 1 次変換としての 2 階テンソル
6.5 ユークリッド計量
6.6 いわゆる「添え字の上げ下げ」
6.7 4 元ベクトルとミンコフスキー計量
6.8 ローレンツ変換によるテンソルの変換性と縮約
6.9 共変形式のマクスウェル方程式

第7章 「ギョッとする」記法 -微小要素と線型写像の二面性-
7.1 2 次元ユークリッド空間上の接空間とベクトル場
7.2 2 次元ユークリッド空間の余接空間と微分 1 形式
7.3 3 次元ユークリッド空間上の微分形式の外積とホッジ双対
7.4 外積とホッジ双対の使用例
7.5 微分形式の外微分
7.6 微分形式の積分
7.7 外微分が変数変換に対して不変であるワケ
7.8 ポアンカレの補題

第8章 ミンコフスキー時空上の微分形
8.1 4 次元ミンコフスキー時空上の微分形式
8.2 微分形式を用いたマクスウェル方程式
8.3 電磁場のゲージ対称性

第9章 特殊から一般へ
9.1 一般相対論への接し方の一例
9.2 一般相対論の指導原理と数学表現
9.3 特殊相対論から一般相対論への道
9.4 一般相対論の数学的表現
9.5 ベクトル・基底・一般座標変換
9.6 平行移動・接続・曲率
9.7 質点の運動方程式
9.8 測地線方程式のニュートン極限
9.9 アインシュタイン・ヒルベルト作用
9.10 共変微分の非可換性とゲージ理論

第10章 スピノル場の方程式
10.1 いわゆるディラックのアクロバットと慣性系のスピノル場
10.2 重力場中のスピノル場
10.3 重力場と電磁場とスピノル場

第11章 局所ゲージ対称性と非可換ゲージ場
11.1 U(1) ゲージ理論
11.2 U(1) から SU(2) へ
11.3 Yang-Mills 場の作用積分

第12章 動き回る物質の中の電子スピンたち

第13章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり
13.1 全体のまとめ
13.2 ゲージ場の量子論への道
13.3 高度な本の序章をチラ見
13.4 微分形式を駆使する解析力学
13.5 参考文献リスト

索引

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