
CASIO fx-2 関数電卓、1972年
小学生の頃の思い出の電卓を先日入手することができた。
「算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)」という記事に書いたように、関数電卓というものに初めて出会ったのは僕が12歳だった1975年のことだ。新宿の京王デパートのショーケースの中に飾られていたCASIO fx-3(1975年)である。この電卓に心を奪われて、しばらくの間、毎週のようにデパートに行き、ショーケースを覗きこんでいた。
電話やカラーテレビ、ラジカセ、デジタル時計などは一般家庭ですでに使われていたが、これらはどちらかというと「電気製品」である。電卓は庶民が初めて手にした「知的に」使うことのできる「電子機器」だった。だから僕のような子供が夢中になったのは無理もない。
ルートやサイン、コサイン、タンジェントがついている電卓は、まさに「神様の計算機」。これを使って計算すれば宇宙のあらゆる謎がすべて解けるのだと僕は信じていた。
今回入手できたのは、fx-3のひとつ前の機種のfx-2である。神様の計算機の「お父さん」だ。僕がひとりで新宿に行けるようになったのは小学校高学年になってからなので、1972年、fx-2がデパートで売られていたとしても10歳の僕には知るよしもなかった。
「関数電卓博物館」のページでわかるように、CASIOの初期型の卓上関数電卓は、次の順番で発売された。
初代: fx-1(1972年):16関数、ニキシー管タイプ、32万5千円(詳細)
2代: fx-2(1972年):16関数、蛍光管タイプ、9万8千円。fx-1の表示管を蛍光管に変更し「廉価版」として発売した機種。
3代: fx-3(1975年):25関数、蛍光管タイプ、6万5千円
なお、ポケット型で廉価版の関数電卓は1974年のfx-10から始まり、次のページでわかるように小型軽量化、多機能化していった。(参考:fx-15の紹介記事)
カシオ関数電卓 (fx シリーズ)
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/2-casio/5-casiofx/casiofx.html
CASIO fx-2が発売された1972年は初代カシオミニが1万2800円で発売された年でもある。(この年の大卒初任給は5万4000円だ。)(カシオミニの紹介記事)
初代カシオミニとfx-2を並べてみた。(本記事の写真はすべてクリックで拡大する。)

届いたばかりのfx-2で遊んでいるうちに、次のことに気がついた。
1) 関数の有効桁数は8桁。
2) タンジェントには逆関数キーがあるが、サインとコサインや双曲三角関数には逆関数キーがない。
3) 常用対数 log の逆関数キーがない。
4) 指数関数はaのn乗のキーがあるが、nは自然数しかサポートされていない。つまり10の1.2乗など一般にxが実数の場合の「aのx乗」は計算できない。
5) 指数表示に対応していない。表示できるのは±12桁の小数、整数のみ。
2)から5)がサポートされて関数電卓として、ひとまず完成するのは、次のCASIO fx-3からなのである。
当時は既に初期のCMOSのLSIとICが使われていたのに、これだけの大きさがあったのだ。消費電力も7ワットで、AC電源を使う。

メイン回路基板。

中央の白いLSIで四則演算などの基本計算が行われる。

蛍光表示管と電源ユニット。蛍光表示管の下の3つの白いLSIで関数の計算が行われる。

操作キーの裏側。

さて、実際に動かしてみよう。
サイン、コサインの計算には2秒、立方根の計算は15秒くらいかかっている。チカチカ点滅しながら計算しているのを子供のころ見て「何て早いんだろう。。。」と感心していたものだ。
動画では、次の計算をしている。
計算例1)355÷113(円周率πの近似値)を計算
計算例2)sin 30とcos 30を計算
計算例3)tan 30を計算し、その結果をarc tan(tanの逆関数)で角度に戻す。計算結果の角度はラジアン単位(RAD)なので度(DEG)の単位に変換する
計算例4)ルート2を計算し、結果を2乗して元に戻す
計算例5)2の3乗根を計算し、結果を3乗して元に戻す
計算例6)e^1を計算し、逆関数 ln で戻す
計算例7)log 10を計算する
1970年代、80年代は目新しい製品が次々と発表され、そのたびに技術の進歩を実感できた時代だ。初代のiPhoneが登場したときに私たちはとても驚いたが、それに匹敵するくらい革新的な新製品を、今よりもずっと頻繁に目にしていたと思う。そしてそれらを手にすることで、快適で充実感あふれるライフスタイルが手に入るのだと多くの人が夢みていたのだ。
この「神様の計算機」も、当時のエンジニアや科学者にとっては、喉から手が出るほど欲しかったものだったに違いない。
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関連記事:
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王様の計算機 (CASIO fx-3、1975年)
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電卓を作りたいという妄想
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/01cf6bc6669bf0956a792bce292f97f1
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LED表示の関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-15、Panac S-1)
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プログラム関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-502P、fx-602P、fx-5800P)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c31d67db36639471e9bc3209f88b3de
ラジオを聞いた瞬間、とねさんに伝えなければと思ったもので・・・
CASIOfx-502P (1979)はFA-1という周辺機器と一緒に使うと、カセットテープに音楽を出力できたようです。
http://siv.jp/wifky.cgi?p=%5BFX-502P%5D+Contents
冨田勲さんがシンセサイザーを使って作ったデビュー・アルバム「月の光」を出したのは1974年のことだったそうです。このレコードと「組曲惑星」は僕も持っていました。
電卓本体から音が出ていたというわけですね!
コネクタの近くには、インタフェース系のLSI,メモリは白セラミックで、CPUもセラミックに、金色のキャップがついています。
ムカデ型の足は、ZIL(Zigzag In Line)とよばれていました。
論理計算は、下側の基板で、上側の基板は光電管用の電源やスイッチなど、アナログなのですね。 今では、一チップにMPUから、LCDドライバ、キーボードIFまで入っています。
算数チャチャチャは、聞き覚えていたので、Tanの計算が助かりました(笑)
加法定理などにも「咲いたコスモス、コスモス咲いた」のような覚え方があったようで..
これは、みんなの歌にはありません。
コメントありがとうございます。
このブログのアクセス数分析を見るかぎり「電卓系」の記事は人気がないのですが、このころの電卓に憧れた方がいらっしゃるのがわかって嬉しいです。
「咲いたコスモス、コスモス咲いた」という覚え方は、今日はじめて知りました。なるほどですね。