告 訴 の 趣 旨
被告訴人の下記所為は,刑法第169条偽証罪に該当すると思料されるので,被告訴人を処罰されるよう告訴する。
告 訴 の 事 実
被告訴人は,平成19年2月22日,高知市丸ノ内1丁目3番5号高知地方裁判所刑事法廷において,片岡晴彦に対する業務上過失致死被告事件(高知地方裁判所平成18年(わ)第552号)の証人として宣誓のうえ,検察官から尋問を受けた際,事故防止のためのパトロールで白バイを運転して,高知市側から春野町側に新倉トンネルを抜けた後の平成18年3月3日午後2時34分頃,高知県吾川郡春野町弘岡中付近において,
①「対向車線を高知市方面に向いて進行してくる白バイを見た」,
②「ほぼ同時にグローバルバイキングというレストランから道路に出てくるバスを見た」,
③「対向してきた白バイの速度は時速60キロぐらいだった」,
④「バスの速度は10キロメートルくらいだった」,
⑤「バスはずっと動いており,白バイもそのまままっすぐ進行していた」,
⑥「お互いがそのまま進行すれば,衝突すると思った」,
⑦「バス,白バイはそのまま進行し,白バイはやや右へ倒しながらバスをよけようとしたが,結局衝突してしまった」
等自己の記憶に反した虚偽の陳述をし,もって偽証したものである。
告 訴 の 事 情
1 本件偽証の及ぼした影響
被告訴人が証言(偽証)した上記業務上過失致死被告事件は,上記被告訴人のバスと白バイが衝突するまで,ずっとバスは動いていて白バイと衝突したとの証言とバスが白バイと衝突する前に急制動したことによって生成されたとされるスリップ痕との,2つの証拠,証言が片岡晴彦有罪判断の根拠となった。
高知地裁判決が認定し,最高裁まで維持された衝突前のバスの走行速度時速5ないし10キロメートルでは,物理的(科学的)に見て1ないし1.1メートルもの長さのスリップ痕が印象されることはあり得ない(時速10キロメートルで印象されるスリップ痕の長さは,路面の抵抗値をかなり広くとっても0.3ないし0.6メートルである)のであるが,確定判決はこれらの科学的観点からの矛盾を看過したままである。
このスリップ痕の(偽造の)問題とともに,白バイ隊員である被告訴人の証言(偽証)が誤判に至る有力な証拠となり,衝突前には停止して右折の機会を伺っており,従って何ら刑事責任を負ういわれのないスクールバスの運転手であった片岡晴彦に右方安全確認不十分の落ち度があるとして,業務上過失致死罪(白バイ隊員○○○死亡)による禁固1年4月という実刑判決が下され,確定することになった。
2 偽証内容について
(1)被告訴人の証言内容は,その全体が偽証であると思料される。
すなわち,被告訴人は上記事件において宣誓した証人として,吉岡力運転の白バイと片岡晴彦運転のスクールバスの衝突事故(以下本件衝突事故という)の目撃状況を証言するものであるが,被告訴人は本事故に至る経緯,すなわち,白バイとバスの衝突に至る経過を全く目撃してないと思われるのである。
それは,①見えるはずのないものを見たといい,②バスと衝突する直前の対向して走行してくる白バイの走行速度など正確に目視して判断できるわけもないのに,断定的に白バイの走行速度はおよそ時速60キロメートルであったと証言し,さらに,つじつまを合わせるためであろう,それまでの証言を前提とすれば見えたはずの衝突直前の白バイの状況について,バスに隠れて見えなくなったと証言するという,現場の物理的視認状況に反し(①),人間の能力として不可能なことを可能とし(②),バイクの走行特性やバスとの位置関係からしてあり得ない事実を供述する(③)などして,結果として全体的に事実に反して矛盾に満ちた証言(偽証)を積み重ねているからである。
(2)①の,「見えるはずのないものを見た」というのは,被告訴人の証言調書の56,57項に対向車線を高知市方面に向いて進行してくる,2輪のようなバイクを見た」,「中央分離帯の植え込み」の「間からチラチラとライトのようなものが見え」たとある点である。
植え込みの切れる点に白バイが出てきたときの被告訴人の白バイの位置は実況見分調書添付交通事故現場見取図の(ア)の位置であり(同調書59,60項),その時対向する白バイの位置はAの位置だという(同66項)。
被告訴人の白バイは時速50ないし55キロメートルで進行し(同41項),対向する本件白バイは時速60キロメートルくらいだという(同78項)。ところが(ア)点A点に至るまでの経路は,被告訴人運転の白バイの進行方向から見てゆるやかに左にカーブしており,道路脇の建造物や歩道街路樹,ポストなどの死角に入って,視認はほとんど不可能である。
被告訴人は,A点でいきなり白バイ、バスを見てから衝突するまで、3,4秒である。この間にバイクの走行速度を目視したと証言したのでは不自然だと考えてこのような証言をしたものであろうが,物理的に見えないものを見たと偽証しているのである。
(3)②に関しては,被告訴人は,右折しようとしていたバスと衝突する直前の白バイの走行速度をおよそ時速60キロメートルであったと証言(同78
項)しているが,自車を時速50ないし55キロメートルで運転走行中に,斜め前方右約17度の地点((ア)の地点)を対向して走ってくる白バイの速度が、3,4秒の間に、視認しただけで走行速度がおよそ時速60キロメートルであるなどと判断できるわけがない。
被告訴人は,白バイ隊員として,走行車両の速度を目視測定する訓練を受けている,白バイを決まった速度で走行させて目視し,別の白バイを走行させて速度誤差の目視能力を養う(同9項)といい,このような目視能力を養わないと「対向車線を走行する速度違反の車両を確認後,転回,追尾等して速度測定,取締りにあたることができない」(同15項)と供述するが,ここには論理の飛躍があり矛盾がある。
このような証言を真に受けてしまう裁判官の感覚に疑問を持たざるを得ない。
まず,「白バイを決まった速度で走行させて目視し,別の白バイを走行させて速度誤差の目視能力を養う」という方法で目視訓練による速度判定能力を身につけることはある程度は可能であったとしても,それは,白バイの移動状況を視認できる角度,位置に立って行う訓練であって,対向して相当速度で進行しながら,角度のない対向車両の速度を目視判断する訓練などあり得ないし,そのような方法で一定程度の正確性を持つ速度判断ができるようになるとも考えられない。従って,このような方法で正確な速度を判断することなどできないが,一定の経験のある白バイ隊員であれば対向車両の速度が,おおよそ早いか遅いか,制限速度違反ではないかといったおおざっぱな判断はできるであろう。しかし,そのことと対向車両の速度が時速何キロメートルかを目視判断できることとは全く別のことがらである。
もしも,被告訴人のいうように,目視訓練で対向して走行してくる車両の速度を正確に判断できるのであれば,「対向車線を走行する速度違反の車両を確認後,転回,追尾等して速度測定」する必要はなく,「対向車線を走行する速度違反の車両を確認後,転回,追尾」してそのまま検挙すればよい。
しかし,このような方法では被検挙者が争えば,すべての事件で違反の立証がないとして無罪となってしまうことは明らかである。であればこそ,実務ではこのような場合には,パトカー(または白バイ。以下同じ)が、速度違反の疑いありと狙いを定めたクルマの後ろ(真後ろや斜め後ろの死角)を等間隔で走り、「等間隔=等速度。よってパトカーの速度=〝獲物〟の速度」との論理で、パトカーの速度をストップメータで固定し、それを証拠として初めて検挙するのである。
このいわゆる追尾方式が追尾するパトカーの恣意的測定を許すおそれがあるとの問題はさておき,速度の認定には少なくともこのような証拠が必要なのであるから,確定判決が,被告訴人の証言(偽証)をもとに,確定判決で本件白バイの速度を時速60キロメートルと認定すること自体が誤りなのである。
(3)③の「それまでの証言を前提とすれば見えていたはずの衝突直前の白バイの状況について,バスに隠れて見えなくなったと証言する」というのは,被告訴人の白バイとバスが衝突する瞬間は見ていないが,白バイがバスに衝突する手前10メートルくらいの位置まで見えた,衝突する直前白バイは右にハンドルを切った(同100,185ないし188項)との証言(偽証)を指すものである。
ここでは被告訴人の偽証を裏づける2つの点の指摘が可能である。
第1点は,被告訴人の証言するようにバスが(時速約10キロメートルで)動いていて白バイと衝突したのなら,被告訴人運転の白バイの位置から見てバスは,歩道から,外側車線,内側車線,右折車線と徐々に,右方向から左方向に向けて進行してくるという位置関係にあるところ,バスの前部右角に衝突した白バイが10メートルも手前で被告訴人の視野の死角に入ることはないということである。添付資料にシュミレーションしてあるが,ほとんどぶつかる直前まで被告訴人の視野に入るのである。
おそらく,白バイがバスに衝突する手前10メートルくらいの位置まで見えた,衝突する直前白バイは右にハンドルを切ったというのは,バスと白バイが衝突する瞬間は目撃していない被告訴人が,事故後(直後)に目撃したバスの位置を前提として想起した事実を述べるものであると思われる。バスが既に右折車線の位置(上記交通事故現場見取図⑤)まで出てきて,停止していたのなら,被告訴人の上記供述は現場の位置関係,視野状況に合致したものとなる。バスが⑤の位置で停止していたのであれば,被告訴人から見て,白バイの衝突前,およそ10メートル手前でバスの視野に隠れて,バスが見えなくなるし,10メートル程手前で右に転舵したのであれば,白バイはバスに90度よりはかなり小さい角度で衝突したことになり,実際のバスや白バイの損傷状況に合致するからである。
従って,被告訴人のこの証言は目撃もしてない衝突の瞬間を想起してなす偽証であることを裏付けているともいえるものである。
第2点は,白バイが内側走行車線を走っていて,対向して走行していた被告訴人から見て確認できるほど右に回避したのなら,衝突地点は内側走行車線ではありえず,その右側の右折車線に入り込んでいたはずであり,この事実は,白バイがバスに衝突した地点は上記見取図⑤の地点に近い地点であって,すなわち停止していたバスに衝突したものであることを意味することになる。
これは,バイクの走行特性に照らせば容易に理解できることである。
著明な自動車事故の鑑定人であった江守一郎氏の著書「実用自動車事故工学」(技術書院)190頁に,「バイクのハンドルを右に切って安定した走行をするには,左方向に動く遠心力とつり合うため,車体を右に倒して走行しなければならないことはよく知られている。もし右に傾斜しないで走行すると,車両も乗員も左側に転倒する。」と説明されている。
対向して走行する被告訴人から見て,衝突前10メートルの位置で,白バイが明らかに「右に回避行動をとった」(同100項),「右に切っ」た(同187項))のであれば,白バイは右方向に進行し,元の進行ラインよりは明らかに右に移動した位置でバスの前部右角に衝突したはずであり,この証言を踏まえると,バスは上記見取図Xの位置ではなく,それよりも右側の同⑤の位置で停まっていたバスに衝突したものであると判断する方が理にかなうのである。