日本政府が返還後の北方領土に関し、日米安全保障条約の適用外とする案を検討する背景には「北方領土への米軍駐留の可能性を排除しない限り、米国の軍事動向を警戒するロシアは引き渡しに応じない」とする情勢認識がある。
だがロシアの安全保障戦略への配慮とも言える同案を、米国が了承する保証はない。
難交渉を強いられるのは必至だ。
大国間のパワーゲームが領土問題に影を落とす。
ロシアにとつての北方領土の軍事的価値について、日本政府筋は「極めて高い」と指摘する。
ロシアの戦略的要衝であるオホーツク海に面しているためだ。
防衛省によると、ロシアは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦を周辺に配備し、即応態勢を維持している。
オホーツク海に展開するロシア軍の核戦力が、米国への抑止力になっているのは明らかだ。
それだけに、日本に引き渡した後の北方領土を米軍が軍事拠点とした場合、周辺におけるロシアの戦略的優位性は揺らぎかねないとみる向きが多い。
ロシアから見れば、千島列島と北方領土はオホーツク海から太平洋への出口をふさぐように連なる。
日口関係筋は「その北方領土を米国に明け渡すような事態をロシアが追認するはずがない」と予測する。
1960年の日米安全保障条約改定の際、旧ソ連は日ソ共同宣言に明記された色丹島と歯舞群島の引き渡しに、日本領土からの全外国軍隊の撤退という条件を新たに課してきた経緯もある。
北方領土を安保条約の適用外とする案は、こうしたロシアの事情をくみ取った「苦肉の策」と言える。
だが裏返せば、同盟国の米国の不利益につながるだけに、対米説得は指南の業だ。
ある政府関係者は「同盟関係の根幹を揺るがす話になるかもしれない」と語る。
海洋進出を強める中国をにらみ、日本の施政権下にある沖縄県・尖閣諸島を安保条約の適用範囲と認めるよう米国に求めてきた経緯も、重くのしかかる。
オバマ米大統領は2014年4月、安倍首相との首脳会談で、尖閣は安保条約の対象だと確認。
今年9月の日米防衛相会談でも同じ認識を共有した。
このため日本が北方領土へ米軍駐留を認めないことを条件にロシアから領土が引き渡される運びになった場合、米国がダブルスタンダード(二重基準)とみて反発するリスクは免れない。
実現への道のりは遠い。
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