南シナ海問題で中国に最も強硬だったフィリピンが10月20日、中国との対立棚上げで合意した。
日米は領有権主張を巡る仲裁判断で「完全勝利」したフィリピンを軸に対中包囲網を構築しようとしたが、巨額の経済協力を武器にフィリピンを懐柔した中国の外交的反撃に敗北。
米国のアジア重視戦略に大きな痛手となり、アジアの地政学にも影響を与えそうだ。
「まもなく冬が到来する時期に北京へ来たが、われわれの関係は春だ」
中国の習国家主席と初の首脳会談に臨んだフィリピンのドゥテルテ大統領は冒頭、会談の成功を確信した様子でこう語り掛けた。
南シナ海でほぼ全域に主権や権益が及ぶとしている中国の主張は今年7月、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所に完全に退けられ、中国は国際的に大きな屈辱を喫した。
フィリピンが同裁判所に手続きを申し立てたのは習指導部が発足した翌年の2013年。
中国共産党関係者は「既に習指導部の時代で『フィリピンに申し立てさせてしまった習氏の責任』を問う声が党内部で上がった」と明かす。
失点を速やかに挽回しないと批判の火の手は政権基盤を揺るがしかねない。
習氏のこうした危機感が、フィリピンに対するなりふり構わぬ「札びら外交」にまい進させたと分析した。
大統領就任から2週間で下された仲裁判断をドゥテルテ氏は、対中外交の絶好の切り札と捉えた。
フィリピン外交筋は「中国の弱みを握った。 有効策を練るのは自然のことだ」と話す。
「友人にお別れを言う時だ。 わが国へのおまえ(米軍)の駐留は、おまえ自身のためだけだ」。
ドゥテルテ氏は10月19日の演説で、中国と関係改善し米国と距離を置く考えを強調した。
本来フィリピンにとって国は「仮想敵国」。
それでも同盟国・米国を突き放す決断を下したのは、東南アジアの他国から攻撃を受けることが想定されない中、中国と安定した関係を構築することさえできれば、米軍駐留は必要ないと計算した可能性がある。
さらに同外交筋は「大統領には中国人の血も流れている。 米国より心理的な近さを感じているのかもしれない」と指摘する。
2011年に政治・軍事・経済分野にねたるアジア重視戦略を開始したオバマ米政権にとっては、完全にもくろみが崩れた形だ。
2014年にはフィリピンと防衛協力強化協定を締結し、1992年に撤退した米軍の事実上の再駐留に向けた動きを活発化。
フィリピンを東南アジアにおける米国の橋頭堡にして、軍事拡張戦略を取る中国の封じ込めを図る思惑だった。
日本も今月、フィリピンの海上警備能力強化を通じて南シナ海問題で中国をけん制する狙いで巡視船を供与したばかり。
日米は抜本的な戦略見直しを迫られる事態に直面した。