とね日記

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ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング

2018年10月08日 14時50分46秒 | 物理学、数学
ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング

内容紹介:
この宇宙はどうやって生まれ、どんな構造をもっているのか。この人類の根源的な問いに正面から挑んだのが「アインシュタインの再来」ホーキングである。難病と闘い、不自由な生活を送りながら遙かな時空へと思念をはせる、現代神話の語り部としての「車椅子の天才」。限りない宇宙の神秘と、それさえ解き明かす人間理性の営為に全世界の読者が驚嘆した本書は、今や宇宙について語る人間すべてにとって必読の一冊である。
単行本:1989年6月刊行、246ページ。
文庫版:1995年4月刊行、268ページ。

著者について:
スティーヴン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)
1942年、イギリスのオックスフォード生まれ。アインシュタイン以来の最も優秀な理論物理学者の一人と言われる。1963年、ケンブリッジ大学の大学院生だった21歳のときに、運動ニューロン疾患を発症し、余命2年と告げられる。しかし、その宣告を覆して優秀な研究者となり、かのアイザック・ニュートンも就任したルーカス教授職を30年にわたり務めた。王立協会フェロー、全米科学アカデミー会員であったほか十数個の名誉学位を持ち、1989年には名誉勲位を授けられた。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターに研究責任者として在籍中の2018年3月に死去。著作に『ホーキング、宇宙を語る』『ホーキング、未来を語る』『ホーキング、宇宙と人間を語る』など。

ホーキング博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で377冊目。

今年3月に亡くなったホーキング博士の代表作。うかつにも未読だった。そして読むのなら今がいちばんだと思った。

日本語版が刊行されたのは英語原書が1988年に刊行された1年後の1989年。世界的なベストセラーになり、もちろん僕もそれを知っていた。(日本語文庫版が刊行されたのは、地下鉄サリン事件の翌月、1995年4月である。)

なぜ読んでいなかったのかは、それなりの理由があったことを思い出した。もともと天文は中学から高校にかけて好きで、天文学や天文計算の本は読み漁っていたのと、ブルーバックス本で相対性理論も教養書レベルのことは理解していた。特に高校時代には小平桂一先生が訳された「現代天文学:A.ウンゼルト」という専門書を熟読していたから宇宙や天文学史の知識は十分あり、物理学系では量子力学や素粒子の知識だけ欠如していた。

また「ホーキング博士=ブラックホール研究の権威」であり、当時の僕にとってブラックホールなど、ほぼSFように思えてしまい、詳しく解説した本を読むことに意味があるとは思えなかった。そして、大学を卒業してから仕事が忙しかったのと、科学への関心が薄れてNewtonも毎月立ち読みでながめる程度の生活が、2006年あたりまでずっと続いていたのだ。

未読だったことの言い訳は、これくらいにしておこう。


本書の影響を受けて、物理学者や天文学者になった先生は相当数いることと思う。そればかりでなく、これに続くホーキング博士の著作は科学に関心がない一般の読者の心を惹きつけたことだろう。

昨日聴講した「深層学習と時空:橋本幸士先生」でも、ホーキング博士が1976年に発見したブラックホールの情報喪失(情報パラドックス)が取り上げられていたことからわかるように、博士がその後の物理学、天文学へ果たした役割は計り知れない。ブラックホールの研究は、基礎物理学の宿題である「量子物理と重力理論の統一」や「宇宙誕生の謎の解明」に直接結びついている。経緯についても「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」という記事で紹介したばかりだ。

カール・セーガン博士の『コスモス』など、ポピュラーサイエンス、科学教養書が1970年代、80年代にはすでに刊行、映像化されていた中で、ホーキング博士が一石を投じ、爆発的ヒットとなったのが本書である。

章立てはこのとおり。

第1章:私たちの宇宙像
第2章:空間と時間
第3章:膨張する宇宙
第4章:不確定性原理
第5章:素粒子と自然界の力
第6章:ブラックホール
第7章:ブラックホールはそれほど黒くない
第8章:宇宙の起源と運命
第9章:時間の矢
第10章:物理学の統合
第11章:結論―人間の理性の勝利

第1章から第5章までは、天文学史、相対性理論、量子力学、素粒子物理まで無駄なく速習しているので、初学者にはきついかもしれない。科学雑誌Newtonや大栗先生の「重力とは何か」から始まる「物理学3部作」などで予備知識をつけてからお読みなったほうがよいだろう。

面白くなるのが第6章のブラックホールから第8章の宇宙の起源と運命あたりから。ホーキング放射ブラックホールの情報喪失だ。本書刊行時には宇宙膨張は確認されていたものの、宇宙の加速的膨張は未確認だ。だから本書ではダークマターについては触れられているがダークエネルギーについては書かれていない。また、ビッグバンの特異点の解消のために提案された虚時間説無境界仮説についても解説されている。この4つがホーキング博士独自の学説だ。宇宙背景放射やインフレーション宇宙論は当時すでに確認、提唱され、その解説もされている。

本書刊行後、インフレーション宇宙論の発展、宇宙背景放射の精密観測、量子物理学、超弦理論などの進展により、ビッグバンの際の特異点は取り除く必要がなくなり、虚時間説は主張の根拠を失った。(参考記事:「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」)また、ホーキング放射は確認されたものの、ブラックホールの情報喪失に関しても、情報損失はないという決着がついている。

英語原書は1988年に刊行され、その後1998年と2011年に改訂されている。日本語訳は残念ながら1988年版の原書のままだ。翻訳を担当された林一先生は現在85歳になられている。

ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング」(1995年刊行)
ホーキング、宇宙を語る(単行本):スティーヴン・W. ホーキング」(1989年刊行)
 


英語版のその後の改訂が気になっている方も多いことだろう。日本のアマゾンから購入できる本を、ペーパーバックを優先して列挙しておこう。同じ版でもハードカバーとペーパーバックでは表紙が違うものがあるし、アマゾンのリンクからだと同じページで「ハードカバー」、「ペーパーバック」、「Kindle」をクリックしても、違う版が表示されてしまうので、僕が調べて整理した以下のリンクから購入されるとよい。

英語原書(ペーパーバック、ハードカバー)

英語版ウィキペディア(ページを開く)には各版の説明があるが、大きな違いがあるようには見えない。

1988年:初版

A Brief History Of Time (1988): Stephen Hawking」(ペーパーバック)


1998年:第2版:Chapter Ten Wormholes and Time Travel (第10章「ワームホールとタイムトラベル」が追加された)

A Brief History Of Time (1998): Stephen Hawking」(ハードカバー)


2011年:第3版:This new edition includes recent updates from Stephen Hawking with his latest thoughts about the No Boundary Proposal and offers new information about dark energy, the information paradox, eternal inflation, the microwave background radiation observations, and the discovery of gravitational waves. (無境界仮説、ダークエネルギーの新情報、情報パラドックス、永久インフレーション(Eternal Inflation)、宇宙背景放射の観測、重力波の発見 - ただし重力波が直接検出されたのは2015年9月だ。(参考記事))

A Brief History Of Time (2011): Stephen Hawking」(ペーパーバック)


そして今月、10月16日には新しい版の本が発売された。「無削除版」とあるがアマゾンの「なか見る!検索」をクリックしても他の版が開くので詳細はわからない。原書のどのタイミングの版を元にした無削除版なのかは、詳細が明らかになってから追記することにしよう。そして表紙は1988年版のものを使っているようだ。ただし、これも実際に届たのは違う表紙だった。

2018年:第4版(unabridged version 無削除版)

A Brief History Of Time (2018): Stephen Hawking」(ペーパーバック)


10月16日に発売されたペーパーバック版を注文してみた。表紙は以下の1998年版とほとんど同じである。そして内容はは2017年Kindle版と同じだ。(以下の表紙は届いたペーパーバック版を撮影したものだ。)



紹介記事を「A Brief History of Time (2017, 2018): Stephen Hawking」として投稿した。


英語原書(Kindle版)

どの版のリンクから「Kindle版」をクリックしても、購入できるのは2017年版だけである。これを通読してみたところ、2016年にLIGOで重力波が初観測されたことも含めて2017年までに発見されたことがAppendixにまとめて書かれていた。

A Brief History Of Time (2017): Stephen Hawking」(Kindle版)


紹介記事を「A Brief History of Time (2017, 2018): Stephen Hawking」として投稿した。


ホーキング博士の本は、日本語タイトルは原書とだいぶ違うので、対応関係を書いておく。

ホーキング、宇宙を語る(A Brief History of Time, 1988)
ホーキングとペンローズが語る 時空の本質(The Nature of Space and Time, 1996)
ホーキング、未来を語る(The Universe in a Nutshell, 2001)
ホーキング、宇宙の始まりと終わり(The Theory of Everything, 2002)
ホーキング、宇宙のすべてを語る(A Briefer History of Time, 2005)
宇宙への秘密の鍵(George's Secret Key to the Universe, 2007)
ホーキング、宇宙と人間を語る(The Grand Design, 2010)
ホーキング、自らを語る(My brief History, 2013)
ホーキング、ブラックホールを語る(Black Holes, 2016)
ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ(A Smooth Exit from Eternal Inflation?, 2017というホーキング博士の最後の論文の解説本)


関連記事:

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106


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ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング


第1章:私たちの宇宙像
第2章:空間と時間
第3章:膨張する宇宙
第4章:不確定性原理
第5章:素粒子と自然界の力
第6章:ブラックホール
第7章:ブラックホールはそれほど黒くない
第8章:宇宙の起源と運命
第9章:時間の矢
第10章:物理学の統合
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2 コメント

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Unknown (笑む3)
2018-10-15 12:03:35
亡くなったと報じられた後近所の書店でホーキング博士の本が平積みにされていました。
私は既に読んでいたので(理解出来たかは別として)「日本人は・・」と思って暫く人間観察していましたが、ホーキング本の前で立ち止まる人は殆どいませんでした。ラノベの前はJKやら昔JKが一杯なのに・・この辺りの文化レベルが知れる一件でした。
笑む3さんへ (とね)
2018-10-15 13:02:43
笑む3さんへ

コメントありがとうございます。
ホーキング博士が亡くなったとき、ツイッターでは話題になりましたがトレンドにあがるほどではなかったですね。その時点で訃報記事も投稿しましたが、先日の「リーマン予想が証明された?」のときのアクセス増には遠く及びませんでした。
博士の物理学への貢献は偉大ですが、晩年は人類が生き延びるためには他の天体へ移住しなければならないなど、スケールが大きすぎる話をしていたので、科学者だけでなく一般の人もついていけなかったからだと思いました。

世間一般の人の科学に対する関心はまったく足りていないと感じていますが、過去にくらべてどうだったかというと判断が難しいです。自分が中学、高校生のときも科学に関心がある人は少なかった気がしますし。ただ、2008年に南部先生、小林先生、益川先生がノーベル賞を受賞されたころよりは、関心が低下していることを実感しています。

あと、自分でもよくわからないのは、とね日記のアクセス数は年々増えつつあるのですが、それが世間の科学への関心の度合いと比例しているかどうか?また、もともと理系の素養のある人の関心の度合いと比例しているかどうか?ということです。

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