国連総会第1委員会(軍縮)が、核兵器禁止条約の交渉開始決議を採択した。
「核なき世界」への着実な一歩だ。
しかし被爆国日本は、同盟国米国の圧力に屈する形で決議に反対。
国際社会と連帯してその一歩を踏み出すことができなかった。
舞台裏のせめぎ合いから浮かび上がったのは、核兵器廃絶への長く険しい道のりだ。
「被爆者を悲しませるようなことだけはしたくない」。
決議を巡る討議が国連で本格化した9月下旬。
日本政府高官は、被爆の実相を国際社会に訴えている日本の立場に根ざせば、決議に反対するのは説明がつかないとの考えを示した。
しかし10月に入ると風向きが変わった。
条約に反対する米国が、強力なロビー活動を展開し始めたためだ。
「核兵器禁止条約が防衛政策に与える影響」。
米政府が10月中旬「核の傘」の下にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国にひそかに配布した書簡だ。
日本政府当局者によると、米国は同様の文書を日本にも送った。
書簡は条約が核抑止力に深刻な影響を与える懸念を列挙。
「条約は第2次大戦以降、国際的な安保体制を支えてきた戦略的安定を崩す」と強い危機感を示した。
「棄権では不十分、決議に反対せよという脅しに近い内容。 核の傘の下にある国は従わざるを得ないと思った」。
国連の外交関係者は率直な感想を吐露した。
一方、日本政府内部でも核兵器禁止条約に対する厳しい見方がくすぶっていた。
「この決議は危険だ」。
保障問題に詳しい元閣僚は、日本を取り巻く情勢が核抑止を否定できるような環境ではないと指摘する。
念頭にあるのは国際社会の圧力にあらがって核・ミサイル開発を進める北朝鮮だ。
「北朝鮮に間違ったメッセージを送る。 隣で核をたくさんつくっているのに、核兵器を減らそうねといっても、それは受け入れられない」
核兵器禁止条約の骨子案に目を通した日本政府高官も「(米国が自国だけでなく同盟国のために核戦力を含めた軍事的抑止力を使用する)拡大抑止を明示的に違法としている。 米国の核の傘に安全保障を依存する日本として、決議に反対せずにいられるのか」と自問。
日本に反対以外の選択肢はないと強調した。
「核軍縮を目指している日本が決議に反対したのは、実に面白かった」。
決議に棄権した中国の傅軍縮大使は、冷ややかな表情。で日本の矛盾をやゆした。